《冷房ナシの過酷な環境》賄賂、糞便…ルフィグループが収監されたフィリピン「ビクータン収容所」の実態
「ルフィグループ」の幹部らが収容されていた、フィリピンのビクータン収容所。過酷な環境を生き抜くために必要だったのは「カネ」だ。賄賂が日常的に横行し、収容者たちは生き残りをかけて独自の生態系を作り上げていった。彼らが行き着いた最大の資金源が、スマートフォンを使った「詐欺」だった。
最悪の「負の連鎖」を引き起こしていた収容所の実態について、ノンフィクションライター・栗田シメイ氏の著書『檻の中のルフィ 闇バイトを生んだ者たち』(講談社)から、一部抜粋して再構成(※文中の被告表記は略)。【全4回の第3回。第1回から読む】
【写真を見る】そこら中で汚臭を生んでいたビクータン収容所の入り口、伝説の女スパイ・金髪、白キャミソール姿の山田李沙
賄賂にまみれた収容所
「JP(ドラゴン)、お前らのこと殺すってよ」
その男は、再会したかつての仲間に対し、檻の前の金網に顔をめり込ませながら吠えた。渡邉(優樹)たちが来る1年半以上も前にビクータン収容所に収監されていた、今村(磨人)である。
いわゆる「ルフィグループ」の幹部たちがビクータン収容所に収監された日時には、タイムラグがある。今村が2019年末、藤田(聖也)が2021年の4月。渡邉と小島(智信)が2021年の11月という具合だ。「ルフィ広域強盗事件」という数々の報道から、今村をトップとした犯罪集団という印象を抱きやすい。だが、収容所内の様子を取材していくと、複雑に入れ替わる人間関係が事件の下敷きにあった。
ビクータン収容所は、マニラ中心部から車で40分ほど走ったタギッグ市に位置する。外国人抑留者の収容を目的とした施設であり、収容されている面々は凶悪犯罪者からオーバーステイした者まで様々だ。そこには、渡邉たちのように無理やり裁判を作り、母国への強制送還を逃れることを画策する者もいた。所轄は入国管理局である。
実際に訪れてみると、入り口ゲート付近には物々しい数の警備員がいて、中へ入る車両は厳重にチェックされていた。その様子からは、とても報道にあったような「スマートフォンから好きな食材まで手に入る自由な空間」とは想像しがたい。
フィリピン滞在中、私の運転手を務めてくれたジョージ。彼の兄は、ビクータンを管轄する入管の元上級職員でもあった。私が頼むと、ビクータンの現在の職員に連絡をとって、現在収容されている日本人の情報や人数などをつぶさに教えてくれた。
どうやら、ルフィグループの収容所内での"振る舞い"が問題視されて以降、職員の汚職が続々と白日の下に晒されたという。当時の所長を含め所員は総とっかえとなり、現在は厳格なルールのもとで運営が行われているとも明かした。
それでも、「また元に戻る可能性はないか」とジョージの兄に尋ねると、眉をひそめた。「一般職員の給料は、高くても2万数千ペソ(日本円で約6万円)ほど。田舎に行くともっと安くなる。これだけ物価が上がっているにもかかわらず、です。職員からすると、外国人犯罪者はいい"お客さん"なのです。警察で賄賂や汚職が絶えないのも同じ理由で、すべてが改善されるということはこの国では残念ながらありえないでしょう」
ビクータンの敷地内には、様々な人種が混在する。定員約140人に対して、常時300人程度が収容されるというすし詰め状態だ。
最大派閥は中国人グループで、コリアンマフィアもいた韓国人グループ、インド系やアメリカ系、アフリカ系などが派閥を形成。また、彼らはそれぞれの"領域"を築いていた。
例えば中国人は中華レストランを開くほか、敷地内でカジノの賭場を作り、収容者たちから金銭を徴収して遊興場としていた。韓国人はスーパーマーケットやコンビニを開設し、収容者たちに商品を売りつけた。職員に賄賂を支払えば、平然とこのような"ビジネス"が展開できる環境だったという。
冷房なし、動物の死骸や糞便の汚臭
そんなビクータンで最も収容者を困らせたのが、居住環境と食事である。日中は42~43度まで上がり、冷房機器なしで過ごすのは難しい。そのうえ、放し飼いにされているニワトリや動物の獣臭、死骸や糞便が、そこら中で汚臭を生んでいた。食事は一日に一度、25~26人分がまとめて配膳されるだけだ。レストランやスーパー、はては現金の引き出しを行う「銀行屋」などの"ビジネス"に収容者たちが乗り出したのには、こうした背景がある。
空腹を凌ぐための有効な手段は、職員の買収だった。外部からのフードデリバリーサービスを利用したり、食材やタバコなど低額商品を購入したりする場合は日本円で4000円程度。現金や高額な品がほしい場合は、受取額の10%を手数料として支払うことで、敷地内への持ち込みが可能になった。スマートフォンの購入は、日本円で5万円超の賄賂で実現した。ビクータンで賄賂が横行していたのは事実である。
食事から金品の受け取りまで、何をするにもカネが必要だった。ビクータンでは、収容者たちは所内にいながら生活費を稼ぐ必要性に迫られる。そこで各国の収容者たちは、スマホ一つでできるような"ビジネス"を考えた。その大半を占めたのが詐欺である。
欧米人の場合は、ロマンス詐欺やロト詐欺(宝くじの当選をエサに、個人情報やカネを引き出す手法)、スポーツベッティング。中国人は違法カジノ。韓国人はネットカジノの運営や詐欺全般。そして、日本人が特殊詐欺と強盗だった。
(第4回に続く)
【プロフィール】栗田シメイ/1987年、兵庫県生まれ。広告代理店勤務、ノンフィクション作家への師事、週刊誌記者などを経てフリーランスに。南米・欧州・アジア・中東など世界40カ国以上でスポーツや政治、経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。 著書に『コロナ禍を生き抜く タクシー業界サバイバル』『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』。新著『檻の中のルフィ 闇バイトを生んだ者たち』が発売中。
