【海洋地震学の第一人者が警鐘】“同じ震源で2か月おきに震度5弱”は不気味な兆候 東大名誉教授が分析する「首都直下地震発生の可能性」
この夏は列島を大きな揺れが相次いで襲った。7月28日に発生した「令和8年熊本地震」に続き、8月23日には東京都内で最大震度5弱を観測する地震が発生した。危機意識が高まるなか、海洋地震学の第一人者に取材すると、「この秋にも、さらに巨大な地震が首都圏で発生する可能性がある」と警鐘を鳴らした--。
【図解】笠原順三氏が注視する「首都圏で警戒される震源候補MAP」
異常、かつ危険なシグナル
今年に入って島根、熊本、長野、千葉・茨城、三陸沖、十勝地方など全国各地で震度4以上の地震が30回以上発生し、昨年と比べて明らかに増えている。
「比較的大きな規模の地震が頻発しているのは異常で、かつ危険なシグナルと考えていいでしょう」
そう語るのは、東京大学名誉教授の笠原順三氏(84)。東大地震研究所出身の笠原氏は自ら海底地震計を設計、製造して現地で観測、解析まで行なってきた海洋地震学の第一人者だ。定年退職後も大学や企業で地震研究に携わり、2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震など多くの地震についてメディアで解説してきた。
そんな笠原氏は、今春以降の「ある兆候」から、さらなる巨大地震を警戒している。
兆候のひとつが8月23日に首都圏を襲った地震だ。同日午前2時頃、マグニチュード(以下、M)5.9の地震が発生し、茨城県、埼玉県、千葉県、東京都の17市区町で最大震度5弱を観測した。東京23区で震度5以上が観測されたのは、2021年10月に足立区で震度5強が観測されて以来、約5年ぶりだった。
笠原氏はこう解説する。
「この地震の震源は茨城県南西部でした。実は今年に入って同じ震源で4月1日、6月16日、8月23日と約2か月おきに震度5弱の地震が続いています。また6月26日にも茨城県南西部で震度4の地震が起きています。震源の深さは50~70kmで少しずつ違いますが、ほぼ同じ場所でM5~6クラスの地震が規則正しく発生することは極めて珍しく、不気味な兆候です。周期的なのか偶然かは現時点では定かではありませんが、この場所で地震活動が活発化していることは明らかで、同じ震源がまた2か月後に首都直下地震を引き起こす恐れが十分にあります」(以下、「」内は笠原氏)
10月末、首都直下地震の危機が迫るというのだ。
首都直下地震とは、東京都をはじめとする首都圏を震源としたM7クラスの巨大地震を指し、政府は「30年以内に70%」という高い確率での発生を予測する。リスクが高いのは日本を幾重にも取り巻くプレートのためだ。
「首都圏の地下は北米・フィリピン海・太平洋という3枚のプレートが重なり合い、世界的に見ても極めて特殊な構造です。各プレートには常に強い力が加わっており、どこが動いても大地震につながるリスクを孕んでいます。なかでも茨城県南部、千葉県北西部、東京湾直下など過去に地震を繰り返したエリアは"地震の巣"と呼ばれます」
「水」が巨大地震の引き金になる
笠原氏は「今は首都圏全体で非常に地震が起こりやすい状態です」として、2か月後に起きる可能性がある首都直下地震の震源を、こう予想する。
「2か月おきに地震が発生している茨城県南西部をはじめ、銚子、房総沖、東京湾北部、『国府津-松田断層帯』が通る小田原のあたりまで、広い範囲が首都圏直下地震の震源になり得ます。ただ、最近は(相模湾から房総半島南東沖にかけての)相模トラフ周辺の地震活動はあまり活発でなく、次に巨大な首都直下地震が起きるとしたらやはり震源は茨城県南西部や銚子、房総沖あたりが有力でしょう」
海洋地震学のスペシャリストとして、海底地震計を使うなどしたプレート研究で巨大地震のメカニズムを解明し続けてきた笠原氏は、「水」が巨大地震の引き金になると指摘する。
「一般に巨大地震はプレートの沈み込みによって蓄積した"ひずみ"が解放されて起きるとされますが、近年の研究で『流体(水)』の動きと密接に関係すると考えられています。水を含んだ海洋プレートが日本列島を乗せた陸のプレートの下に潜り込み、その水がプレート境界と接合部に染み出してきて、プレート同士が滑りやすくなって大地震が起こるというメカニズムです」
首都直下地震の震源となり得る茨城県南西部はフィリピン海プレートと太平洋プレートがぶつかり合う接合部にあたる。笠原氏はきたる首都直下地震でも「水」が発生のカギになるという。
「フィリピン海プレートと太平洋プレートの接合部には、水を大量に含んだ『蛇紋岩』という岩石が多く存在すると考えられます。流体は深いところから浅いところに上がりやすく、蛇紋岩から絞り出された水がプレートの表面に漏れ出ることによりフィリピン海プレートと太平洋プレートの接合部が滑り、茨城県南部や銚子、房総沖あたりまで広がって地震が多発しているのではないか。プレートの大きな変動がなくても、流体の移動が活発な地震活動を引き起こしている可能性があります」
津波の危険性も
首都直下地震の規模はどの程度と考えられるか。
「今春以降の茨城県南西部の地震はM5~6クラスですが、次に来る首都直下地震はM7になってもおかしくありません。M7クラスなら震度6以上になり、1923年の関東大震災に匹敵します」
政府の予測では、被害が最も大きいとされる「都心南部直下」で地震が発生した場合、建物の全壊・焼失などによる直接的な死者は最大約1万8000人、「災害関連死」は最大約4万1000人に達する。
「耐震化が進んだので家屋の倒壊や火災による被害は抑制できるはずです。ただし関東平野は柔らかい堆積物が厚くたまっており、ひとたび地震が起きると地表面に沿って伝わる表面波によって周期が8秒の低周波震動が励起され、ゆっくり大きく揺れる特徴がある。震度6以上なら都内のビルやタワマンなどの高層階は横に1mを超える振れ幅になり、窓が割れたり家具が倒れたりしてケガ人の続出が想定されます」
津波の危険もある。
「震源の深さが30km以上の地震なら津波が起きる可能性は低い。ただし三浦半島の近くや房総半島の先端あたりの震源20~30kmの浅い場所でM7クラスの地震が起きれば津波のリスクがあります。
また、高速道路や鉄道、電気・ガスなどのインフラにも相当な損傷が出るでしょう。物流が滞るなどの二次被害に加え、東京湾をはじめとする沿岸部や河川沿いでは液状化被害も想定されます」
これまで国内外で海底地震計や地震波に関する装置を開発し、独自の研究を重ねてきたことから、「他の地震学者とは違った視点で地震のことを考えられるのではないかという自負がある」と語る笠原氏が"不気味な兆候"をもとに警告する10月末--そこに巨大地震のリスクがあると認識して備えたい。
※週刊ポスト2026年9月18日号
