「社労士から見てどう思います?」…30代「転職活動中の女性」が求人票のある一言に「怖くなった」ワケ

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労務相談やハラスメント対応を主力業務として扱っている社労士である私が、企業や労働者から受けるご相談は年々多様化しています。

なかでも、働き始めてから「求人票で抱いた印象と、実際の職場がまるで違った」と気づくケースは少なくありません。給与や休日といった条件が違うこともあれば、「風通しがよい」「若手が活躍」「アットホーム」といった言葉から想像した職場像と、現実の働き方が食い違っていることもあります。 

今回は、いわゆる“やりがい搾取”と呼ばれるような環境で働いた経験を持つ依頼者から、転職先の求人について相談を受けた事例をもとに、「アットホーム」をうたう求人をどのように読めばよいのかを考えてみたいと思います。(なお、ご相談事例は個人の特定を防ぐため、複数のエピソードを組み合わせて再構成したものです)

求人票に違和感を感じた

「この求人、社労士の目線で見てどう思いますか?」

久しぶりに会ったAさん(30代・女性)は、応接スペースに入るなりスマートフォンを私に差し出しました。画面に表示されていたのは、地域イベントの企画や広報物の制作を行う小さな会社の求人ページです。一番上の目立つ所に会社PRの欄があり、下記のような記載がありました。

・社員は家族。アットホームで笑顔の絶えない職場です

・少数精鋭で、全員が助け合って仕事をしています

・仕事も遊びも全力。社内イベント多数

・やる気次第で幅広い仕事に挑戦できます

一方、肝心の仕事内容は「企画・広報・その他会社が必要とする業務」とだけ記され、残業については「あり」とあるものの、月平均の時間数は記載されていません。給与欄には複数の手当を含んだ総額が大きく表示されていましたが、内訳は不明です。私がさっと目を通していると、Aさんは困ったように笑いました。

「前の職場も、最初は“家族みたいな職場”って言っていたんですよ。でも、すごくハードワークで、休みもほとんど取れなかったので……やりがいはありましたけど、また体を壊してしまったら続かないので、きちんと内容を確認していただきたいんです」

「もちろんです。一緒に確認しましょう」

私の言葉にAさんはほっとしたような顔をされました。

「やりがい」の一方で、働き方に疑問も

Aさんとは、彼女が地域づくりに関わる会社で働いていた頃、私がその会社のイベントに携わったことをきっかけに知り合いました。

行政や地域の人々と共に企画を考えて、自分の提案が形になり、新聞やSNSで取り上げられる……こうした仕事自体は収入だけでは測れない手応えがあり、地域にかかわる仕事がしたかったAさんは入職当初「天職かもしれない」と感じたそうです。

しかし、働き始めてしばらくすると、仕事と私生活の境目が少しずつなくなっていきました。例えば、夜間や休日にも電話が来たりグループチャットへ連絡が入る。

例えば自社開催でない休日のイベントにも「勉強になるから」「みんな出るから」と参加を求められる。例えばイベント後の主催者たちとの打ち上げは「関係づくり」の名目で自費での参加がほぼ必須であるなど、仕事が生活のほとんどを占めるようになったのです。

もっとも、Aさんにとってこの会社がファーストキャリアであったこと、そして仕事自体に大きなやりがいを感じていたことから、この状態にも特に違和感を感じませんでした。

4週8休制を採用していた団体だったこともあり、イベント前の連勤は「常識」として通っていましたし、連勤後の休みも他団体のイベント視察や勉強会への参加も「当たり前」でした。

そのような働き方はAさんだけでなく、その団体で働くほぼ全員がそうでした。連帯意識も芽生え、Aさんは充実感でいっぱいだったといいます。

一方で待遇面では少しもやもやしたものもありました。前述のようにプライベートの時間が確保しにくいことに加え、どこからどこまでが「仕事」なのかがわかりにくいことで残業申請をためらわせる空気があったこともその原因でした。

イベントの前日、天候による問い合わせや出展者との連絡対応に追われたときのようなイレギュラーな場合はきちんと残業代が出ましたが、普段の業務で残業が生じた場合の申請は認められませんでした。「勤務時間内に仕事が終えられないのは能力が低いのでは」という考え方が浸透しており、Aさんは「よほどのことがないと残業申請はできない」と考えていたそうです。

また、Aさんだけでなく、社員のほとんどが会社の運転資金が決して潤沢ではないことも知っていました。社長自身も人手不足を補うために現場へ出て、休日もほとんど取らずに働いています。

社長が誰よりも無理を重ねている姿を間近で見ていたからこそ、「自分だけ残業代や休みのことを言うのは申し訳ない」「伝えたところで、会社に余裕がなければどうにもならない」と考えてしまったそうです。会社から明確に口止めされたわけではありません。それでも、経営状況や社長の働き方を知っていることが、かえってAさんに不満を口にすることをためらわせていました。

そのような状況下で、立ちくらみやめまいなどの症状があっても働き続けていたAさんは、あるとき会社で突然嘔吐してしまい、病院でメニエール病と診断されました。医師からは治療のためにしばらく仕事を休むよう勧められ、Aさんも会社に休職を申し出ました。

「安心して治療ができない」

しかし、Aさんの勤めていた会社には休職制度がありませんでした。それでも、すぐに仕事を続けられる状態ではなかったため、Aさんは社長に事情を説明し、治療のために一定期間休ませてもらえないかと相談しました。

ところが、社長から返ってきたのは、「いつ復帰できるの?」という問いでした。

もちろん、人員に余裕のない会社にとって、復帰の見通しは重要です。しかし、診断を受けたばかりのAさん自身にも、治療にどの程度の期間がかかるのかは分かりません。休職制度がない以上、いつまで休めるのか、復帰まで雇用を維持してもらえるのかも不透明でした。

この言葉を聞いたAさんは、「この会社では充分に休むことも、安心して治療を続けることもできない。この会社にいては自分は壊れてしまう」と感じ、退職を決意したのです。

傷病手当金を受給しつつ、治療に専念して数ヵ月。ようやく、再就職を考えることができるようになったAさんは、まず自分で様々な求人を見比べるようになりました。様々なプラットフォームに掲載されている求人を見ているうちに、「ここなら働いてみたい」と思えた求人も見つかりました。

しかし、Aさんにはまだ不安がありました。そこで社労士である私に、ともに求人票を見てほしいと頼んできたのです。

「前の職場も、最初は“家族みたいな職場”って言われていたんです。だから、アットホームとか、やりがいとか、そういうことが書いてあるとちょっと警戒してしまって。考えすぎでしょうか?」

「そんなことはないですよ。アットホームとかやりがいがあるとか、その言葉だけで悪い会社だと決めつけることはできませんが、印象を表す言葉をどう解釈するかは人ぞれぞれですから、中身を見ていくことが大事ですね」

私の回答にAさんは心なしか緊張をゆるめたようでした。

【後編】→これは「やりがい搾取」?…求人票の「ある一言」に30代女性が大混乱「思っていた働き方と違った」を避けるためにすべきこと

【つづきを読む】これは「やりがい搾取」?…求人票の「ある一言」に30代女性が大混乱「思っていた働き方と違った」を避けるためにすべきこと