2026年9月、俳優の中村ゆりさんが、直腸がんのため亡くなった。

【画像】貴重な20代の“茶髪ボブカット姿”、美しすぎるノースリーブドレス、最後の出演作では…中村ゆりさんの写真を全て見る

 来年(2027年)1月期放送予定のドラマ『デンジャラス』(NHK総合)では、吉岡里帆やオダギリジョーと共演することが第一報で伝えられていたものの、7月に腸閉塞のため降板を発表。まさかその約2カ月後に、こんなにも悲しい知らせを聞くことになるとは思わなかった。


中村ゆりさん(2022年、第35回東京国際映画祭のレッドカーペットで) ©時事通信社

 近年は特に出演作が相次ぎ、話題作のなかにはいつも中村さんの姿があった。間違いなく、いまの日本の映像界になくてはならない俳優の一人だったと思う。私もまた、中村さんの芝居に魅せられた一視聴者ではあるのだが、その足跡をたどりながら、彼女が作品に残してきたものを振り返ってみたい。

(※一部、作品の詳しい内容に触れています。未見の方はご注意ください)

14歳で芸能界入りし、歌手デビュー

 中村さんのキャリアは、意外にも歌手から始まる。1996年、14歳の時に『ASAYAN』(テレビ東京系)内のオーディションを経て、伊澤真理(MARI)と幼なじみデュオ・YURIMARIを結成。1998年にデビューし、6枚のシングルと1枚のアルバムをリリースするなど精力的に活動していたものの、翌年に解散する。

 中村さんはいったん表舞台を離れ、外の世界を知るため、単身ニューヨークへ渡る。約2カ月の滞在中にブロードウェイやオフ・ブロードウェイの舞台を目にしたことで、俳優業にも心惹かれていった。

「むかつきましたね」転機になった作品

 2003年から俳優活動を始めた中村さんにとって、2007年公開の映画『パッチギ! LOVE&PEACE』は大きな転機となった。

 中村さんは在日韓国人3世の父と韓国生まれの母を持つことを公表しているが、前作(沢尻エリカ主演『パッチギ!』2004年)を観た際、自身のルーツとも重なる物語に、なぜ自分が出演していないのかと感じ、続編のオーディションに挑んだという。

 井筒和幸監督から前作の感想を聞かれ、「むかつきましたね」と答えたエピソードは、穏やかなイメージの中村さんからはあまりに意外で、インタビューを見たときは驚いたものだった。

 そんな強い思いで射止めたヒロイン・キョンジャ役での演技が高く評価され、2007年度全国映連賞女優賞と第3回おおさかシネマフェスティバル新人賞を受賞する。

民放ドラマ初主演作では…

 テレビドラマで印象的なのは、やはり民放連続ドラマにおいて初主演作となった『今夜はコの字で』(BSテレ東、2020年/2022年)シリーズだろう。

 同名漫画(原作・加藤ジャンプ、作画・土山しげる)の実写化で、コの字型のカウンターを構える実在の酒場を巡るグルメドラマだ。中村さんが演じたのは、タッチパネル式の居酒屋ばかりに行っていた吉岡(W主演の浅香航大)に“コの字”酒場の魅力を教える憧れの恵子先輩。美人で酒豪で気さくな彼女に、吉岡は密かな恋心を抱いている。

 そう、中村さんといえば「きれいなお姉さん」なのである。「きれいなお姉さん」を演じたら、間違いなく5本の指に入る存在だ。その美しさは決して容姿だけの話ではなく、しなやかさの奥に確かな芯の強さを感じさせるところにもあった。大人の女性としての成熟や余裕まで含めて、中村さんの「きれいなお姉さん」は成立していたように思う。

 近くにいそうな親しみや生活感がある一方で、どこか手の届かない美しさもある。その絶妙な佇まいが、どんな物語にもすっと馴染んだ。

 キャリアウーマンはもちろん、母親やミステリアスな女性、若者の成長を見守る先輩、箱入り娘のお嬢様からデリヘル嬢まで。俳優とは、その身ひとつでどんな人間をも体現し得る存在なのだと、中村さんはあらためて教えてくれた。

40代に入り、恋愛ドラマで存在感を示した

 そして、近年の中村さんの出演作を語るうえで欠かせないのが、Netflix『さよならのつづき』(2024年)と『匿名の恋人たち』(2025年)だ。「20代、30代の頃は恋愛ものをあまりやっていなくて。この歳になってそういう役が増えてるのは不思議」と本人も語っていたように、年齢を重ねてから、恋愛ドラマへの出演も急増した。

『さよならのつづき』は、恋人の雄介(生田斗真)を事故で失ったさえ子(有村架純)と、彼の心臓を移植された成瀬(坂口健太郎)の数奇な運命を描く。中村さんが演じたのは、成瀬の妻・ミキ。愛する夫の命が救われたことを喜ぶ一方で、移植された心臓が夫を別の女性へと引き寄せていく。あまりにも複雑な立場に置かれる女性だ。

『匿名の恋人たち』は、まさに中村さんらのアラフォー世代が中心となったロマンティック・ラブコメディ。小栗旬と韓国で国民的人気を誇るハン・ヒョジュ、そして日本のテレビドラマには18年ぶりの出演となった赤西仁とともに、物語の中心を担った。

 中村さん演じるアイリーンは、心理カウンセラーでありながら、自身も重度のアルコール依存症を抱えており、ひとたび酒をあおれば手がつけられなくなってしまう。赤西演じる寛から長年思いを寄せられているものの、アイリーン自身もなかなか素直になれず、大人同士のもどかしい恋模様を繰り広げた。

「色気がありすぎる」という理由から、二人のベッドシーンは本編でカットされたものの、ファンからの熱いリクエストを受けてYouTube限定で公開。その結果、169万回以上再生されている(2026年9月現在)。

 いま第一線で活躍する俳優たちが40代を迎え、その世代の恋愛や人生を描く作品がますます増えていくであろうなかで、中村さんは間違いなく重宝される俳優の一人だったはずだ。

最後の出演作で見せた「人生の終わり」と向き合う姿

 そして、最後の連続テレビドラマ出演となった『終幕のロンド -もう二度と、会えないあなたに-』(カンテレ・フジテレビ系、2025年10月放送)と、最後の映画出演作となった『平場の月』(2025年11月公開)。

 前者は遺品整理を通して、亡くなった人と残された人の思いを紡ぐ作品であり、後者は再会した中年男女の恋愛を描く物語だ。いずれも、人生の終わりや限りある時間と向き合う作品だった。

 特に『平場の月』は印象的だった。中村さんが演じたのは、大腸がんで闘病する葉子(井川遥)の妹・道子。人知れず葉子が亡くなったことを知り、彼女が暮らしていた家へ駆けつけた青砥(あおと)(堺雅人)に、姉の病状や最期の日々を事細かに伝える役どころだったのである。

 当たり前のことかもしれないが、『終幕のロンド』にも『平場の月』にも、中村さん自身の体調や過去の病を重ね合わせるような素振りは一ミリもない。ただそこにあったのは、その役の人生を全うするプロの俳優としての姿だ。

 久しぶりに『今夜はコの字で』を見返したら、Season2の第1話で、イタリアに行っていたはずの恵子先輩が、ふらっとコの字酒場に現れていた。私たちが作品に手を伸ばせば、いつだってその人に会える。それは、俳優という仕事の素晴らしさでもある。

 でも、あまりにも早すぎる中村さんとの別れに、どうしようもない寂しさを感じてしまうのだ。

(明日菜子)