指名漏れ組の「逆襲」が始まった! 都市対抗で評価を上げた“遅咲き”ドラフト候補3人衆
一度はドラフトで名前を呼ばれなかった投手たちが、東京ドームで再びNPBスカウトの視線を集めた。【西尾典文/野球ライター】
【写真】逆襲開始!10月にドラフト会議で名前を呼ばれるかもしれない都市対抗で大活躍した3選手の姿
WBCにブラジル代表で出場
8月26日に開幕した都市対抗野球は、9月6日の決勝で西濃運輸(大垣市)がNTT西日本(大阪市)を4対3で下し、12年ぶり2度目の優勝を果たして幕を閉じた。連日多くの関係者やファンが詰め掛け、ドラフト候補をチェックするスカウトの姿も目立った。
社会人では、高卒3年目、大卒2年目が最初のドラフト対象年となる。今年の解禁組では柿本晟弥(パナソニック、NTT西日本の補強選手)、長屋竣大(ENEOS、東芝の補強選手)、藤沢涼介(東京ガス)、杉崎成(JR東日本)らが高い注目を集めていた。

しかし、スカウトの目を引いた選手は解禁組だけではない。昨年以前から指名対象となりながらNPB入りに届かなかった、いわゆる「解禁済み」の中にも、都市対抗で改めて評価を高めた選手がいた。
筆頭は高卒5年目の沢山優介(ヤマハ、トヨタ自動車の補強選手)だ。
掛川西時代から注目を集めた大型左腕で、高校卒業時はプロ志望届を提出せずヤマハへ入社。解禁初年の一昨年も春先から有力候補に挙げられていたが、夏場に調子を落として指名を逃した。昨年もNPB入りには届かなかった。
大きく状況が変わったのは今春だ。両親がブラジルにルーツを持つことから、3月のWBCにブラジル代表で出場。イタリア、イギリス戦に先発し、計8回を4安打無失点、6奪三振に抑えた。MLB選手を擁する打線を相手に結果を残し、一気に注目度を高めた。
その後も好調を維持し、都市対抗ではトヨタ自動車の補強選手に選ばれた。チームはJFE西日本との初戦で敗れたが、沢山はリリーフで2回を投げて1安打無失点、3奪三振。筆者のスピードガンでは最速151キロをマークした。
沢山を視察したNPB球団のスカウトはこう評価する。
「調子の波が大きく、なかなか続けて結果を残せませんでしたが、今年はずっと良い状態が続いています。力の抜き方を覚えたように見えます。ストレートも変化球もしっかり狙ったところに投げられていますし、ボールの力も申し分ありません。落ちるボールで左打者だけでなく右打者からも三振を奪える。左投手で一軍でも早く使える選手は貴重ですから、上位でないと獲得できないかもしれません」(セ・リーグ球団スカウト)
以前は好不調の波が大きかったが、今季は余計な力を抜きながら腕を振れる場面が増えた。ストレートの出力に加え、変化球の制球も安定している。左腕で150キロを超え、右打者から空振りを奪える落ちるボールもある。即戦力候補に挙げやすい投手だ。
社会人5年目ながら高卒入社のため、大学4年生とは1学年しか違わない。年齢面のハードルも低く、今後の展開次第では上位指名まで入ってきても不思議ではない。
去年とは別人
沢山と同じ東海地区で評価を上げた川原嗣貴(Honda鈴鹿)も見逃せない。
大阪桐蔭では3年春、1学年下の前田悠伍(現・ソフトバンク)らと投手陣を支え、選抜高校野球優勝に貢献。同年のU18ワールドカップでは日本代表に選ばれ、大会を通じて3勝0敗、防御率0.00。ベストナインにあたるオールワールドチームの救援投手に選ばれ、最優秀投手も受賞した。
高校卒業時にプロ志望届を提出したが指名はなく、Honda鈴鹿へ入社。社会人でも投球が安定せず、昨年は二度目の指名漏れを経験した。
4年目の今季はリリーフでの登板が増え、持ち味を発揮する場面が増えた。都市対抗東海地区二次予選では6試合、14回を投げて無失点、17奪三振。チームの本大会出場を支えた。
本大会では初戦のJR東日本戦にリリーフ登板。3回を無安打無失点、5奪三振に抑えた。チームは4対8で敗れたが、川原自身は予選から続く好調ぶりを東京ドームでも示した。
投球を見たパ・リーグ球団のスカウトは、昨年からの変化に驚いていた。
「去年とは別人ですね。短いイニングで腕がしっかり振れていました。190cm、100kgの体であれだけ向かってこられると、打者は圧力を感じます。リリーフで使うと面白いと思います」(パ・リーグ球団スカウト)
本大会でのストレートは最速149キロ。数字以上に球威があり、190cm、100kgの大きな体を生かして打者へ向かっていくため迫力がある。140キロ台のカットボールでも度々空振りを奪っていた。
長いイニングを意識して力を抑えるより、短いイニングで持っているボールを前面に出した方が合っているのかもしれない。現在の投球なら、プロでもリリーフ起用が合いそうだ。
高校卒業時、昨年のドラフトと二度指名を逃した。三度目の挑戦となる今秋は、これまでで最もNPBに近づいている。
社会人の“遅咲き”が高く評価された例も
沢山と川原は高校から社会人へ進んだが、大学卒業後に時間をかけて本格化した投手もいる。
大学卒4年目の谷内隆悟(エイジェック)だ。
同志社大時代は故障に苦しみ、リーグ戦での登板は4年間でわずか2試合、計約1イニングだった。それでもフォームのバランスや素材を評価され、卒業後はエイジェックへ入社した。
社会人でも故障に悩まされたが、2年目後半から登板機会を増やした。3年目の昨年はSUBARUの補強選手に選ばれ、都市対抗を経験。4年目の今季はエイジェックで主力を担い、チームの快進撃を支えた。
都市対抗では3試合に登板し、12回2/3を8安打1失点、17奪三振。沖縄電力戦で4回2/3を無失点、東邦ガス戦で4回無失点、準決勝の西濃運輸戦でも4回1失点、7奪三振と好投した。チームは創部以来最高となるベスト4まで勝ち進んだ。
昨年から谷内をチェックしていたセ・リーグ球団のスカウトは、変化をこう話す。
「実戦経験が乏しかったため、昨年はまだマウンドで落ち着きがありませんでしたが、今年は安定してきました。キャッチャーの構えたコースに来るボールも増えています。フォームのバランスと腕の振りは素晴らしいです。左投手はどこも欲しいですから、まだ指名の可能性はあると思います」(セ・リーグ球団スカウト)
大学時代から実戦経験が少なく、社会人でも本格的に投げ始めるまで時間がかかった。その分、26歳になった現在も伸びしろを感じさせる。
フォームのバランスが良く、腕の振りもスムーズだ。そこに制球の安定が加わり、都市対抗では12回2/3で17三振と空振りを奪う力も示した。左投手を必要とする球団は多く、ドラフトまで候補に残ってきそうだ。
エイジェックは2018年創部で、これまで所属選手がNPBドラフトで指名された例はない。谷内が指名されればチーム初となる。
社会人の“遅咲き”が高く評価された例もある。
2023年には大学卒5年目だった森田駿哉(Honda鈴鹿)が巨人から2位指名を受けた。プロ入り後は故障に苦しんだ時期もあったが、3年目の今季はリリーフへ回り、9月7日時点で25試合に登板して8ホールド、防御率2.97。巨人のブルペンで一軍戦力になっている。
沢山、川原、谷内はいずれも、一度はドラフトで名前を呼ばれなかった。故障や不調を経験しながら投球を磨き、都市対抗では改めてスカウトに力を示した。
ドラフト候補の評価は、最初に指名対象となった年だけで決まるわけではない。10月22日のドラフトで、3人の名前が呼ばれるか注目したい。
西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。
デイリー新潮編集部
