残業「月100時間」“実質合法化”? 労基署“45時間超NG”の一律指導見直しで「過労死増える」労組が危ぶむ理由
過労死ラインを超える残業を、労働者が「正直に申告できない」--。労働組合の担当者は9日、都内で開かれた会見でそう訴えた。体調を崩したのを機に、月80時間超の残業を申告した組合員が、その直後に"業務改善"の名目で退職コースに乗せられたという。同じ職場では、1年間に28人が精神疾患で1か月以上の休職に追い込まれていた。
会見は、労働団体「雇用共同アクション」が、労働時間規制の緩和に反対する意見書を厚生労働省に提出したのを受けて開かれた。国の審議会で進む労働基準法(労基法)の見直しをめぐり、審議のさなかにある今の実態を伝える場となった。
意見書を出したのは、全国労働組合総連合(全労連)や日本マスコミ文化情報労組会議などでつくる「雇用共同アクション」だ。8月26日付で、上野賢一郎厚労相と、労働政策審議会(労政審)労働条件分科会の委員に宛てて提出した。
問題視するのは、審議の"入り口"である。労働時間法制の見直しは、政府・日本成長戦略会議の「労働市場改革分科会」がまとめた「とりまとめ」を受け、労政審の労働条件分科会が7月14日から審議を開始した。
だが、同アクションは、その労働市場改革分科会の構成が、公益・労働・使用者が対等に話し合う「三者構成主義」に反すると指摘する。
構成員11人のうち使用者側が5人で、労働者側はわずか1人。「たった一人の労働者代表が多勢に無勢の状況を強いられた」と意見書は批判している。
「裁量」の名の下で、残業代が消える裁量労働制とは、実際に働いた時間にかかわらず、あらかじめ決めた時間だけ働いたとみなす「みなし労働時間制」の一種である。会見に出席した雇用共同アクションの土井直樹事務局長は「制度の目的は、労働者に裁量を与えることではない」と述べ、"残業代(割増賃金)を払わずに済ませるための仕組み"だと主張した。
実労働時間の管理が使用者の手を離れれば、成果が出るまで時間の制限なく働かされても、労働者は正直に時間を申告しづらくなる。冒頭の組合員のように、正直な申告が人事評価や退職勧奨に直結しかねないからだ。土井事務局長は、「業務改善プログラム(PIP)」で従業員を退職へ追い込む外資系企業の手法にも触れ、「労働者が本当の労働時間を申告できない」と語った。
“業務委託”にすり替え、辞めたら42万9000円を請求会見に参加した労組の担当者からは、実態は会社の指示で働く労働者なのに、契約だけ「業務委託」にして、労基法や社会保険の保護から外す手口も報告された。あるフランチャイズ店では、たった1人の店長が朝の鍵開けから夜の鍵閉めまで拘束されながら、契約は業務委託(請負)とされていたという。
本人が辞めると、会社は研修費として42万9000円を違約金条項に基づいて請求。3月分の委託料が全額差し引かれ、その月の収入はゼロになった、と担当者は説明した。なお、このケースでは最終的に請求撤回と返金で決着したという。
月100時間まで“合法的に”働かせる指導に?もう一つの焦点が、厚労省が8月19日に発表し、9月1日から始まった監督指導の見直しである。労働基準監督署はこれまで、月45時間を超える残業が続く職場に是正を促してきた。月45時間超の時間外・休日労働は脳・心臓疾患のリスクを高める水準とされ、2018年の労基法改正で「限度時間」と位置づけられている。
ところが見直しでは、この一律の指導は改められることになっている。7月に閣議決定された「骨太方針2026」などを踏まえた対応だが、労使が同数で参加する労働条件分科会の審議を経ずに決められた、と意見書は批判した。
土井事務局長は「長時間労働を"減らす"指導から、"合法的にできる"ように助ける指導に変わりかねない」と指摘。
「特別条項(=繁忙期などに45時間の原則を超えて残業させられる労使協定)を結べば、 月100時間近くまで残業させることも可能となり、それが新たな"基準"になれば、過労死はむしろ増える」と続けた。
「労働条件を緩和させる方向に流れるのではないか」意見書が最も強く問題視したのは、労使の合意で法律の最低基準を下回れるようにする"デロゲーション"(労働基準の調整・代替)の拡大だった。
憲法27条2項は「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」と規定しており、意見書は法律ではなく企業ごとの労使合意で労働条件を決める仕組みは「憲法に反する」と主張。
土井事務局長は「デロゲーションなど、労働条件を緩和させる方向に今後国の議論が流れていくのではないかと強く懸念している。厚生労働省は労働者保護の観点から、労基法を厳密に適用していくとともに、労働時間短縮を進めるべきだ」と訴えた。
