〈和牛バーガー4000円でも大繁盛〉客単価3万円、月商2000万円超…観光地の“高すぎる店”に外国人が殺到するワケ

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京都や浅草などの観光地では、「Wagyu」(和牛)を掲げる高単価の飲食店が目立つようになった。4000円を超える和牛バーガーや、客単価が3万円を超える鉄板焼き店もある。一般的な国内の外食価格と比べれば高額に映るが、それでも訪日客を集めているのはなぜか。所得水準や円安、海外の外食価格から、その理由を読み解く。

【画像】220gで税込9万6800円の和牛

月商2000万円超の驚異的な収益力

「京都はインバウンド向け飲食店がひしめく激戦区ですが、ひっきりなしにお客さんがやってきます。この夏も店はフル回転状態で、月商で2000万円を超える月も珍しくありませんでした」

そう語るのは、和牛鉄板焼き店のマーケティング支援をする担当者だ。

インバウンド向けの和牛鉄板焼き店は10~20坪ほどの比較的小規模な店が中心だ。一般的な飲食店は坪月商30万円で繁盛店と言える。つまり20坪の店であれば、月商600万円で十分儲かっている。インバウンド鉄板焼き店はそれをはるかに上回る売上を記録する超繁盛店だ。

マーケティング担当者によると、集客の肝になるのが「Wagyu」だという。Googleの検索ボリュームを調査するツールで割り出したところ、「wagyu near me(近くの和牛の店)」というキーワードの月間検索数は2万7100に及んでいた。

この数字は、日本語キーワード検索「近くの牛丼屋」とまったく同じ検索数なのだ。日本人がインターネット上で牛丼店を探すのと同程度の需要が、和牛を扱う店にあることになる。

インバウンド飲食店はGoogleマップなどに大量の広告を出稿し、検索需要を獲得している。Google広告ではクリックごとに広告費が発生するCPC方式が一般的で、クリック単価は上昇傾向だという。獲得合戦が過熱しているのだ。

競争が激化してもインバウンド飲食店は商売がしやすい部類に入りそうだ。外国人観光客の集まる場所が決まっているからである。浅草、新宿、京都、大阪などと出店エリアを絞り込みやすい。浅草であれば、雷門近くに店を出すことで、ウォークインとインターネット経由の両方の来店を狙うことができるのだ。

しかし、明らかに高単価の店に次々と観光客が入っていく姿に、首を傾げたくなる人もいるだろう。これは所得水準と円安、観光客が自らの地元で食べるレストランの価格という3つの要素から、外国人旅行者の一部にとって必ずしも割高ではないことが見えてくる。

アメリカ人にとっては都市部で食べるハンバーガーと同程度

客単価4000円の和牛バーガーの店を例にとるとわかりやすい。

米労働統計局(BLS)によると、アメリカ人の2026年4月~6月のフルタイム労働者の週間賃金中央値は1251ドル。月額に単純換算すると約5421ドル。1ドル150円台前半で換算すれば、約80万円台前半~半ばとなる。

4000円の和牛バーガーは約26ドル。月収に占める割合はおよそ0.5%だ。

厚生労働省の2025年賃金構造基本統計調査では、一般労働者の所定内給与額は月平均約34万600円。単純比較はできないものの、日本の月収水準に置き換えると1600円~1650円程度になる。ホットペッパーグルメ外食総研による、首都圏・関西圏・東海圏の有職者を対象とした調査では、外食ランチの平均予算は1338円だった。

日本人から見れば4000円は高級ランチだが、米国人の所得水準と円安を考慮すると、その負担感は日本人の一般的なランチとそう大差がなくなってくる。

ニューヨークの人気店「Black Tap Craft Burgers & Beer」では、バーガーにドリンク、税、チップまで加えると30ドル台になる。ロサンゼルスの「Father's Office」でも、バーガーは23ドル、フライドポテトは8ドル。飲み物や税、チップまで含めれば40ドルを超えることも十分にあり得る。

どちらも最高級店とまでは言えない店だが、単価は円換算で4000円~7000円程度である。都市部の人気店では、バーガーにサイドやドリンク、税、チップまで含めると、1人30~40ドルを超えることも珍しくない。

少なくともニューヨークやロサンゼルスなどの都市部の外食価格に慣れた訪日外国人にとって、4000円という価格は日本人が感じるほど突出して高価とは限らない。

しかも、単に「Wagyu」という表記ではなく「Japanese Wagyu」を食べるという付加価値がついてくる。神戸牛、松阪牛、宮崎牛などのブランドが追加されれば、価値はより高くなるというわけだ。

国策として海外展開を後押しした「和牛」

政府は2013年に策定した「農林水産物・食品の国別・品目別輸出戦略」で牛肉を重点品目に位置づけた。2012年に51億円だった牛肉輸出額を2020年に250億円まで引き上げる目標を設定している。

2025年の日本産牛肉の輸出額は過去最高の731億円に達した。13年間で14倍に増加している。

欧米の高級ステーキは赤身や熟成などに価値を置く文化が強い。肉本来の旨みを楽しむ文化が形成されていた。和牛のように極端なまでのサシが入った牛肉は珍しく、明確な差別化要因があったのだ。

日本政府はJETROなどを通じて現地のレストランやシェフ、加工業者などに向けて試食会やPR活動を続けてきた。そうした地道な努力が実を結び、和牛は特別感のある食べ物として、海外で定着していった。

和牛の中でも神戸牛は圧倒的な知名度を獲得している。神戸牛は明治期の開港以来、その評判が海外に広がっていった。実際に公式に輸出されたのは2012年だが、すでに歴史あるブランドとしてその地位を確立していたのだ。多くの観光地で神戸牛を強調した店が並んでいるのはそのためだ。

インバウンド向け飲食店の高価格化は、日本人からすると典型的な観光地価格に映る。しかし、所得水準や為替、海外の外食価格まで考慮すれば、外国人観光客から見える景色はまったく違う。むしろ自国とさほど変わらない価格で、本場の和牛を味わえる店として魅力的に映っている可能性がある。

訪日客数が増え、円安が続けば、日本人と外国人の適正価格の隔たりは鮮明になるだろう。インバウンド飲食店は、世界と日本の物価に対する感覚のギャップを象徴しているのかもしれない。

取材・文/不破聡