【大貫 佑介】最近のアニメ、なぜ「異世界転生もの」ばかり?深夜アニメ収益は海外中心…”「日本で人気」だけではアニメ化されにくい”現実
「なぜ異世界転生ものばかりなのか」「なぜ国内で人気がある作品でもアニメ化されないのか」--その答えは、作品の中ではなく業界の構造のほうにある。いまのアニメは海外配信、SNS、音楽ビジネス、商品化といった要素が絡み合うなかで企画され、とりわけ深夜アニメの収益は海外市場が大きく支えている。アニメプロデューサーとして数多くの作品に携わってきた株式会社ブシロードムーブ代表取締役社長・大貫佑介氏の『アニメビジネス 漫画・小説・アニメが100倍おもしろくなるアニメの教養』(総合法令出版)より、複雑化する現代のアニメビジネスの現状を解説する。
おもしろいアニメなのに続編ができない理由
「なんで、あのアニメって2期やらないんですか?」
「SNSであんなに盛り上がっていたのに、なんで続編がないんですか?」
「みんな神アニメって言ってるのに、なんで新シリーズが作られないんですか?」
大学でアニメビジネスの講義をしていると、学生の皆さんからよく聞かれる質問です。アニメの放送中はネットやSNSでトレンドに入り、TikTokでは切り抜き動画が流れ、YouTubeでは考察動画が伸び、ファンアートも大量に投稿される。イベントには人が集まり、グッズの開封動画まで上がっている。それなのに、数年経っても続編発表がない……。
ファンからすれば、「なんで?」と疑問をもつのも当たり前だと思います。むしろ「こんなに人気なのに、続編を作らない理由ある?」とすら感じるでしょう。気持ちはわかります。私もアニメを愛するひとりの人間として、好きな作品の続編を願う気持ちは変わりません。
しかし、アニメプロデューサーという立場から正直にお答えするならば、答えは残酷なくらいシンプルです。
どんなにおもしろいと思っても、お金になる作品でなければ、続編は作られません。
もっと正確にいえば、昨今は原作が「日本国内で人気」なのはアニメ化のファーストステップでしかありません。「日本国内で人気」なことと「世界市場で人気が出る」は、まったく別の話なのです。皆さんが想像している以上に、現在のアニメ業界は海外市場の動向に左右されることが多いのです。ここではあくまで「海外市場で人気」という文脈をお伝えします。BtoBとしての文脈です。
「海外売上をメイン」に設計されるアニメ製作
現在のアニメの一般的な収益構造において、日本の売上比率・貢献度は、想像以上に低い作品が多いのが実情です。(ここにご意見があるかたはいろんなデータを比較して見てみると良いと思います。データによって海外の売上のカウントの仕方が違います。「分母」に何が含まれているのかでかなり変わるのです。)
国内のSNSで何万回バズろうと、それが直接的な売上に結びつかなければ、ビジネスとして成立していないことになります。出資する企業からすれば、「おもしろかったけど、数字としては続編を作る理由はないですね」となってしまうのです。
もちろん例外もあります。たとえば、ブシロードの『カードファイト!! ヴァンガード』のように国内・海外両方の市場におけるトレーディングカードゲームの販促を主目的としているアニメもあります。
また、国内の子ども向け玩具や大型商業施設にあるゲームを盛り上げるためのアニメ、日曜朝や土曜朝に放送されている特撮的なIP(Intellectual Propertyの略称であり、知的財産のこと)、グッズやデジタル商品の販促、広告利用の価値を上げることを目的とした5分アニメは、その限りではありません。
これらは、日本国内の玩具売上やファミリー層が軸になります。こうした作品は、日本市場だけでも成立しやすいです。日本の子どもたちと親が支えているため、海外の動向にあまり左右されません。
しかし、夜中に放送される深夜アニメや、配信サイトで流れているアニメの多くは、はじめから「海外売上ありき」で組み立てられています。これが2020年代前半の、アニメ業界の現実です。
深夜アニメ、特に配信を前提とした作品は、すでに「日本人に見せるための作品」ではなく、「世界市場で再生されるためのコンテンツ」として企画されているケースが少なくありません。
つまり、アニメ製作の企画で重要視されているのは、「海外の配信サイトで数字が取れるか」「海外配信会社が高いMG(Minimum Guaranteeの略称であり、最低保証金のこと)を払ってくれるか」であり、世界のことを考えた視点で話し合いが行われています。
言い換えるなら、現在のアニメ業界は、「どんな作品を作りたいか」より、「どんな作品なら世界市場で戦えるか」が先にくる時代になっているのです。
アニメの収益構造はどこにあるのか
あくまで私個人の体感にはなりますが、現在の一般的な深夜アニメ1作品における収益構造の約9割は、北米を中心とした海外の配信や配信に伴う収益に依存しています。「9割」という数字に驚かれた方も多いと思います。しかし業界の内部にいる人間からすれば、これは決して大袈裟な表現ではありません。
「海外消費が国内の消費を上回った」とする数字(つまりまだ国内消費を少し上回った程度)というデータもありますが、出典を見てみるとカウントされていないデータも多数あります。例えば、音楽系の売上は物理的なもの、つまりCDやサントラなど限定的な数字で、権利系収入はカウントされていないようです。このあたりは複雑なアニメの収益構造の部分なので、カウントする側が追い付かないので仕方がないと思いますが……。今はどちらかと言うとこの権利に関する収入が莫大です。
私たちは普段、日本のテレビ局で放送され、日本語で作られ、日本人声優が演じている作品を見ています。ですので、感覚としては「日本人が支えている文化」であると思い込んでしまいます。しかしビジネスとして見ると、現在のアニメ業界は、すでに世界市場を前提とした輸出産業へと姿を変えています。
かつてのアニメビジネスは、まったく別の姿をしていました。1990年代から2000年代にかけてのアニメは、日本人が円盤(DVDやBlu-ray)を購入し、グッズを買い、フィギュアを集めることでアニメの製作費が回収されていました。
当時は、アニメファンが1巻あたり7000円~1万円近い円盤を複数巻そろえて購入することが当たり前だった時代です。しかも、初回限定版にはドラマCD、イベント応募券、描き下ろしBOXなどが付属し、「コレクションとして所有する価値」の時代と呼んでも過言ではありませんでした。
この時代は、「熱心な日本人オタク」が支えていたのです。つまり、円盤の売れる作品の多さがそのまま売上に直結していました。かわいい女の子がたくさん出てくる、いわゆる「萌え系」「美少女系」のアニメが大量に作られていた時代です。
このビジネスモデルが、2010年代後半から急激に崩れ始めます。最大の理由は、サブスクリプション型配信サービスの普及です。Netflix、Crunchyroll、Disney+、Amazon Prime Videoなどといった配信サービスにより、誰もが定額で大量のアニメを視聴できるようになった結果、円盤というメディアの存在感は急速に縮小しました。
ユーザーからすれば、「1万円払ってBlu-rayを買う」より、「月額1000円前後で何百作品も見る」ほうが合理的だと判断するのも仕方がありません。いまや円盤そのものがファン向け記念グッズに近い立ち位置になっています。
「異世界転生」ばかり作られる理由
この変化で巨大化したのが、海外配信権ビジネスです。海外配信会社は、日本アニメが世界規模で費用対効果の高いコンテンツであることに気づきました。特に現在の北米市場では、日本アニメはすでに「一部マニアの趣味」ではなく、巨大エンターテインメントとして定着しています。そこで起きたのが、配信権争奪戦です。
日本の放送と同時に世界展開したい、自分たちのプラットフォームで独占配信したいと考えた海外プラットフォームは、放送前の段階から多額のMG(最低保証金)を提示するようになりました。
そうしてアニメ業界の構造が、ひっくり返ります。かつて海外配信は、「売れたらラッキー」程度の追加収入でしたが、現在では海外配信やその隣接収益がメイン収益源です。日本国内での放送は、それが日本アニメであると定義づけるため、あるいは出資企業の本業へ貢献するためのプロモーション活動とすらいえる位置づけになっています。
現在のアニメ業界では、「どれだけ日本人が好きか」より、「海外市場でどれだけ評価されるか」が強く意識されます。そして、その結果として増えたのが、異世界転生です。
よく「また異世界転生か」と言われますが、あれは業界の怠慢によるものとは言い切れません。海外市場で極めて需要があるからです。異世界転生は設定がわかりやすく、言語や文化を超えて理解されやすいといった、世界市場向けのフォーマットとして優秀な特徴があります。
昔は、「日本人向けに円盤を売る」ことに経済合理性があっただけで、いまは「海外配信で値段がつく」ことに経済合理性があるから異世界転生ものが作られているだけなのです。そして「海外配信で値段がつく」と、その隣接ビジネスでも収益が増えていきます。
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【つづきを読む】「「アニメ化の決め手は海外のプラットフォームの値付けにある」現役プロデューサーが明かす、企画の生死を握る「海外配信サイト」の正体
【つづきを読む】「アニメ化の決め手は海外のプラットフォームの値付けにある」現役プロデューサーが明かす、企画の生死を握る「海外配信サイト」の正体
