「検察に自浄作用はない」元トップからの性被害訴える女性検事が涙の辞職「言葉にできないほど悔しい」 なぜ被害者が守られなかったのか…“組織の隠ぺい体質”究明へ闘い続ける覚悟
大阪地検の元トップから性被害を受けたと訴えてきた女性検事。9月1日、正式に辞職を発表しました。
【写真を見る】「仕事を失い言葉にできないほど悔しい」会見で無念と決意語るひかりさん(仮名)
事件が発生してから8年。なぜ被害者は守られなかったのか…検察組織の体制と現状に迫ります。
「仕事が大好きだった。失うのがすごく寂しい」一人の女性が検察官を辞職
(大阪地検・元検事 ひかりさん※仮名)「本当にやめるんだなっていう…今になって実感が湧いてきました」
8月末、一人の女性が、検察官を辞職しました。大阪地検で働いていたひかりさん(仮名)です。
(ひかりさん)「検察組織から辞職に追い込まれたことについては非常に無念です…」
返却することになった検察官のバッジ。「自らを厳しく律し、正義を貫く」という重い意味が込められています。
(ひかりさん)「私は検事の仕事が大好きだったから、困った人に話をしっかり聞いて、本当に一緒に泣きながら闘って、被害者の方が一歩前に足を踏み出せるように背中を押してあげられたらと思ってずっと仕事をやってきたので。それを失うということがすごく寂しいです」
性被害や児童虐待など数々の困難な事件を担当してきたひかりさん。天職だと信じていた仕事をなぜ辞めざるを得なかったのか…
“組織のトップ”からの性被害を訴え 懇親会の帰りにタクシーに押し込まれ…
事件が起きたのは8年前の2018年でした。
当時の大阪地検トップ・北川健太郎被告(66)の検事正就任を祝う懇親会。北川被告はその帰り道、泥酔したひかりさんをタクシーに押し込み官舎へ連れ込んだとされています。
そして組織のトップという立場に乗じ、抵抗できないひかりさんに性的暴行を加えたとして、準強制性交の罪に問われています。
北川被告側は初公判では起訴内容を認めましたが、その後「ひかりさんが抵抗することが著しく困難な状態であったという認識はなかった。また、同意があったと思っていたため、犯罪の故意がない」などと無罪主張に転じています。
夫に打ち明けられたのは被害から1年後
夫と娘がいるひかりさんは、被害についてなかなか夫に言い出せませんでした。
(ひかりさん)「夫が『自分がなりたい仕事につける人は本当にそういないから、全力でサポートするから』と後押ししてくれたので、その職場でトップからひどい被害を受けたということをとても言えなかった」
1年以上たって、ひとりで抱えきれなくなり夫に打ち明けました。
(ひかりさんの夫)「もちろん腹が立つのと、かわいそうなのと、なんでそんな目にあわなければならないのかと激しく思いましたね。(心の)治療に専念してもらって回復してもらうという、本当はそのほうがいいんですけれど、やはり許せない気持ちもすごく大きいので…という複雑な気持ちで見ています」
被害を申告するも…待ち受けていた『二次被害』
家族3人での生活を突然壊され、いまもPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しんでいます。
しかし、検察庁に被害を申告した彼女を待っていたのは“身内をかばうような”組織の対応でした。
外部の有識者をいれた第三者委員会による調査を求めるもかなわず、さらに加害者である北川被告と関係があった副検事により、検察内部で実名や事実無根のうわさが拡散されたのです。
とても被害者が守られる環境ではないと感じ、職場を去らざるをえませんでした。
不祥事が相次ぐ検察組織
検察をめぐっては近年、不祥事が相次いで明らかになっています。
大阪や東京の特捜部では、取り調べ中に大声を出すなどのどう喝的で侮辱的な取り調べが発覚しました。
神戸では、過酷な取り調べを受けた当時16歳の少女がPTSDを発症して死亡し、訴訟に発展。
また東京地検のエース検事は捜査対象だった女性と性的な関係を持ち、懲戒免職になりました。
動き出した国会議員 しかし法務大臣は…
権力を持ちながら自浄作用が働かない検察。ひかりさんは自ら国会議員のもとへ足を運び、組織の隠ぺい体質を直訴し、ついに政治も動き始めました。
(森雅子元法務大臣)「検事正という立場にある者による性暴力は、単なる個人の犯罪にとどまらず、司法への信頼そのものを揺るがす重大な事件です。もはや検察庁の中の内部調査だけではこれを正すことはできない」
国会議員らは検察を管轄する法務省に外部の有識者による第三者委員会の設置を求め、7月には、平口法務大臣に要望書も提出しました。
これまで、平口大臣は「プライバシーの保護」や「司法権の独立」を理由に挙げ、あくまで検察内部での調査にとどめる姿勢を示しています。
(平口洋法務大臣)「個別の公判などの案件を離れたご提言。法務省もハラスメント対策を一生懸命やっている」
かつて検察に身を置いていた弁護士の見解は
なぜ検察だけが外部の調査を拒むのか。自身も約30年にわたり検事として組織に身を置き、現在はひかりさんの弁護団の田中嘉寿子弁護士は…
(大阪高検・元検事 田中嘉寿子弁護士)「できないのではなく、しないだけですよね。検事が権力を握っている法務省の中で、検事(が主体)ではないところはすぐに第三者委員会を作って、検事が主体な局と検察庁は絶対に(第三者委員会を)作らない」
組織を守るために、身内だけの不透明な調査で幕引きを図ろうとする検察の体質があると指摘します。
(田中嘉寿子弁護士)「やる気がないから、改革する気がないから絶対に第三者委員会はいれない」
「検察には自浄作用はありません」ひかりさんが会見で訴え
9月1日、ひかりさんは辞職を報告する会見をひらきました。
(ひかりさん)「検事バッジも返却し、検事の仕事を失いました。言葉にできないほど悔しいです」
ひかりさんは検察の構造的問題を明らかにするために闘い続けると話し、あらためて、第三者委員会の設置を訴えました。
(ひかりさん)「これ以上、検察による犠牲者をうまないためにも、検察の違法・不正を暴き、組織の問題を究明し、法と人を守る組織に改革する必要があります。検察には自浄作用はありません。検察に第三者の監視の目をいれましょう」
自浄作用はなぜ働かないのか…取材担当記者が解説
なぜ検察組織では内部の自浄作用が働かないのか。
現場で取材を重ねる柳瀬記者によると、田中嘉寿子弁護士が検察にいた際に行われた内部調査で自分の上司についての申告を行ったことがあったそうです。すると申告後しばらく経ってから、その上司から挨拶をされなくなったといいます。
『申告した内容は絶対に外部に漏らさない』という約束だったにもかかわらず、実際には申告した事実が上司に伝わってしまっていた可能性があります。
田中弁護士は、「内部で調査をしても情報は必ず漏れるということになると、組織の中の人間は誰も協力できないし、本当のことを言わなくなる」と話しました。
また、柳瀬記者は検察庁という組織が持つ独占的な権限についても言及。
(柳瀬良太記者)「検察は裁判所に起訴する権利を独占している非常に強大な組織です。政治家側も検察の追及を受けることがあるため、検察に対して強く出ることができない。法務大臣という存在がいるにもかかわらず、組織に対して強く踏み込めないのが、今の検察庁の体制だと思います」
他省庁でできていることがなぜ検察庁はできない?後ろ向きな対応に終始
超党派の国会議員らによる法務大臣への陳情など、外部からの働きかけに対しても、政府・法務省側の対応は後ろ向きな姿勢に終始しています。
他省庁でのハラスメント問題では第三者委員会が設置された前例があるにもかかわらず、検察庁において消極的な対応が続いていることは問題だと柳瀬記者は話しました。
一方で、ひかりさんの告発をきっかけに、変化の兆しも現れています。
柳瀬記者の取材によると、森元法務大臣の動きを受け、議員事務所に検察官らから「検察組織ではこのようなことが起こっている」と多くの声が寄せられ始めているといいます。
『二次被害』の全容解明と再発防止は組織の義務
当事者をさらに追い詰める「二次被害」。米澤飛鳥解説委員は取材経験を踏まえて、その深刻さと組織が果たすべき責任について、次のように話しました。
「被害を受けた当事者は、周囲に打ち明けるまでにとても時間がかかります。ひかりさんの場合も、職場で声を上げるまでに6年という歳月がかかっています。それほどの葛藤の末の訴えにもかかわらず、その後に組織から不適切な扱いを受けるなどの『二次被害』に遭ってしまった。これは、安全な職場環境が守られていないということです」
また、そもそもの事件の原因究明に加えて「告発後の二次被害」がなぜ発生したのかというプロセスも調査し、再発防止策をまとめ、国民に公表する義務があると続けました。
ひかりさんは「自分と同じような被害者を出さないために、そして同じように苦しんでいる人たちがいるならば、支援を行えるようにしていきたい」と語り、今後は被害者支援の活動に注力する意向を示しています。
一連の裁判は、第2回公判が10月に予定されており、今年度内にも判決が出される見通しです。
(2026年9月2日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『特集』より)
