この記事をまとめると

■将来的に「伝説」となりそうな現行国産車を予想する

■今後困難となるパッケージングをもつクルマが該当するだろう

■大ヒットしたモデルでも伝説となるには特別な条件が必要だ

「今だからこそ」な現行車

「あのとき買っておけばよかった……」

 中古車相場の高騰を眺めながら、何度そう天を仰いだことだろうか。1990年代のピュアスポーツや、2000年代初頭の武骨な四駆たち。新車当時は「いつでも買える当たり前の存在」だったクルマたちが、気がつけば手の届かない雲上プライスへと駆け上がり、「伝説の名車」的な扱いで神格化されていく。

 では、いま新車ディーラーのショールームに並んでいるクルマたちのなかで、10年後の未来に「あの時代を象徴する伝説」として語り継がれているのは、果たしてどのモデルだろうか?

 自動車業界を取り巻く環境はいま、激変の真っ只なかにある。カーボンニュートラルへのシフトや、厳しさを増す騒音・排ガス規制、そしてクルマの知能化と電動化の波。内燃機関がその歴史の円熟期を迎えているいまだからこそ、「二度と作れないパッケージング」をもつクルマの価値は、10年後に決定的なものとなるはずだ。

 10年後に「伝説確定」となるモデルと、「一世を風靡したヒット作」で終わりそうなモデルの境界線を見極めていくことにしよう。

トヨタGR86/スバルBRZ
伝説化の可能性:高い

 まず筆頭に挙げねばならないのが、トヨタとスバルの共同開発によって生まれた「GR86」と「BRZ」の兄弟だ。

 初代(ZN6/ZC6型)も素晴らしいが、2代目となった現行型(ZN8/ZD8型)は、排気量を2.4リッターへと拡大したことで低中速トルクの細さという初代唯一の泣き所を完全に克服。シャシー剛性の劇的な向上と相まって、FRスポーツとしてきわめて高い完成度へと到達した。

 このクルマが10年後に伝説となる理由はシンプルだ。「自然吸気の純ガソリンエンジン」「後輪駆動」「3ペダルMT」「車両重量1200kg台」、そしてなにより「手に入れやすい価格」という条件をすべて満たすスポーツカーが、今後の新規開発で世に出てくる可能性は限りなくゼロに近いからである。

 ハイブリッド化やBEV化が進めば、クルマは重く、高額にならざるを得ない。軽快なフットワークと、ドライバーが自らの手足で内燃機関のパワーを使い切る歓びを備えたGR86とBRZは、「庶民が日常で楽しめた最後の本格ピュアFR」として、間違いなく伝説と化しているだろう。

ホンダ・シビックタイプR(FL5型)
伝説化の可能性:高い

 ホンダの至宝であるとともに、世界中のFF車の頂点に君臨するといっても過言ではないホンダ シビック タイプR。現行のFL5型は、10年後どころか今この瞬間からすでに伝説の階段を駆け上がっている。

 最高出力330馬力の2リッターVTECターボ、K20C型エンジンは吸排気系の徹底的な見直しと熟成を重ね、ニュルブルクリンク北コースで数々のレコードを塗り替えたことで知られるその走りは、もはや市販FF車の限界を遥かに超越している。

 そして先代(FK8型)のアグレッシブなガンダムルックから一転、ロー&ワイドで洗練された大人のスポーツサルーン然とした佇まいを手に入れたことも、コレクターズアイテムとしての価値を決定づけている。

 ホンダが公言している電動化ロードマップを鑑みれば、純粋なガソリンエンジンのみで駆動し、極上のフィールを誇る6速MTを操るタイプRは、このFL5型が事実上のラストとなる公算が高い。1990年代の初代NSX-RやEK9型シビックタイプRが今や美術品レベルの扱いを受けることもあるように、FL5型は「純内燃機関タイプRの最高到達点」として、10年後のオークションハウスで熱烈な賛辞を浴びていることだろう。

“大ヒットモデル=伝説”とは限らない

スズキ・ジムニー/ジムニー シエラ(JB64/JB74型)
伝説化の可能性:高い

 2018年の登場から長い年月が経過した今なお、衰え知らずの人気を誇るスズキ ジムニーおよびジムニー シエラ。この小さなオフローダーもまた、10年後の伝説化がほぼ確定している1台だ。

 現代のSUVがモノコック構造と電子制御AWDによる「乗用車的快適性」へと雪崩を打つなか、ジムニーは頑強なラダーフレームとリジッドアクスル式サスペンション、そして機械式のパートタイム4WDという「ガチの四駆構造」を、頑なに守り続けている。

 世界中を見渡しても、過酷な泥道や岩場、豪雪地帯をものともせず走破し、なおかつ日本の軽自動車枠(あるいはコンパクト枠)に収まる本格オフローダーなど、ほかにいっさい存在しない。

 歩行者保護や先進安全装備、騒音規制といった現代の厳しい法規制をクリアしながら、これほど無骨で純粋なオフロードメカニズムを維持し続けたこと自体が奇跡に近いのかもしれない。だが10年後、たとえ電動化された次世代ジムニーが登場していたとしても、機械式メカニズムの塊であるJB64/JB74型の道具感と信頼性は、世界中のエンスーやプロフェッショナルたちから「孤高の名作オフローダー」として敬愛され続けるはずだ。

4. ホンダN-BOX
伝説化の可能性:やや低い(ただし「生活の殿堂入り」)

 一方で、少々冷静な目を向けねばならないのが、日本でもっとも売れている軽自動車であるホンダ N-BOXだろう。現行型(JF5/6型)もまた、先代から培った圧倒的なパッケージング技術と上質な内外装の設え、そして普通乗用車をも凌駕する実用性により、軽スーパーハイトワゴン市場の絶対王者として君臨している。日本の自動車史に刻まれる「生活の道具としての最高傑作」であることは論をまたない。

 だが、「時代を代表する大ヒット作」であることと、「10年後に伝説として語り継がれること」の間には、越えがたい溝が存在する。

 10年後に伝説化・神格化されるクルマには、他を寄せ付けない圧倒的な動力性能や、唯一無二のハードウェア的特異点、あるいは「内燃機関の終焉に伴って二度と作れなくなる失われた技術」などの要素が不可欠だ。その点、N-BOXの価値は「時代の先端を行く徹底的な実用合理性」にあり、それは次世代の新型や汎用的なEVが登場すれば順当にアップデートされ、上書きされていく宿命にある。

 10年後、中古車市場で「あのころのN-BOXでなければダメなんだ!」と熱狂的なマニアが血眼になって探すような、いわゆるコレクターズアイテムになるかといわれれば、そこは否と答えるのが筋というものだろう。

 10年という歳月は、自動車の価値をふるいにかけるには十分すぎる時間だ。流行や販売台数といった一過性の数字は10年もすれば風化し、最後に残るのは「そのクルマでしか味わえない絶対的な体験」と「時代の転換期に放たれた強烈なオリジナリティ」だけである。

 GR86/BRZが提示した手の届くピュアFRの歓びや、シビックタイプRが極めた前輪駆動の真髄。そしてジムニーが貫いた本物の悪路走破性。これらはいずれも、10年後の世界では新車として手に入れることがおそらくはきわめて困難な、今の時代が生み落とした「奇跡の結晶」たちである。

 合理性が支配する未来が近づいているからこそ、そうした結晶の放つ熱量は、10年後の路上でますます眩しく感じられるはずなのだ。