「私じゃなかったらもっと金利は上がっていた」片山さつき財務相は自信を深め…高市首相との間に“隙間風”でも交代させられなかった理由
金利の上昇が続く中、積極財政の司令塔である片山さつき財務相(67)の存在感が増している。当人は米国からの圧力にさらされながらも、難局をコントロールできていると自信を深めているという。
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片山氏は9月5日、自民党兵庫県連主催のセミナーに参加した。ピンクのジャケットに大ぶりな真珠のネックレスを身に着けた装いで壇上に登場すると、こう力説したのである。
「日本は2040年にはGDPが1100兆円の国になります。自信を持っていこうじゃないですか。今投資しなかったら、いつ投資するんだ」
会場から拍手が沸き起こると、次のように続けた。

「皆さんに拍手を頂いたということを総理に報告して帰りたいと思います。われわれ恐竜コンビとか言われていますが、最近はライオンとか言われてちょっと出世したかなと」
“日本買い”あおり
片山氏がかように“日本買い”をあおるのは、この間の“日本売り”が理由だろう。円相場は7月末、40年ぶりに1ドル163円まで下がった直後、日米協調介入を受けて155円まで戻しながら、8月28日には再び160円まで下落。債券相場でも長期金利が9月1日、30年ぶりに3.0%まで上昇したのである。
「背景には高市政権が掲げる積極財政があります」
とは経済部デスク。
「歴代政府が堅持してきた国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の単年度黒字化目標を就任直後に撤回。債務残高国内総生産(GDP)比の安定的な引き下げに目標を切り替えました。さらに、AI・半導体などの分野を含む『強く豊かな日本』投資枠などについては、各省庁の予算要求の上限(シーリング)を撤廃したのです」(同)
結果、概算要求総額は過去最大の143兆円に。
「市場関係者は“高市政権の積極財政が行き過ぎではないか”と懸念を募らせています。“日本売り”が進んだゆえんです」(同)
米国から「円安を止めてくれ」
この事態に我慢ならなかったのが米国である。9月2日未明(現地時間1日)、ベッセント財務長官が20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の閉幕後会見で突如、次のように言い放ったのだ。
「アベノミクスで大きな成功を収めたのだから、今はその成果を生かしてリフレ政策をやめるべきだと(日本側に)伝えた」
東短リサーチ株式会社代表取締役社長でチーフエコノミストの加藤出氏が言う。
「ベッセント氏の要求は非常にシンプル。“円安を止めてくれ”ということに尽きます。今、米国は各国の関税を引き上げて、貿易収支の改善を図っています。しかし、円安が進むと日米間の貿易収支は改善しにくくなる。また、日本政府が円安を止めるために為替介入で円を買い、米国債を売却すれば米国の長期金利が上昇する要因にもなる。米国はそのような事態を避けたいわけです」
“ベッセント発言”を受けて円は急伸。しかし、
「佐藤啓官房副長官(当時)は番記者を相手に発言の和訳を示しながら、『報道のニュアンスが違う』と注文をつけました。官邸・財務省は発言が高市政権の積極財政路線を否定するものではないとして、火消しに躍起になっています」(政治部デスク)
経済財政諮問会議の民間議員で、第一ライフ資産運用経済研究所首席エコノミストの永濱利廣氏はこんな見方を示す。
「今の日本はリフレ政策を採用していません。たしかにアベノミクスの金融緩和では、日銀が民間銀行などから大量の国債を購入。その代金を日銀当座預金に振り込むことで、マネタリーベースを大幅に増やしました。現在は反対に、日銀は年間40兆~50兆円のペースで国債保有額を減らしており、利上げと合わせて金融政策の正常化を進めています」
米国と首相との間で板挟み
片山氏は4日の閣議後会見で、
「(ベッセント氏から)タカイチノミクスを評価していただいた。私が要求をもらったり、問い詰められたりしたことは全くない」
そう述べた。しかし、9月1日付の米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)は、ベッセント氏が5月の訪日時点で、片山氏に対して高市政権の経済政策への不満を示していたと報じている。
明海大学教授で、アメリカ研究や外交・安全保障政策を専門とする小谷哲男氏はこう指摘する。
「今回の“ベッセント発言”は、高市政権が進める積極財政に強い危機感を示したものです。もし問題がアベノミクス以来のリフレ政策だけだったのであれば、米国は石破政権の時から苦言を呈していたはずです。一方、片山氏は財務相として積極財政を推し進める立場にある。まさに米国と高市首相との間で板挟みの状態です」
慶應義塾大学大学院教授の小幡績氏もこう語る。
「NYTの報道などを踏まえると、ベッセント氏には“片山氏と話をして、日本は円安の問題や利上げの必要性は理解していると思っていた。なのに、肝心の高市首相が全然分かっていないじゃないか”といういら立ちがあるのではないでしょうか。片山氏が米国の懸念に理解を示しながら、高市政権の財政政策も擁護しなければならない難しい立場に置かれているのは事実でしょう」
「4%案」に高市首相の怒り
だが、片山氏が気にかけねばならないのは対米関係だけではない。
政治ジャーナリストの青山和弘氏が言う。
「片山氏は古巣である財務省にも相当配慮しています。結果、高市首相との間に隙間風が生まれている。きっかけは消費税を巡る問題でした。今、食料品の消費税率は1%に下げる方向。が、片山氏は一度、4%で調整しようとしたのです」
財務省からすれば、減税幅が小さくなるので受け入れやすい案である。
「さらに片山氏には4%なら国民民主党の賛同も得られやすいという考えもあったようです。国民民主が賛成すれば、参院でも法案は圧倒的に通しやすくなるので一挙両得というわけです」(同)
しかし、高市首相がこの案に強硬に反対したという。
「首相は4%案に対して、かなり怒ったといいます。首相の本音を言えば、1%ですら不満で本当は公約通り0%にしたい。だから4%案が浮上して、“何をやっているんだ”という反応になったわけです」(同)
今や二人の間には明らかな温度差があるという。それでも、財務相を交代させないのは、
「高市首相が片山氏をベッセント氏と渡り合える数少ない人物だと見ているからです。それにこのタイミングで片山氏を交代させると、市場の不安をいたずらにあおることにもなりかねません」(同)
そんな状況下でも片山氏は“らしさ”を全く失ってはおらず、
「片山氏は官邸内で“私がベッセントを抑えてうまくやっている。私じゃなかったらもっと金利は上がっていた”と吹聴しているそうです。首相周辺には“自分を大きく見せようとしている”と苦々しく見るムキもある。一方、米国の政府関係者の中には“片山氏は高市首相のメッセンジャーに過ぎない。さほど役に立たない”という評価もあると聞いています」(政府関係者)
その自己肯定力には見習うべきところもあろう。だが、市場の信認を失えば“日本売り”は再び加速する。日本経済をその過信の道連れにすることなきよう願いたい。
「週刊新潮」2026年9月24日・10月1日号 掲載
