〈「町のすし店」が消えていく〉倒産45.5%増…回転ずしは拡大、高級店も盛況なのに“個人店だけ苦境”のワケ
「町の個人すし店」が窮地に追い込まれている。すし業界といえば、富裕層やインバウンドの需要が高い高級すし店や、“安くておいしい”を実現して家族連れや若者にも慣れ親しまれている回転ずしチェーンの勢いがあり、業界全体が盛況というイメージがあるかもしれない。しかし今、「町の個人すし店」の倒産が増えているという。その危機的状況の原因について、外食ビジネスアナリストの三輪大輔氏に話を聞いた。
【画像】値上げしたくてもできない…町のすし店を追い詰める重荷とは
町のすし店から客を奪った「回転ずし」の存在
外食ビジネスアナリストの三輪大輔氏によると、町の小規模なすし店を取り巻く厳しい状況は、都市部、地方を問わず全国に広がっているという。
ただし、すし業界そのものが苦しいわけではない。
帝国データバンクによると、2025年度に赤字だったすし店の割合は18.8%と、過去20年で最も低かった。インバウンド需要を取り込む高級店が盛況な一方、大手回転ずしチェーンも店舗を拡大している。
苦境に立たされているのは、その両者の間にいる昔ながらの町のすし店なのだ。
2026年上半期の「すし店」の倒産(負債1000万円以上、法的整理)は16件と、前年同期比45.5%増。このうち資本金100万円未満のごく小規模な店が43.8%を占めていたという。
「以前は『近所ですしを食べるならこの店』という存在で、普段の外食だけでなく、親戚が集まったときに出前を頼むなど、町のすし店が地域のすし需要を幅広く担っていました。
ところが今は、大手回転ずしチェーンが増え、そうした需要のかなりの部分をチェーン店でも満たせるようになっているのです」
例えば、くら寿司は2019年10月期末には国内外合わせて485店舗だったが、2026年4月末には699店舗まで拡大している。
スシロー、くら寿司、はま寿司などでは、家族で店内ですしを食べるだけでなく、テイクアウトもできる。かつて、町のすし店が担っていた「親戚が集まったから桶ですしを取る」といった需要まで、大手チェーンが取り込めるようになった。
「大手チェーンはスケールメリットを生かして仕入れ価格を抑えつつ、テクノロジーを活用して作業を効率化することで、人件費も抑えやすい。
個人店は味では負けない自信があったとしても、価格で大手チェーンに対抗するのはかなり厳しい。大手が、これまで個人店が担ってきた地域のニーズまで取り込むようになり、客が分散しているのです」
しかも、ライバルは回転ずしだけではない。
「近年は“すし居酒屋”という新しい競合も出てきました。代表的な例でいえば、スシローと同じFOOD & LIFE COMPANIESグループが展開する『鮨 酒 肴 杉玉』です。
お酒を飲みながら気軽にすしやつまみを楽しめて、客単価は3000円前後。こうした店も、町のすし店が担ってきた需要と重なる部分があります」
安く家族ですしを食べたいなら大手回転ずし。酒と一緒に気軽に楽しみたいならすし居酒屋。そして、特別な日に高いお金を払って食べるなら高級すし店。
消費者の選択肢が増えたことで、かつて地域のすし需要を広く引き受けていた“町のおすし屋さん”の守備範囲は狭くなったのである。
しかし「値上げすればいい」ができない町のすし店
それでも、店に客が来ているなら商売は続けられそうにも思える。しかし、ここでも町のすし店特有の難しさがある。
急速に上昇している原材料費の影響だ。
「主な食材である魚の価格は時期や魚種によって上下しますが、近年は鮮魚の仕入れ価格の上昇が目立っています。
さらに、中東情勢の不安定化を背景に、ナフサなど石油製品の供給不安も広がっています。プラスチック容器などの包装資材では価格上昇や調達難も起きていて、持ち帰りに使うパックや袋といったコストも上がっている。
以前と同じ値段で提供していたら、当然、利益は減ってしまいます」
もちろん、値上げすればコストアップを吸収することはできるが、町のすし店にとっては、それが簡単ではないのだ。
日本政策金融公庫が2022年7~9月期に行った調査では、すし店が抱える経営上の問題として最も多かったのが「仕入価格・人件費等の上昇を価格に転嫁困難」で、68.6%にのぼった。
「町のすし店は、ある意味で非常に難しい価格帯にいるんです。価格の安さでは、規模を生かして仕入れやオペレーションを効率化できる大手チェーンには勝ちにくい。
一方で、大幅に値上げをすれば、今度は高価格帯の店と比較されるようになります。長年通っている常連客が中心の店ほど、一気に価格を変えることも難しいでしょう」
帝国データバンクの調査でも、2025年度に赤字だったすし店は18.8%にとどまった一方、33.9%は前年度から利益を減らしていた。
つまり、「客がまったく来なくなって突然潰れる」というだけではない。
営業は続いている。常連もいる。それでも食材費や人件費が上がり、少しずつ利益だけが削られていく。そんな状況に置かれている店が少なくないのだ。
さらに、人手不足そのものが売り上げを削るケースもある。帝国データバンクによると、職人を確保できず、客単価の高い夜間の営業時間を短縮したり、定休日を増やしたりした結果、売り上げ減に直面したすし店もあるという。
客がいないから店を開けないのではない。客がいても、握る人がいないから営業できないのである。
最後の一撃になる「店主の高齢化」
そして、利益が減っても、大手企業なら複数の社員や職人で店を回すことができる。
町の小規模なすし店はそうはいかない。
「すし店に限らず個人で経営している飲食店に共通して言えることですが、市場に行って素材を目利きし、仕込み、お客に提供するというひと通りの流れを、店主がほぼひとりでこなしている店もあります。
個人すし店のような小規模な店では、2番手、3番手の若手職人を育成する体制が整っているところも多くありません」
ここに、町のすし店というビジネスの強みと弱点が同居している。というのも、個人すし店の場合、店主自身が店の価値であることが多いのだ。
「ネタの目利きや技術はもちろん、店主が何にこだわるか、店構えや接客をどうするかまで含めて、その店ならではの魅力になっていました。
家族や夫婦など少人数で営まれ、“町のおすし屋さん”として地域に根付いて、何年、何十年と通う常連客に支えられてきた店もあります」
だが、「店主そのものが店の価値」ということは、裏を返せば、店主が働けなくなった途端に店を続けることが難しくなるということでもある。
帝国データバンクも、町の小規模なすし店では代表者が実質的に“唯一の職人”になっているケースが多く、代表者の高齢化や後継者難が事業継続を断念するきっかけになっていると指摘している。
「適切なタイミングで次世代に継承できればいいのですが、後継者がいなければそれもできません。ですから、高齢になって体力的に厳しくなったとき、それまでなんとか続けてきた店でも、『ここまでかな』と閉める決断につながってしまうんです」
つまり、高齢化だけで町のすし店が消えているわけではない。
回転ずしチェーンなどに客を奪われ、原材料費が上がっても十分な値上げができず、利益が少しずつ削られていく。その状態で店を支えてきた店主が高齢になり、継ぐ職人もいない。いくつもの問題が積み重なった末に、高齢化や後継者不在が“最後の一撃”になっているのである。
大手と高級店の「間」に生き残る道はあるのか
では、町のすし店はこのまま消えていくしかないのだろうか。
「減少傾向を簡単に止めることはできないでしょう。ただ、町のすし店には大手チェーンにはない資産もあります。長く地域で商売をしてきた店には、すでに何年も通っている常連客がいて、地域での知名度もある。新しくゼロから店を出す人からすれば、これは非常に大きな価値です」
町のすし店は「店主の魅力」に大きな価値があると言えるが、すべての価値が店主個人に帰属しているわけではない。顧客基盤や知名度、地域とのつながりなど、それ以外の “店に残る資産”を、別の職人に引き継ぐ余地はある。
「店そのものに魅力や支持があるなら、血縁にこだわらず、別の経営者や若い職人に引き継ぐという方法もあるでしょう。
すでにお客がいて、地域に根付いた店をゼロから簡単につくることはできません。その価値を新しい担い手につなげることができれば、町のすし店にも生き残る可能性は十分にあると思います」
安さでは大手回転ずしにかなわず、高級感では都市部の高級店と競わなければならない。
その“間”で町のすし店が何を売りにするのか。
「昔からそこにある」というだけでは商売が続かなくなった今、長年築いてきた店の個性や地域とのつながりを、どう次の世代の価値に変えられるかが問われている。
(取材・文=蜜ツ冶/A4studio)
