日本以上に「セブンイレブンだらけの国」 存在感では世界一? こんなにあって意味はあるのか、何を「売る」のか
セブン-イレブンは、日本でもトップを占めるコンビニチェーンだ。時に「セブンばっかり」と感じるエリアすらあるが、世界には日本以上の“セブン密度”を誇る国があった。消費経済アナリストの渡辺広明氏が現地を視察した。
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【写真を見る】日本ではまず見られない? 駐車場に屋台、店内でホットサンドを調理…「タイのセブン」ならではの光景
以前お世話になったバンコクの会社から社内研修に呼んでいただいたことをきっかけに、9年ぶりにタイを訪れた。
バンコクの街を訪れてまず驚いたのは、セブン-イレブン(以下セブン)の多さだった。事前に現地のコンビニ事情を調べていたので予想はしていたが、少し歩けばセブン。また歩けばセブン。道路の向こう側にもセブンがある。日本も世界有数のコンビニ大国だが、「どこを見渡してもセブン」という印象は日本以上だった。

数字を見ると、その感覚にも納得する。タイのセブンを運営している「CP ALL」は、2025年だけでタイ国内に700店を新規出店し、2025年末時点の店舗数は1万5945店だという。店舗の数だけ見れば日本のセブン約2万1900店の7割ほどだが、タイの人口は約7030万人で、日本の6割弱にすぎない。人口あたりで見れば、タイの“セブン密度”は日本より約27%も高いことになる。
しかも競合に「Lotus’s Go Fresh」や「Tops Daily」といったローカルチェーン、「ローソン108」などは一応あるものの、2024年時点でセブンはタイのコンビニ市場の約7割を占めている。日本のような「セブン、ファミマ、ローソン3強」という市場構造ではないのだ。
人口あたりの“セブン密度”でいえば、トップの台湾、2位の韓国(それぞれ日本より約75%、33%高い)に次ぐ世界第三位の国だ(※渡辺調べ)。だが、台湾はファミマも相当数出店しているし、チェーンが乱立する韓国ではセブンがトップブランドでもない。ゆえに、タイはセブンの存在感が世界でも突出している国と言えそうだ。CP ALLのコンビニ事業の2025年の売上高も4628億5400万バーツと、円換算で約2兆3000億円に達している。
買収ではなく「先に場所を取った」強さ
では、なぜここまで強くなったのか。先に触れた「ローソン108」は、日本のローソンと現地の「108 SHOP」との提携から生まれた。一方、タイのセブンは、既存のコンビニチェーンを次々と買収して店舗網を広げたわけではない。
タイのセブンを運営するCP ALLは、タイ最大級の財閥CPグループを母体にもつ。同グループは1988年にタイ国内でのセブンのライセンスを取得し、翌1989年に1号店を出店した。それ以降、新規出店を積み重ねながら全国へ広げてきた。
コンビニビジネスでは店舗数と同時に「店舗密度」が重要になる。
その強さの理由のひとつが、「ドミナント出店」による先行者利益だ。住宅、オフィス、学校、観光地、幹線道路など、人の生活動線上に次々と店を出すことで、物流効率が上がり、商品の回転も速くなる。認知度も高まるし、先に好条件の場所を押さえることで後続のチェーンが参入しにくい。日本でも特定のコンビニが多いと実感する地域があると思うが、タイのセブンも、この好循環を30年以上かけてつくってきた。
もちろん、巨大なCPグループの資本力があったからこそ、なし得た戦略だ。直営店に加えてフランチャイズを活用し、地方では地域事情に詳しい事業者の力も借りる。この点は、フランチャイズを中心に出店網を広げてきた日本のコンビニにも似ている。
独占的な密度を誇る店舗網から集まるデータは、「どこに出せば、どんな商品が、どれくらい売れるのか」という分析にも活用できる。さらに、弁当や惣菜、パンなどの食品製造を担うCPRAMをグループ内に持ち、同社はベーカリーブランド「Le Pan」も展開する。出店だけでなく、商品供給まで含めた強い基盤を持っているのである。
実際に食べて驚いた「その場で焼く」ホットサンド
店舗数だけではなく、日本のコンビニに比べて「人」が最後の一手間を加える商品が目立ったことも印象的だった。代表的なのがホットサンドだ。
現地の人から「セブンのホットサンドは安くて種類も多い。ぜひ食べてほしい」と勧められていた。定番のハム&チーズをはじめ種類は多く、価格は商品によって異なるが、おおむね30~40バーツ前後だ。日本円にすれば150~200円程度だろうか。レジで購入すると、その場で店員が専用のホットサンドメーカーで焼いてくれるのだ。これが想像以上においしかった。注文後に最後の一手間を加えることで、コンビニ食品が「できたて」に近づく。正直、日本のコンビニにもあってほしいと思った。屋台文化が強く、「できたて」を日常的に食べるタイだからこそ進化した部分なのかもしれない。
セブンの駐車場に屋台。「潰す」のではなく共存する
今回はバンコクだけでなく、配車アプリのGrabで約2時間、片道約9000円で行けるビーチリゾート・パタヤも歩いたのだが、そこでタイの屋台文化を象徴するような面白い光景を見た。セブンの駐車場に、屋台やキッチンカーが堂々と出店しているのだ。これだけセブンが増えれば昔ながらの屋台や露店が駆逐されているのでは……と思っていたのだが、実際には共存していたようだ。
地元の人たちに取材すると、共存の理由が見えてきた。「セブンは近くて便利」「食べ物の種類が多い」「レストランは料理が出てくるまで待つが、セブンならすぐ買える」という声が聞かれ、中には「日常の買い物の8割くらいをセブンで済ませる」という女性もいた。一方で「野菜はセブンだと高く、量も少ないので露店がいい」という意見もあった。屋台を選ぶときは衛生状態を気にするという人もいて、安心感を求めてセブンを利用することもあるそうだ。
簡単に言うと、野菜を買いたいときや、安さを求めるなら市場や屋台。ホットサンドもあるとはいえ、できたてを食べたいときもやっぱり屋台。一方で、清潔さ、安心感、品揃え、24時間の便利さならセブン……という使い分けがされていそうだ。
バンコクのセブンは「小売業」から「ラストワンマイル物流業」へ
話をバンコクのセブンに戻すと、店舗が「巨大な物流ネットワーク」の一部として活用されている点も興味深かった。
タイのセブンは「7Delivery」というサービスを行っている。スマートフォンから注文すると、弁当、飲料、日用品などを近くの店舗の在庫から短時間で自宅やオフィスへ届けてくれるものだ。こうした「注文から短時間で商品を届けるサービス」をクイックコマースと呼ぶが、街中に大量に存在するセブンそのものを、小さな配送拠点として利用するのである。
日本にも同様の「7NOW」というサービスはあるが、タイのほうが消費者の生活により根差している。ほかに店頭にない商品も注文できる「ALL ONLINE」も展開しているが、「7Delivery」などをふくめたオンライン経由の売上が、2025年でセブンの商品売上の約11%を占めているという。
クイックコマースが進む背景には、高層コンドミニアムやオフィスが密集するバンコクの都市事情や、暑くて雨が多い気候がありそうだ。また、渋滞が激しいため移動も簡単ではなく、歩道も必ずしも歩きやすいわけではない。こうした事情からか、タイの人びとは「あまり歩きたがらない」とも聞く。数百メートル先にセブンがあったとしても、「わざわざ買いに行くより、届けてもらおう」という需要が生まれているのだろう。
そう考えると、タイのセブンは、もはや単なるコンビニではなく「小売店舗網」であると同時に「ラストワンマイルの物流拠点網」と言っても過言ではないのではないか。日本ではコンビニの客数を考える時、どうしても「どうすれば店に来てもらえるか」を考えるが、今後の人口減少を考えると、商圏人口そのものが減る地域も増える。だったら発想を逆にしてもいい。「お客様に来てもらう」のではなく、「コンビニからお客様のところへ行く」。人口が減少する日本だからこそ、コンビニは「来店客数を競う産業」から一部では脱却してもいいのではないか……とタイのセブンを見て思った。
タイは「人」で便利にする。日本は同じ方法ではできない
今回、筆者が実際に中に入ったタイのセブンは約30店舗だと思うが、店員の多さも印象的だった。1店舗当たり3~6人ほどいたのではないだろうか。当初、店員があまりに頻繁に店内を歩いているため「万引き対策なの?」とも考えたが、そうではない。彼らはレジ業務だけではなく、店内を回って商品を補充し、前出しをし、清掃する。食品を温め、ホットサンドを焼き、飲料をつくる。そしてオンライン注文やデリバリーにも対応する。何店舗か観察していると、タイのセブンは、人を使うことで「便利」を増やしていることが分かった。これはすでに人手不足が大きな経営課題になっている日本のコンビニにしてみれば、うらやましさすら覚える。
タイのセブンが「人」で実現した便利を、日本は「テクノロジー+人」で
もっとも、9年ぶりのタイで見たセブンは、日本より何もかも進んでいるわけではない。弁当やおにぎり、サンドイッチ、スイーツは、日本のコンビニの方が圧倒的においしく、クオリティも高い。店員は多いものの、店舗によっては手持ち無沙汰に見える従業員も正直いた。人によっては、「セブンばかりでつまらない」という選択肢の少なさを感じることもあるだろう。
それでも、圧倒的な存在感を生かして店舗網を築き、食品を温め、ホットサンドを焼き、飲料をつくり、スマートフォンから注文された商品を自宅まで届ける。同時に屋台や市場とも共存する姿には、日本が学べることが多かった。
特にバンコクで感じたのは、「店舗数が多い」ことの意味が変わり始めていることだ。店舗数が多ければ、来店客を増やせるだけではない。街中に無数の物流拠点を持つこともできる。
この発想は、日本にもそのまま当てはまる。
全国に張り巡らされたコンビニ網は、人口減少によって価値が下がるとは限らない。むしろ使い方を変えれば、人口減少社会を支える巨大な生活インフラ網になり得る。タイのセブンは、多くの人手を使って「便利」を増やしてきた。働き手が減る日本は、同じ方法では進めない。だからこそセルフレジやAI、ロボット、自動化を活用し、人にしかできない仕事へ人手を振り向ける。そして「お客様に店まで来てもらう小売業」から、「店舗から地域へ商品とサービスを届ける生活インフラ産業」へと、コンビニそのものを進化させる。
タイのセブンが「人」で実現した便利さを、日本は「テクノロジー+人」で実現する。バンコクとパタヤを歩きながら見えてきたのは、そんな日本のコンビニの未来だった。
渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
流通アナリスト。コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務など幅広く活動中。フジテレビ『FNN Live News α』レギュラーコメンテーター、TOKYO FM『馬渕・渡辺の#ビジトピ』パーソナリティ。近著に『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(馬渕磨理子氏と共著、フォレスト出版)がある。
デイリー新潮編集部
