《東武4人死亡事故・ドラレコ映像の新証言》「まだ息があり、旧ホームに這い上がろうとしていた」緊迫の一部始終と、関係者が語る“不可解な点”「すぐ近くに東武の指揮者がいたのに…」
8月20日午前、東武日光線・新鹿沼駅構内で作業中の男性4人が、特急「スペーシアX 2号」と接触し死亡する事故が発生した。警察は事故が起きた翌日に業務上過失致死の疑いで45人体制の特別捜査班を設置。関係先への家宅捜索や現場にいた作業員の聞き取りを行い、安全管理の体制に問題がなかったかどうかを捜査している。
凄惨な事故はなぜ起きたのか──。目下、原因究明が行われるなか、取材班は事故発生当時のドライブレコーダーを確認した関係者などから証言を得た。【前後編の前編】
大手紙社会部記者が解説する。
「当時、現場では列車見張り員3人、作業指揮者1人、作業員5人で除草作業にあたっていました。加えて各現場を巡回して監督する人物1人も除草作業に加わっていた。
列車が近づいてきた際、ホーム近くにいた作業指揮者の位置から80メートルほど手前に配置された列車見張り員は運転士に蛍光色の手旗を振り、作業員らの"退避完了"を意味する合図を出したとみられています。そうして列車は時速52キロほどでホームに進入し、4人を巻き込んだ。
亡くなった4人がいたのは、上りホームの延長にある『旧上りホーム』の脇でした。通常、東武鉄道の駅ホームには人がかがんで退避できるスペースがありますが、この『旧ホーム』にはそれがありません。栃木県警は、作業員らに退避方法などが事前に正しくレクチャーされていなかった可能性を含め、業務上過失致死を視野に捜査している」
東武鉄道の説明によれば、「運転士は列車見張り員が出した進入可能の合図を確認してホームに進入した。見張り員がなぜ合図を出したのかは不明」だという。
いまだ謎が多いこの事故。NEWSポストセブン取材班は、「特急列車のドライブレコーダーを確認した」という鉄道関係者に話を聞くことができた。この関係者は、「亡くなった4人は、ホーム作業中の退避に関する事前知識がなかったのでは」と指摘する。
列車が迫る直前まで棒立ちの状態で…
「というのも、列車が目の前まで迫っているのに、4人とも旧ホームに背中をつけて、線路の方を向き、右側から迫ってくる運転士の方を向いて、線路上で一列になって棒立ちだったんです。それで退避できているのだと勘違いしているように見えました。
旧ホームの下には退避スペースはないので、列車から退避するには、旧ホーム上に上がるしかないのです。旧ホームの高さは110センチくらいですが、大人なら簡単に上がれます。スロープもありますが、それは事故現場から50メートルほど離れた場所にある。その場から旧ホームに上がるというのが、あの状況では当然の退避方法です」
事故当日は作業現場から80mほどの地点にいたと見られる「列車見張り員」1人のほか、上下線それぞれ作業現場からおよそ315メートルの位置に「中継見張り員」が各1人ずつが配置されることになっていた。列車が近づいてきた際、まず作業現場からより遠方にいる「中継見張り員」が作業現場近くにいる「列車見張り員」に列車接近を伝え、現場作業員が退避したことを「列車見張り員」が「中継見張り員に伝える。その後に「中継見張り員」が運転士に"列車接近了解合図"を出して「列車見張り員」も同じく合図を出す。"列車接近了解合図"を確認した列車の運転士はその都度、警笛を1回ずつ鳴らすことになっている。
「しかし、確認できた警笛は『列車見張り員』と『中継見張り員』の間、作業現場から約215メートル地点での1回だけでした。本来であれば、運転士はまず『中継見張り員』、次に『列車見張り員』からの合図を受けてそれぞれ1回ずつ警笛を鳴らすことになっているはずです」(同前)
記者会見では「本来であればまったく支障物がないはずだったところ、(接触)直前で4名の方が認められて、『退避しているはずだ』と運転手は思っていたという話は確認できている。そこで非常ブレーキかけたが、今回の事実に至った」という説明もなされたが、この関係者によれば説明に違和感を持ったという。
「退避できていない作業員を目視したら、本来なら『パーン』という緊急の警笛を鳴らし続けるはずなのですが、それが確認できませんでした。加えて、運転士の列車無線の第一報は『作業員にぶつかったようだ』というものでした。『ぶつかったようだ』と言うのは"明らかな人身事故です"というものではなく、異変を感知したために非常ブレーキをかけたということです。
つまり、運転士からは直前に至っても作業員が見えていなかったのではないか、と感じました」
東武鉄道は記者会見で「中継見張り員の1人は『現場に着いていたが、列車見張り員と意思疎通できる状態ではなかった』と話している」と説明したが、この関係者は、十分な安全確認が行われていなかった可能性を指摘する。
「一瞬でぐちゃぐちゃになった」
除草作業が始まったは当日10時ごろ。事故が起きたのは、彼らが下り線路での作業を終え、上りの線路に移動した直後だった。この時点では亡くなった4人と現場指揮者、また孫請けの作業員2人の計7人が線路上にいた。また栃木県警の捜査では、「中継見張り員」の1人は当時、上り路線での作業のため、車で配置場所に向かっている最中だったことがわかっている。「中継見張り員」が所定の監視位置に着く前に作業が始まり、事故が起こった可能性が高い。
「そもそも中継見張り員が定位置についていない状態で、作業が開始されたこと自体、大きな問題です。
特急が近づいてきた際、ドラレコの映像ではすでに作業指揮者はホーム上にいました。彼がたったひと言、『ホームの上に上がれ』と言えば事故は起きなかったのではないか、と思うような状況でした。作業をしていた6人のうち、1人は線路から離れており、もう1人は旧ホーム上に退避して難を逃れました。なぜ亡くなった4人だけが線路上に残っていたのか不可解です。同じように逃げる時間はあったはずなのに……。ドラレコを見ると、どうしても防げた事故だと思えて仕方がありませんでした」(同前)
後悔の念を隠しきれない様子で、さらにこう続けた。
「旧ホームと特急『スペーシアX 2号』の間は5センチくらいしかないんですよ。大人の小指よりも小さい幅しかない。4人は茫然とした様子のまま、一瞬のうちに列車に挟まれ、そのまま頭や胴体を持って行かれてぐちゃぐちゃに……。なんとも酷い映像でした。
轢かれたうち1人は、映像ではまだ息があり、旧ホームに這い上がろうとしていましたが、結局、病院で亡くなられた。彼らは自分が事故に遭ったことすら気づかないまま亡くなってしまったんでしょう。本当に無念で仕方ありません」
ドライブレコーダーの映像に関する証言を踏まえ、東武鉄道の広報部に見解を求めたところ、以下のような回答があった。
「会見でもご説明させていただきましたが、運転士は列車接近了解合図を受けて汽笛を鳴らすことになっています。具体的には、警察や運輸安全委員会の捜査・調査中のため、当社として回答は差し控えさせていただきます」
関係者によれば、一度に4人が死亡する事故はこれまでにない重大事案。だが、過去5年間だけでも"接触未遂"が複数、あったのだという──。後編で詳報する。
(後編に続く)
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