なぜ習近平は自ら選んだ軍幹部を次々切るのか…「失脚36人、疑い含め101人」の異常事態、問われる最高指導者の「人を見る目」

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中国の習近平国家主席は、共産党と人民解放軍の頂点に立つ絶大な権力を握る。だが自ら抜擢した軍幹部が相次いで失脚し、国内では住宅不況が長引く。任せられる部下にも、景気を立て直す有効な手立てにも苦慮する足元の異変は、権力の大きさとは裏腹の苦境を映し出す。2027年の党大会を控え、習近平の難題は積み上がっている――。

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発足時7人だった中央軍事委、活動中は習近平含め2人だけに

習近平国家主席は、中国を支配する共産党と、中国軍である人民解放軍のトップも兼ねている。だが、重要な人事や政策を決める権力を握る、その足元で異変が起きている。自ら選んだ軍幹部を相次いで処分し、一方、国内では住宅不況が長引く。

権力は絶大でも、任せられる部下や、景気を立て直す有効な手立てに苦慮する。そこに習近平の大きな苦境を見ることができる。

中国軍の最高指導機関は、中央軍事委員会という。習近平が主席を務め、幹部たちが部隊の運用や軍の人事を担う。ロイターの8月28日の報道では、2022年の発足時に7人いた委員のうち、現在活動中なのは習近平と張升民の2人だけになった。

とはいえ残った張升民は、軍に党の方針を徹底させる政治工作を長く担い、その後、不正の取り締まり役に就いた。つまり中央軍事委員会には作戦畑の軍幹部がいなくなったのだ。

問われる最高指導者の「人を見る目」

1月24日、国防省に当たる中国国防部は張又侠と劉振立を「重大な規律・法律違反」の疑いで調査すると発表した。張又侠は習近平を補佐する軍の最高位の将軍で、父親の代から習家と縁があった。劉振立は、作戦の計画や部隊同士の連携を担う連合参謀部のトップだった。

習近平に近い実力者と、軍を実際に動かす責任者が、そろって調査対象になったのである。8月28日にはこの2人が国家の中央軍事委員会から解任された。

中国には党側にも同名の委員会があり、実務では同じ組織として動く。解任手続きは別で、さらに9月21日、中国国防部は2人を共産党と軍から追放し、職務犯罪の疑いについて軍事検察機関に移送すると発表した。

その前には、国防相だった李尚福や、軍の最高幹部だった何衛東、苗華も処分された。いずれも習近平の下で重用された人物である。

仮に一連の人事が単なる政敵排除なら、側近で固めた後は落ち着くはずだ。ところが今回は、その側近とみられてきた人物まで排除される人事が続く。これだけ自ら登用した幹部の失脚が続けば、習近平自身の人選をどう評価するかという問題も生じる。

米国で外交や安全保障を研究する戦略国際問題研究所、CSISは、2022年以降の軍幹部の動向を調べた。

公式に失脚が確認された上級幹部36人、疑い含め101人

2月20日時点で、CSISが「粛清が公式に確認された」と分類した上将・中将という軍の上級幹部は36人。消息不明などから失脚を疑う65人を加えると101人だ(退役者と推定分も含む数字で、全員の処分が確定した人数ではない)。

中国側は、腐敗を排除することが軍の強化につながるとの論理を掲げる。CSISは、欠員の多くに代行者が入り、2025年の日常的な活動は大きく止まらなかったと分析する。実際、台湾周辺で軍用機や艦艇を動かす力は残っている。

だが、大規模な作戦には、さらに高度な準備が要る。航空機、艦艇、地上部隊をどの順番で動かし、燃料や弾薬をどう届けるか。部隊をまたぐ調整は、経験のある幹部の仕事だ。

CSISは、指導部の欠員が2025年の複雑な演習に悪影響を与えた兆候を指摘する。肩書を与えるだけで、後任者が前任者と同じ仕事をこなせるわけではないからだ。

信頼した将軍を繰り返し失う事態は重い。腐敗をなくして軍を強くするという方針の下で、作戦を任せる人々まで失い、後任を育て直す仕事が求められている。

外交の舞台では、習近平は活動を続けている。9月13日には中国やインドなど新興国を中心とする枠組み、BRICSの首脳会議に出席し、貿易や人工知能での協力を提案した。海外との関係を広げる仕事と、国内の軍や経済を立て直す仕事を、同時に抱えている。

住宅などを造る事業に使われる金が、約2割も減った

経済の苦境は、工場と買い物の動きに表れる。ロイターが9月15日に報じた8月統計では、一定規模以上の企業の鉱工業生産が、物価変動を除いて前年同月比5.2%増えた。

小売りや外食などの動きを示す社会消費品小売総額は、金額ベースで0.4%増にとどまった。海外向けの生産が伸びる中、国内消費は勢いを欠く。

企業などが工場や建物、設備に使う金を示す固定資産投資も、1~8月は前年同期比7.2%減った。このうち不動産開発への投資は19.9%減。住宅などを造る事業に使われる金が、約2割も減ったのである。建設の仕事が減れば、資材や設備を売る会社にも響く。住宅不況は、不動産会社の決算だけで終わらない。

家を持つ人にとって、住宅は大きな財産である。自宅の値段が下がり、給料の先行きも不安な家庭を考えてみよう。銀行が金利を下げても、新しい家を買うより、今の借金を減らしたい。家具や家電の買い替えも後回しになる。金利を下げるだけでは、住宅価格や収入の先行きへの不安は消えない。

土地売却収入は2025年に14.7%減り、減少は4年連続

買った住宅が完成せず、引き渡されない問題もある。金を払ったのに住めない経験は、次に家を買おうとする人もためらわせる。IMF(国際通貨基金)は、未完成のまま販売された住宅への対応を中国に求めている。新しい成長計画を打ち出す前に、すでに交わした約束を果たす仕事が残る。

住宅不況は、地方政府の財政も直撃する。

中国の地方政府は、国有地を一定期間使う権利を不動産会社などに売り、収入を得てきた。マンション開発が盛んな間は、土地を使いたい企業が集まる。住宅が売れなくなれば、新たな開発用地に金を出す企業も減る。こうして不動産の不調が、地方の財政に伝わる。

ロイターによると、その土地売却収入は2025年に14.7%減り、減少は4年連続となった。過去の開発などで抱えた借金は残る。中央政府が景気回復を命じても、地方は以前と同じように支出できない。IMFも、不動産不況と重い借金が国内需要、すなわち国内で商品やサービスを買う力を弱めていると指摘する。

習近平政権が技術開発や製造業を重視する狙いは、米国との競争にある。半導体など重要な製品を外国に頼れば、輸出を止められた時に困る。自国で造る力を育てる方針だ。中国企業の技術の進歩と輸出の強さは、その路線を支えている。

国家主導の借金による投資や行き過ぎた産業支援

消費を立て直すには、増産策に加え、住宅問題の処理や家計の不安を解く政策が必要だ。売れる量を超えて造れば、値下げ競争で利益が削られる。

IMFは、国家主導の借金による投資や行き過ぎた産業支援が、一部産業の供給過剰と生産性の低下を招いたと分析する。生産性とは、人手や資金をどれだけ有効に使って価値を生むかという尺度だ。

私は、採算の悪い事業を補助金で延命する政策を改めるべきだと考える。損失を明らかにし、国有企業を特別扱いせず、民間企業と同じ条件で競争させるべきだろう。

IMFも、行き過ぎた産業支援の縮小と、企業間の公平な競争を求める。党が金の使い道を決め続ける発想から、企業や家計が自分で選ぶ経済へ、踏み出す必要がある。

軍の汚職と住宅の造り過ぎは、原因が異なる。ここからは私の見立てになるが、共通の弱点として見るのは、失敗を認めて方針を変える仕事まで、習近平の判断に集中する点だ。

部下が「この人事は失敗だった」「この投資はもうやめるべきだ」と伝える時、それは最高指導者が進めた方針への異議にもなる。

注目すべきは、習が続投するかとその下で誰が仕事を担うか

CSISは、軍の再建では忠誠心と能力の両方が必要だと分析する。忠誠心の強い部下を集めるだけでは、誤りを教える人は増えない。失敗の報告まで上司への忠誠で評価する政治が、軍と経済の立て直しを難しくしているというのが、私の見立てだ。

2027年には、党の幹部人事や大方針を決める5年に1度の共産党大会が控える。習近平の党トップとしての任期は現在3期目だ。次は4期目入りが焦点となる。注目すべきは、続投するかに加え、その下で誰が仕事を担うかだ。

軍の再建には忠誠心と能力の両方が要り、経済の立て直しには家計の不安を解く政策が要る。忠誠を軸に据えた政治が、その双方の立て直しを阻む--習近平の苦境は、なお続きそうだ。

文/小倉健一  写真/shutterstock