「アイドルたちにとっては一生モノ」M!LKやFRUITS ZIPPER…ヒットソングの振付師・槙田紗子が明かすバズるダンスの計算式とアイドルたちの未来への配慮
ダンスが音楽のヒットを左右する大きな要素となっている現代において、数々のヒットソングの振り付けを担当している振付師・槙田紗子。感覚やセンスの領域と捉えられがちなダンスの振り付けだが、彼女の創作アプローチは驚くほどロジカルだ。あらゆる視点から緻密に計算された「最適解」を彼女はどうやって導き出しているのか。バズった楽曲を陰で支える槙田の覚悟と哲学を紐解く。(前後編の前編)
【画像】「普通に自分でひいてる笑」槙田紗子が1年間で手がけた振り付けリスト
「どれも2、3時間で完成しました」
超ときめき♡宣伝部「すきっ!」、FRUITS ZIPPER「わたしの一番かわいいところ」、CUTIE STREET「かわいいだけじゃだめですか?」、M!LK「好きすぎて滅!」、=LOVE「とくべチュ、して」…。
これらは、いずれも槙田紗子が振り付けを手がけ、TikTokを中心にバズった楽曲だ。“ヒット請負人”とも呼ばれる彼女だが、意外にも振り付けを考える際には「バズる」ことは意識していないという。
「TikTokは時期によってトレンドが変わるんです。それこそ『わたしの一番かわいいところ』が流行った2022年頃のTikTokは、上半身だけが映る画角でダンス動画を投稿するのがメインというか、それしかないと言ってもいいくらいだったんですけど、今は皆さん全身が映る画角で撮影するんです。
もちろん流行りはチェックしていますけど、個人的には、もう画角を気にしなくていいんじゃないかなって思っています。
それよりも大事なのは、私が振り付けをするのは基本的にアイドルグループということもあって、マイクを持ちながら、歌って踊れること。
だから、大きすぎる振り付けはそもそもあまり作らないんです。TikTokが出てくる前からそういう振り付けをしているのですが、それがたまたまTikTokにハマったのかなと思っています」
たまたまトレンドに合致したと謙遜する槙田だが、そのヒットの裏には、彼女ならではの極めて緻密なアプローチが存在している。
「私は、割と計算して作るタイプ。そして、その計算したものが直感で降りてくるんです(笑)。“曲調はこう”“歌詞はこう”“事務所はこうしてほしいと思ってる”“アイドルはこうしたほうが踊りやすい”“ファンの方にはこうしたら可愛く見える”――そんなふうに全方位のことを考えて、全部クリアしたものがポンっと直感で降りてくるみたいな。浮かんだ振り付けは全部ロジックで説明できるんです。
ちなみに、バズった曲は全部早くできたものなんですよ。『好きすぎて滅!』『かわいいだけじゃだめですか?』…どれも2、3時間で完成しました。悩まない。ぱっぱっぱっと身体が勝手に動く。で、“これはどうかな?”“めっちゃいいじゃん”“これにしよう”とできていきます。
バズった振り付けは、そもそも楽曲が良くて、もうこれに尽きます。楽曲がキャッチーなのはもちろん、“このパートとパートの間ってなんなんだろう”といった無駄がないし、“歌詞の言っている意味がわからない”ということもない。
歌詞とメロディーのセットでインスピレーションが湧くんですけど、振りは歌詞合わせですね。手話的に作るというか。やっぱり目と耳の情報が一致すると、人間は記憶するなってすごく思います」
「私が振りを渡したら、その子たちはその振り付けを一生やらなきゃいけない」
槙田が手掛ける振り付けは、歌詞に合わせた動きが特徴的といえる。振り付けの仕事について「楽曲に対しての最適解を出すこと」が、彼女の哲学だ。
「私は、その楽曲に対しての最適解を出すのが振り付けの仕事だと考えています。どんなに“SNSでバズる”と言われても、曲に合ってないと嫌なんです。そして、曲を魅力的に見せることが振り付けの役割。ダンスがついたことによって曲を好きになったという風になったらいいなと常に思っています」
バズった曲は2~3時間で振り付けが完成するとのことだが、決して勢いで作っているわけではない。槙田は、非常に大きな責任を感じながら振り付けをアイドルやアーティストに渡している。
「私が振りを渡したら、その子たちはその振り付けを一生やらなきゃいけないんですよ。例えば、歌番組など1曲だけを披露するような場だったら、おもいっきり踊って、息が上がるような振りでもいいと思います。
でも、アーティストにとって一番大事な場はライブ。私が振り付けした曲は、ライブのセットリストの中の1曲として入ります。ハードすぎる振り付けだと、多分(身体もパフォーマンスも)もたないと思うんです。
だから、ライブで負担になりすぎない振りを大事にしています。難しすぎたり激しすぎたりする振り付けを渡して、ライブでクオリティが下がるくらいだったら、最初からクオリティを担保できるレベルにした方がいいなって。
曲の最適解を出すこともそうですね。動きが理解できないと、理解できないままライブするしかなくなると思うんです。私にとっては振り付けした1曲でも彼ら・彼女らにとっては一生モノなので」
元アイドルという経歴を持つからこそ、槙田はアイドルたちの立場になって振り付けを考えていく。
そんな彼女は、FRUITS ZIPPER、CUTIE STREET、CANDY TUNEといったKAWAII LAB.所属のアイドルグループはもちろん、Juice=Juiceなどハロー!プロジェクト、そして中島健人の楽曲やYOASOBI「Watch me!」のダンスアニメーションパートなど、手掛けるアーティストの幅はどんどん広がっている。そんななかで、「新しいものを生み出さなければいけない」という焦りも明かした。
「焦りは常にあって…。限界突破していかないといけないんです。やっぱり“ワンパターンには絶対なりたくない”っていう気持ちがめっちゃ強いので、常に新しいものを、面白いもの、インパクトをっていうことをずっと考えています。
でも、私は、見たことのない動きは永遠に出てくるって信じているんです。手と足を使ってできる人間の動きは決まっています。だから、限界があるって言われたりするんですけど、私は限界はないはずって思っています」
「振り付けが手助けになったらうれしい」
振り付けを考えることにおいて、「一切妥協しない」と話す槙田。そんな彼女が刺激を受けると話すのは、『アバンギャルディ』のプロデューサーであるakaneだ。
「アバンギャルディはフォーメーションダンスですが、akaneさんはアイドルの振り付けではちゃんと歌詞をとっているんです。その歌詞の解釈の仕方が、“うわ、こうやるんだ”と、自分の発想にはなかった斬新な選択肢ばかり。
それを見ると、“やっぱり限界ってないよな”と思っちゃう。それは、脳みそが違う時点で同じ曲でも同じ振りは絶対に出てこないから。
例えば、10人を集めて“好き”という気持ちをポーズで表現してくださいとお題を出したら、絶対バラバラのことをやると思うんです。ハートを作ったとしても、ハートの位置や形はきっと人それぞれ違うはず。
自分の思考に慣れちゃうと同じようなものが浮かぶので、なるべく凝り固まらないようにと頑張っています」
2026年春には、CUTIE STREETが韓国の人気歌番組『M COUNTDOWN』に出演。「かわいいだけじゃだめですか?」で韓国語バージョンを披露して、大きな話題を集めた。槙田は、「振り付けが、より多くの人が楽曲を好きになるきっかけになれば」と語る。海外の音楽シーンと日本のアイドル文化の違いについて、槙田は自身の経験からこう感じているという。
「最近、韓国が日本の可愛い文化に反応していますよね。それこそ「かわだめ」(「かわいいだけじゃだめですか?」)がめっちゃバズったり。
アメリカや韓国は実力主義で完璧なものを好む傾向があると思っています。一方で、日本はミスも愛す文化がある。求めるものに違いもあります。でも、なにかのきっかけがあれば、日本のアーティストも世界に進出していける可能性はあると信じています。
世界に出ていく時に、振り付けが手助けになったらうれしいですよね。ダンスは共通言語だから。今、音楽を広めるにあたってダンスの存在は必要不可欠だと思うんです。振り付けの価値みたいなものが、もっと上がっていけばいいなって思います」
日本の“カワイイ”が国境を越えつつある今、彼女が生み出す振り付けは、アイドルたちが世界へ羽ばたくための最も力強い翼になる。楽曲の魅力を最大限に引き出す「最適解」を追い求める槙田紗子。ダンスが音楽に魔法をかけ、世界を動かすその瞬間を、私たちはこれから何度も目撃することになりそうだ。
取材・文/羽田健治
(撮影/山田智絵)
