【竜巻禍1年】牧之原市を中心とした国内最大級の竜巻災害で甚大被害受けた農家…再建への歩み追跡取材(静岡)
2025年9月5日に、静岡・牧之原市を中心に発生した国内最大級の竜巻。家屋などに甚大な被害が出ましたが、農業の面でも所有するほとんどのハウスが倒壊した農家がいます。竜巻災害が発生したことで新たに見えた課題と変化。立ち止まることなく進み続けた農家を追いました。
9月5日、愛知県にある花などを扱う卸売市場で台車を運ぶ1人の男性、藤田治之さん57歳です。
台車に積まれているのは花と野菜の苗。藤田さんは静岡・牧之原市で苗農家を営んでいます。
「今回ひどかったから(当時は報道の)ヘリコプターが何台も来て…自分は借金の山だけど」
こう話す理由、それは1年前。
(カメラマン)
「画面中央、多くのハウスが倒壊しています」
藤田さんが所有する43棟のハウスのうち35棟が倒壊。それにより我が子のように育てきた50万株が一瞬にして失われたのです。
その被害の原因は…。
(吉田町で)
「風で倒れる」
(牧之原市で)
「竜巻、竜巻だぞ」
静岡・牧之原市から吉田町にかけて、風速75メートル、国内最大級の竜巻が襲ったのです。
複数の渦が発生したとされ、吉田町では飛ばされた車に乗っていた男性1人が死亡。牧之原市では全壊73棟を含む1350棟が被害を受けました。さらに、農業への被害も11億円以上に。
藤田さんの農場だけでも被害額は2億5千万円に及びました。
(藤田 治之さん)
「竜巻で一瞬で終わり」
災害に関する補助金の上限は1200万円。この金額ではハウス4棟しか再建できません。
(藤田 治之さん)
「ここで500万、ここで4000万、話にならない」
途方に暮れた藤田さん。
(藤田 治之さん)
「素直に考えても、1年以内には倒産か廃業するしかない」
被害のあまりの大きさに一時は事業をたたむことも考えましたが、藤田さんの苗を待っている人が多くいたため、2億円近くの借金をして、再建の道を歩むことを決意しました。
藤田さんは、この竜巻災害を経験して、ある後悔がありました。
竜巻に遭遇する確率は数千~数万年に一度といわれる中、自分と同じ思いはしてほしくないと…同じ生産者を前に、自らの体験を語りました。
(藤田 治之さん)
「保険に入らなかった自分自身の理由というのも、保険を知らなかったということと同時に保険に入らなくても丈夫なハウス作ればいいじゃんという思いもありました。やっぱり1回竜巻を受けると不安です」
藤田さんのハウスは風速45メートルと台風には耐えられる設計でした。そのため、そう簡単には倒壊しないだろうと、保険には加入していませんでした。
一方で、ここ数年は災害が激甚化していて、全国でも農業被害が増加しているといいます。
(農林水産省 吉村 侑一郎 災害対策調整官)
「毎年農林水産分野で2000億円を超える被害が出ている…局所的な豪雨がかなり増えている…いつ どこでそういった局所的に大きな被害が生じるか分からない」
8月の千葉県での豪雨被害のほか、線状降水帯の発生頻度も多くなっている今、国としては何か対策はしているのでしょうか。
(農林水産省 吉村 侑一郎 災害対策調整官)
「被災した農業用ハウスなどの個人の財産に対しては農業者みずからが丁寧に備えていただくことが大事」
ただ、その備えへの支援として、農業共済という国が掛け金の半分を負担する公的保険制度があり、2026年度も約800億円の予算がつけられています。この公的保険には全国の8割の農家が加入しているものの、藤田さんのように加入していなかった農家もいるのが現状です。
(農林水産省 吉村 侑一郎 災害対策調整官)
「農業共済に関しての周知が行われてた面はあると思うが、それが十分かというと不足もあったかと思う。しっかりとそういった反省を今後活かしていく必要はある」
そんな中、牧之原市では、この竜巻を契機に市と共済組合などが協定を締結し、農業保険への加入を促すための取り組みが始まりました。そして…。
(関東農政局 静岡拠点 辻 義晴 総括農政推進官)
「農業リスクを見える化した農業リスク総合マップです」
農水省で静岡県を担当する部署では、この竜巻被害をきっかけに、今までなかった農家向けのハザードマップを作成。そこに農業共済の加入率も同時に表示できるようにして、実態把握に努めるとともに、これまでの教訓を生かす取り組みも行っています。
(関東農政局 静岡拠点 河合 亮子 地方参事官)
「いつ自分の身に災害が起こってもおかしくないことを、きちんとお知らせしていきたい」
竜巻被災から1年。倒壊したハウスはすべて元通りになりました。公的保険にも加入した藤田さん。被災前の出荷数までには戻っていませんが、一歩ずつ前に進み始めています。そして、そこには、藤田さんの事業を継ぐことを決め新たに加わった娘夫婦の存在もあります。
(藤田 治之さん)
「うれしい、うれしいよね。ここまでだとは思わなかった。感動した… 使ってみて、入ってひと月もしないうちにどんどん前進み始めて」
ハウス一面に広がる花の苗。竜巻から1年が経つ中、新たな借金を背負うことになりましたが、ハウスには被災前と同じ景色が戻ってきました。
(藤田 治之さん・57歳)
「倒壊してしまったものを元に戻すだけでも時間かかったし、やっと今作っている…再出発がやっとできたかなというふうに思います」
災害が起きて初めて見えてくる課題。それを教訓として生かす一方で、被災者は立ち止まることなく進み続けています。

