地震や水害が起きたらきっと動物たちの命は救えない…杉本彩が指摘、ペットショップやアニマルカフェで起こりえる悲劇
「地震や洪水などの水害が頻発しています。2011年の東日本大震災から『ペットと災害』に関する課題が幾度となく指摘されてきました。地震や水害などの災害では、自宅で飼育されるペットだけでなく、ペットショップや猫カフェ、アニマルカフェや犬猫の保護施設なども被害に遭います。ペットとの同行避難(※1)に関しても理解が広がらない中、商業施設にいる動物たちの避難について、ペット業界の中でも認識やルールが決まっていない現状があります」
こう指摘するのは、長野県松本市の繁殖事業者の事件など、動物虐待事案の告発や、動物福祉向上に関する普及啓発活動を積極的に行っている『公益財団法人動物環境・福祉協会Eva』の主宰でもある俳優の杉本彩さんだ。
犬猫全頭避難できたのは「奇跡」でしかない
7月28日に発生した熊本地震では、地震発生から約1時間20分後に嘉島町の「イオンモール熊本」で爆発事故が発生し、7名の方が犠牲となった。現在も発生原因や従業員等の避難体制に問題がなかったか調査が進められている。
この報道がされたとき、SNSでは、爆発に対する驚きと人命を心配する声とともに、「イオンモールにはペットショップがあったはず。動物たちも心配」「猫カフェもあった。救助は人命優先。でも、可能であれば動物たちも助けてあげてほしい」といった声が数多くSNSに上がった。
イオンモール熊本内にあったのは、ペットショップ『ペットプラス熊本店』と猫カフェの『Cat Café MOFF』。『ペットプラス熊本店』は、爆発があった28日夜、公式のInstagram(@petplus_official)を通して「スタッフの迅速な判断と適切な対応により、店舗のワンちゃん・ネコちゃんたちはスタッフとともに速やかに避難し、現在は安全な場所で落ち着いて過ごしております。どうぞご安心ください。沢山の心配の声をいただき心より感謝いたします」と報告した(原文ママ ※2)。
猫カフェの『Cat Café MOFF』は、爆発当日25匹が取り残されたが、翌29日に「消防・警察の皆様、およびイオンモール関係者の皆様の格別のご理解と多大なご協力のもと、当社マネジャーが施設内に入り、25頭すべての猫たちを無事に救出・搬出いたしました」と公式Instagram(@moff_official_)に状況がアップされた(原文ママ ※3)。2店舗とも動物たちが無事に救助されたという報告にSNSにも安堵の声が数多く上がった。
しかし、杉本さんはこう言う。
「今回、ペットショップと猫カフェの動物たちが全頭救助できたことは本当によかったと思います。助かったという報道を見たとき、奇跡に近いと正直思いました」
杉本さんは長年、ペットショップのあり方について指摘し、動物の適正な飼育管理を確保するための法規制を求め、声を上げてきた。その中で、元ペットショップ従業員の人たちなどに話を伺う中で、災害時の体制について以前から不安を持っていたと語る。
避難訓練をしているペットショップはあるのか!?
「ペットショップでは、店舗内の表側に陳列している動物以外に、バックヤードにも動物がいます。一頭売れたら空いたスペースに新たに展示したり、体調などを見て入れ替えるため、バックヤードにも複数の動物たちがいます。
現状の動物愛護管理法では、動物販売事業者や繁殖業者(第一種動物取扱業者)が、従業員1人あたりに飼育できる犬と猫の頭数には上限(数値規制)が定められています。ですが、その数は想像以上に多いです。従業員1人に対して、犬の場合は20頭(繁殖犬は15頭まで)、猫の場合は最大30頭まで(繁殖猫は25頭まで)です(※4)。
飼育管理しているスタッフの数は店舗の大きさなどにも寄りますが、よほど大型の店舗でない限り、中型店で5~10名。スタッフの数によってはかなりの数の犬猫を置いていいことになり、実際にそうしているペットショップもあります。私たちの団体では、1人の従業員に対して対応できる犬や猫の数が多すぎるため、販売業であれば1人10頭程度でなければ十分な管理は困難だと長く要望を上げ続けてきました」
ペットショップには、犬や猫だけでなく、ハムスターやウサギなどの小型動物や爬虫類、熱帯魚などもいるが、これらは動物愛護管理法では頭数制限がないので数はペットショップの判断となる。
「いずれにしても、お客様に声かけをし避難誘導しながら、限られたスタッフで動物たちの安全も確保するという作業は簡単ではないでしょう。さらに、災害が起きれば動物たちも怖がります。パニックを起こして隠れてしまう犬や猫も少なくありません。展示用のケージから運び出すキャリーケースへの移動は簡単に見えるかもしれませんが、バックヤードではケージが地震で倒れる可能性もあります。また、動物を放して展示している動物カフェやふれあい動物園の場合、短時間で確保するのはとても大変だと想像できます」
実際に過去の災害でも、ペットショップが被害にあったケースはある。
2019年10月に起きた台風19号では、栃木県のホームセンター内のペットショップ(現在閉店)でバックヤードに避難していた動物たちの棚が倒れ浸水で子犬16匹・子猫1匹が死亡する事例があった。この問題が起きたことから2019年12月の臨時国会で参議院議員の塩村あやか氏が「販売される動物たちを災害から守るための法やガイドラインはどこにも存在していない」と指摘(※5)したが、その後7年経ってもこの部分の改善は見られないという。
「過去の地震や水害での、ペットショップや動物施設の死亡事例は報告が上がっていないだけで実際にはもっとあるのではないかと思っています。
また、問題はペットショップだけではありません。学校で飼育されるウサギなどの動物も水害などの被害に遭うケースがあります。また、動物愛護団体も災害発生地に施設があれば被害に遭うことも……。死亡事例ではありませんが、大雨で土砂崩れが起きて、動物たちを保護していた保護団体のシェルター施設が使用できなくなった事例もありました。自宅にいるペットの避難ですら同行避難が難しい中、複数の動物を移動させることは容易ではありません。今までこういった議論が一切上がってこないことが問題だと感じています」
100キロ超えの動物を災害時どう運ぶ!?
7月28日の熊本地震だけでなく、その後、千葉をはじめ関東では水害も頻発している。さらに、8月23日には茨城南部震源で震度5弱の地震も起きた。首都直下地震や南海トラフが「必ず起きる」と言われる中、動物を扱う施設に対して管理が甘すぎるのではないかと杉本さんは指摘する。
「動物の命は大切です。ですが、災害時、やはり優先されるのは人命です。だからこそ、災害時、動物をどうするかは事前に考えねばならない問題だと感じています。もしも、首都直下地震が起きれば、首都圏には熊本以上にたくさんのペットショップや猫カフェがあります。また、他にも野生動物を取り扱う室内型ふれあい動物園やアニマルカフェも存在します。犬猫でもキャリーバッグに入れて安全な場所に移動するのが難しい中、お客様を避難誘導しながら複数のカピバラやミーアキャットをどう安全な場所に移動するのでしょうか? ふれあい動物園の中には、100キロを超えるリクガメがいるところもあります。冷静に考えて、リクガメを安全に運ぶには3~4人は必要でしょう」
野生動物を扱うふれあい動物園やアニマルカフェは、以前から動物に対するストレスや管理体制、感染症の問題などが指摘され、2025年にWWFがレポートを出している(※6)。環境省もこの問題を重視し、2026年9月から初めての実態調査を開始することになった。杉本さんは、こういったさまざまな問題が災害時にはより浮き彫りになって大きなリスクを生む可能性があると語る。
「私も動物が好きなのでいろんな動物と触れあうことの楽しさはわかります。通常の運営でも課題があるのに、地震や水害といった災害があった際、来場者やそこに働く従業員の命を守りながら、動物を救うことは難しく、犠牲が出れば『大きな災害だから仕方がなかった』と説明されるだけになってしまいます。
人を楽しませるために展示されている動物たちの命を、災害時にも守るためには、平時からの備えが欠かせません。人命を最優先としながらも、動物を扱う事業者として、動物の避難方法や受け入れ先の確保、スタッフへの専門的な知識の共有や訓練など、できる限りの対策を講じておくことが求められます。災害はいつ起こるかわかりません。だからこそ、ペットショップだけでなく、ふれあい動物園やアニマルカフェなど、動物を展示・取り扱う施設には、日頃から『災害が起きたとき、この動物たちをどう守るのか』という視点を持って備えていただきたいと思います。そして私たちもまた、動物を扱う施設のあり方について、一緒に考えていくことが必要です」
杉本さんの言葉からも、今回の熊本のイオンモールのペットショップや猫カフェの事例は、本当に「奇跡」だったということがよくわかる。災害が起きたときにSNSで「動物たちが心配」と声を挙げるだけでは救出できない命もある。思いもよらない自然災害が増加する今だからこそ、人の避難準備はもちろんのこと、動物を気にかけるのであれば、ペットショップやアニマルカフェなどの動物施設に「災害のためにどんな対策をしていますか?」といった問いかけや、動物の展示や販売に対する疑問の声をあげ続けることが大切なのだ。
