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蒼井優さん主演のTBS系金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』が大きな話題となっています。9月4日に放送された第9話では、蒼井さん演じる主人公・咲子に4人の元夫がいたという秘密が明かされました。(※本稿はドラマ「Tシャツが乾くまで」の第9話のネタバレを含んでいます)

咲子は5人目の夫にあたる充(松山ケンイチさん)に、自身の離婚歴を伝えないまま結婚していました。その充にも、妻の前から突然姿を消してしまう「失踪癖」がありました。

ドラマの中の話とはいえ、もし現実にこうした夫婦がいたら、法的にはどう扱われるのでしょうか。たびたび行方をくらます「失踪癖」と、4回の離婚歴を告げずに結婚した「バツ4隠し」。離婚を切り出せるのは、どちらの側なのでしょうか。簡単に解説します。

●1年の失踪は「悪意の遺棄」になる?

裁判で離婚が認められるのは、民法770条1項が定める場合に限られます。約1年の失踪、というケースでまず思い浮かぶのは「配偶者から悪意で遺棄されたとき」(2号)です。

ここでいう「悪意」は、事実を知っているという意味ではありません。夫婦の共同生活を壊す結果を積極的に望む、あるいは受け入れる意思をいうと解されています。

「1年も失踪していれば、悪意の遺棄といえるだろう」と思うのは自然なことです。しかし、実務上「悪意の遺棄」はそう簡単に認められません。

たとえば、妻が無断で家を出て、1年6カ月あまり行方が分からないままになった事案があります。それでも裁判所は、悪意の遺棄を認めませんでした(新潟地裁昭和36年(1961年)4月24日判決)。

妻は更年期障害で心身の調子を崩していました。所在不明だという事実だけから悪意を推定することは許されない、というのが理由です。

なお、悪意の遺棄が認められなくても、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」(4号)がある場合には、離婚が認められます。

●隠していた「バツ4」は離婚原因になる?

では逆に、充の側から咲子に離婚を求められるでしょうか。

結婚するときに自分に不利な事情を黙っていた、というだけでは、ただちに離婚原因とはなりません。離婚原因があるかどうかは、隠していたこと自体の善し悪しでは決まりません。夫婦としての実体が失われ、元に戻る見込みがなくなっているかどうかで判断されるからです。

咲子のバツ4は、それ自体が今の結婚生活を続けられなくするものではありません。積極的に嘘をついた、発覚した後の振る舞いも悪質だった、などの事情があれば、離婚原因が認められる余地はありますが、単にバツ4を黙っていたというだけでは認められない可能性が高いと思われます。

充からの離婚請求には、もう一つハードルがあります。実務上、自らが離婚の原因を作った者(「有責配偶者」といいます)からの離婚請求は、認められにくいとされています。

長期間の別居があるなど一定の条件がそろえば認められることもありますが(最高裁昭和62年(1987年)9月2日大法廷判決)、同居を再開した充がその条件を満たすのは難しいでしょう。

●慰謝料請求も直ちに認められるわけではない

では、「バツ4」を隠していた咲子に対し、充は慰謝料を請求できるでしょうか。

これも、単にバツ4であることを黙って結婚した、というだけだと、認められない可能性が高いと考えられます。

たとえば、結婚前に自分がある病気にかかっていることを相手にはっきり伝えていなかった事案で、裁判所は、離婚後の元配偶者からの損害賠償請求を退けました(東京地裁令和4年(2022年)11月22日判決)。

もちろん、事実を隠していたことで慰謝料が認められた裁判例もあります。たとえば、婚約後、結婚前に他の男性の子を身ごもったまま結婚し、出産した妻の事案で、裁判所は、元夫への賠償責任を認めました(甲府地裁昭和55年(1980年)12月23日判決)。

ただ、これは単に過去の離婚を黙っていた、というものとは異なります。

●「戸籍を見れば分かる」とは限らない

充が「結婚前に戸籍を見れば分かったはずだ」と思うのは自然なことだと思います。ところが、そうとも限りません。

離婚した後に本籍を移したり(転籍)、再婚などで新しい戸籍が作られたりすると、前の結婚と離婚の記載は新しい戸籍に引き継がれません。新しい戸籍に移すのは「現に婚姻関係の継続するその婚姻に関する事項」に限られているからです(戸籍法施行規則39条1項4号)。

相手の戸籍謄本を取っても、過去の離婚歴が載っていないことがあります。確かめるには、転籍前の本籍地で除籍謄本を取るなど、戸籍をさかのぼる必要があります。

小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)