足を伸ばしても広々

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 入口横の端末に交通系ICカードをかざすと、タッチ音がして鍵が開く。一歩入れば、そこはもう自分だけの部屋だ。ソファに腰を下ろし、備え付けのタブレットで照明を少し落とす。窓の外を、見慣れた景色がいつもより静かに流れていく--。2026年10月1日から、東海道・山陽新幹線ではそんな過ごし方ができるようになる。

【写真を見る】タブレットでリクライニングや照明も空調も好みに調整可能

 新たに導入される上級クラス座席「Supreme Class(スプリームクラス)」。グリーン車のさらに上に位置づけられる最上位クラスである。

 まず登場するのは、個室タイプの「Cabin(キャビン)」。初列車は2026年10月1日の東京6時00分発の「のぞみ1号」を予定している。16両編成のN700Sのうち、7号車に2名まで使える1室、10号車に1名用の1室が設けられる。1編成にたった2室という、なんとも贅沢なつくりだ。半個室タイプの「Seat(シート)」は、2027年度中の登場で、10号車に6席が設けられる予定。

 気になる価格は、エクスプレス予約の場合で東京~新大阪が7号車6万500円、10号車4万2100円(大人片道1名・「のぞみ」・通常期)。東京~博多ならそれぞれ9万220円、6万3620円になる。発売開始は9月15日午前5時30分から。以降は乗車日1カ月前の午前10時00分から購入できる。エクスプレス予約とスマートEXでなど発売するチケットレス商品で、きっぷを受け取っての乗車はできない。

記者が乗ってみると…

 記者は東京~新大阪の区間で、この個室に体験乗車させてもらった。扉を閉めて、まず驚かされたのは静けさだ。走行音も、通路を行き交う人の気配も、すっと遠のいていく。

 周りの目が気にならない、というのも思いのほか大きかった。誰にはばかることなく仕事の電話をかけられる。それだけで、移動にまつわるストレスがずいぶん軽くなる。

 扉は鍵(電子錠)付きで、個室内の専用タブレットから照明も空調も好みに調整できる。専用Wi-Fiが飛び、シートスピーカーには手持ちのスマホをBluetoothでつなげられる。座席横の荷物置き場には機内持ち込みサイズのスーツケースがすっぽり収まり、7号車にはくつろげるソファまである。壁には沿線の伝統工芸をあしらったオーナメント。JR東海編成は美濃焼、JR西日本編成は博多織や播州織などが使われているという。

見えないところのこだわり

 なぜ、ここまでするのか。JR東海の広報担当者はこう語る。

「移動時間を、さらに快適に、さらに上質な体験にしたい、というニーズにお応えしたい思いがあります。生活様式や働き方が変わって、お客様のニーズが多様化していることが背景にあります」

 ただ、高速で走る車両のなかに"静かな個室"をつくるのは、そう簡単ではなかったという。

「個室の床や壁には振動を抑制するような材料を使用しています。また個室内の壁面にはデザイン性を持たせつつ、吸音性のある素材を使用することで、静粛性を確保しています。上着をかけるハンガーも、走行中にカタカタと音が鳴らないように工夫して設計しているんです」

 そのほか、Wi-Fiは、車体が電波を通しづらいことから、窓にAGCが開発した5G対応の透明ガラスアンテナを採用している。鉄道車両では世界初だという。また、音漏れを抑えるNTTの特許技術PSZを使ったシートスピーカーも採用。公共交通機関では国内初だという。

オートロック、閉じ込められたら

 記者が気になったのは、オートロックだということ。走行中に閉じ込められたら、と考えてしまうが、そこも心配ないようだ。

「扉自体は、室内からワンタッチで開けることができます。また、万が一の際も室内にSOSボタンを設置していますし、サポートコールサービスもご用意しています。マスターキーで外から解錠することもできます」

のぞみ」「ひかり」では、飲み物とお菓子のウェルカムサービス(無料、1人1回まで)も。タブレットから注文すればパーサーが席まで届けてくれるモバイルオーダーサービスもあり、沿線の逸品が順次そろう予定だという。

 1編成に2室、10月時点の運行は1日12本程度(上下計)。あの静けさを思い出せば、予約ができたときの特別感は格別だ。移動時間そのものが楽しみになる部屋が、新幹線に増える。