セルフレジなのになぜ時給が上がるのか…まいばすけっとが示した「高時給時代」の新常識

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首都圏で店舗数を急激に増やしている小型スーパー「まいばすけっと」。たびたびSNSで注目されるアルバイトの高時給の背景には、単なる人手不足解消のためだけではないという。

前編記事『【深夜時給2000円に迫る店舗も】「東大生が家庭教師を辞めた」ことでも話題に…まいばすけっとが「高時給」を実現できる納得のワケ』に続き、まいばすけっとのビジネスモデルなどについて、消費経済アナリストの渡辺広明氏が解説する。

経験豊富な社員が多店舗管理できる構造

同社が掲げるのが「3S主義」だ。標準化(Standardization)、単純化(Simplification)、専門化(Specialization)の頭文字を取った考え方で、作業、店内レイアウト、商品構成、設備、什器などをできるだけシンプルに統一し、多店舗を効率的に運営する。

価格政策でも、特売を頻繁に繰り返すのではなくEDLP(Everyday Low Price)を採用することで、価格変更に伴う店舗作業を減らしている。さらにドミナント出店によって配送や人員調整も効率化する。小型店を大量に出店するうえで、極めて合理的な設計である。

社員のキャリアを見ても、この思想がよく分かる。入社後はまず店舗マネージャーとして店舗運営を経験し、その後は「スーパーインテンデント」と呼ばれる2店舗の責任者に進む。

さらにエリアマネージャーになると十数店舗を管轄し、その上のゾーンマネージャーは約100店舗を統括する仕組みになっている。同社が公開している社員紹介では、実際にエリアマネージャーが10店舗を担当している例もある。

つまり「社員1人が最初から何店舗も店長を兼務する」という単純な話ではないが、店舗運営を標準化することで、経験を積んだ社員が段階的に複数店舗を管理できる構造を作っているのである。

これは筆者から見ると、「コンビニの小商圏・小型店の利便性」と「スーパーの直営・低価格」を組み合わせた業態と言える。コンビニは小型店舗を全国に大量展開するためにフランチャイズという仕組みを使った。

一方、まいばすけっとは店舗そのものを徹底的に標準化し、直営のまま大量展開できる仕組みを作った。その違いは、人材の使い方にも表れている。

高時給は単なる「人手不足対策」だけではない

そして、このモデルではパート・アルバイトの「質」が非常に重要になる。店舗に社員がいない時間でも、店がきちんと回らなければならないからだ。レジを打てればいい、品出しができればいい、というだけではない。

売場を見て、商品が足りなければ補充する。セルフレジで困っているお客がいれば対応する。店内でトラブルが起きれば判断する。清掃状態を確認し、店全体を見渡す。社員が常に横にいるとは限らない以上、店舗スタッフ一人ひとりに一定の判断力や責任感が求められる。

だから筆者は、まいばすけっとの高めの時給を単なる「人手不足対策」だけで見るべきではないと思う。少ない人数で店舗を回すためには、安定して働き、ある程度店を任せられる人材を集めなければならない。

そのためには競合より少し高い時給を提示し、より多くの応募を集め、その中から適性の高い人材を確保する必要がある。人件費を単なるコストではなく、店舗運営を成立させるための投資として捉えている面があるのではないか。

そして、この流れをさらに加速させるのがセルフレジである。まいばすけっとは2019年にセルフレジの設置・運用を開始し、2020年には全レジをセルフレジにした「オールセルフレジ店舗」の運営も一部で始めている。

同社の社員紹介にも、実際に2店舗を担当するスーパーインテンデントが「オールセルフレジ店舗」を運営している事例が登場する。

こうした話をすると、「そのうち店員はいらなくなるのではないか」と考える人もいる。しかし、私は逆だと思っている。レジという比較的定型化しやすい作業が機械に置き換われば、人間はもっと店全体を見る仕事に移っていく。これはコンビニも同じだ。

省人化によって、より高いスキルが求められる時代

私は現在も時折コンビニの現場に入るが、30年前と比べてレジそのものの操作は格段に自動化された。一方で、商品補充、鮮度管理、売場づくり、セルフレジのフォロー、宅配便、各種サービスはまいばすけっとには無いが、トラブル対応など、人間が担うべき業務は依然として多い。レジでお客を待つ時間が減れば、その分、売場に出て商品を補充したり、店全体の状態を確認したりすることができる。

つまり、これからの店舗スタッフは単なる「レジ係」ではない。「小さな店を運営するオペレーター」に近づいていく。セルフレジやAI、発注支援システムなどで単純作業が減るほど、残ったスタッフには状況を見て判断する能力が求められる。

省人化が進めば人間の価値が下がるのではなく、省人化が進むからこそ、そこで働く人間にはより高いスキルが要求されるという、一見すると逆説的なことが起きる。

そして店舗数の拡大を考えれば、まいばすけっとにとって人材確保はさらに重要になる。2026年8月21日に4店舗を同時オープンし、店舗数は1371店になった。同社はさらに2030年までに2500店舗体制を目指している。

2005年に横浜市から始まった小型スーパーが、約20年で1300店を超えた。首都圏では、住宅地を歩けばコンビニと同じような感覚でまいばすけっとを見かける地域も増えている。ここからさらに1000店舗以上増やそうとすれば、当然、それだけ多くの働き手が必要になる。

一方、日本では働き手そのものが減っていく。しかも小売だけでなく、外食、物流、介護、ホテルなど、あらゆるサービス産業が同じ人材を取り合っている。外食には「まかない」という強みがある。物流には短時間で比較的高い時給を出す仕事がある。タイミーなどスキマバイトなら「今日3時間だけ働く」という選択もできる。企業側は、これらすべてと比較されながら人を集めなければならない。

そう考えると、これから小売業で起きるのは単純な「人件費高騰」ではない。私は、「人を減らす省人化」と「残る人の高時給化」が同時に進むと考えている。セルフレジやAI、発注システム、物流の効率化などによって単純作業を減らす。

その代わり、少人数でも店を任せられる人には、より高い賃金を払う。企業にとって重要なのは「時給をいかに安く抑えるか」ではなく、「1人の1時間からどれだけ高い生産性を生み出せるか」に変わっていく。

30年以上前、コンビニ店長だった私は、時給750円程度のアルバイトを採用して店舗を回していた。いま、その時給は1300円台になった。しかし本当に変わったのは金額だけではない。「アルバイトとは何をする人なのか」が変わろうとしているのだ。

かつては社員や店長の指示を受け、レジや品出しをする存在という色彩が強かった。これからはセルフレジやAIと一緒に働きながら、店全体を見て、自分で判断する場面が増えていく。

その意味では、まいばすけっとの「時給1370円」は単なる求人広告の数字ではないのかもしれない。全店直営、小型店、3Sによる徹底した標準化、ドミナント出店、社員による複数店舗管理、セルフレジ。その仕組みを組み合わせて店舗当たりの運営効率を高める一方、現場を支える人には一定以上の能力を求め、それに見合った時給を払う。

そこには、日本の小売業が「安い労働力をたくさん使う産業」から、「少ない人数に高い生産性を求め、その分を賃金で還元する産業」へ変わり始めている姿が見えてくる。

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