「一生、消えないかもしれない」盗撮、性的画像、ディープフェイク…専門家が警告する“デジタル性暴力”の恐怖
さまざまなテクノロジーが進化し、誰もがスマホを手にする時代、スマホを使った盗撮、性的画像のオンライン上の拡散、生成AIにより写真や動画を性的に加工するといった、「デジタル性暴力」の被害が急速に広がっている。前編では、デジタル性暴力の特徴や被害の実態、被害者だけでなく加害者も低年齢化が進む状況の背景などについて、櫻井鼓(つつみ)・追手門学院大学教授にうかがった。
構成・文/加藤裕子
手軽なデジタルツールが被害を広げている
――「デジタル性暴力」という言葉を目にすることが増えていますが、デジタル性暴力とはどのようなものでしょうか。また、いつ頃から問題になってきたのでしょうか。
デジタル性暴力とは、スマホやネットを使った性暴力を指します。例えば盗撮自体はスマホがない時代から行われていましたが、スマホの普及によって実行しやすくなり、またデジタルデータをネット空間で保管・共有・販売することが容易になったことで、被害を急速に拡大させていると言えます。
私はカウンセラーとして犯罪被害者等支援を行っていますが、臨床現場の実感では、デジタル性暴力の問題は、スマホやSNSが普及した2010年代頃から一気に広がったように思います。特に青少年の被害が急増していることから、デジタル性暴力をどう防ぐかは国際的な課題となっています。中でも、韓国の「n番部屋事件」では秘匿性の高いチャットアプリ内で多くの未成年を含む被害者の性的搾取画像や動画が流布・販売され、数万人もいたと言われる利用者の規模や手口の残虐性が大きな注目を集めました。
一口に「デジタル性暴力」と言ってもいろいろな形態があり、例えばネットを見ているときにいきなり望んでもいない性的な広告や画像・動画を目にしてしまうといったことも、デジタル性暴力の被害の一つです。特に子どもの性的虐待コンテンツ(*CSAM)の作成・所有・流通は深刻な性的搾取となります。
また、SNS を介した性的いじめ、オンラインでつないでいる状態で脱衣や自慰行為をさせる、ネット上でのつきまとい(サイバーストーキング)、自撮りした性的画像や動画を共有する(セクスティング)よう仕向け、相手の許可なくそれらの画像・動画をネット上にアップしたり、脅迫行為(セクストーション)や、元交際相手への復讐(リベンジポルノ)に使ったりすることが世界中で問題になっています。
最近では、SNSのプロフィールや卒業アルバムの写真をAIで性的に加工する(性的ディープフェイク)こともできてしまいますので、セクストーションにはもはや実際の性的画像は必要ないとも言われています。
デジタル性暴力は、リアルな性暴力・性犯罪と地続きです。マッチングアプリなどで知り合った人にセクスティングされ、やむなくリアルで会って性行為を強いられることもありますし、サイバーストーキングから自宅や勤務先を特定され、リアルなストーキングに発展するリスクも存在します。
*CSAM:シーサム。Child Sexual Abuse Materialの略。子どもを性的に扱う画像、動画、音声などのコンテンツの総称。「児童ポルノ」といわれることも多いが、「ポルノ」は出演者の同意を前提とする性的産業の商品であり、そもそも同意ができない年齢の児童の性的コンテンツを示す言葉としてはふさわしくないとされ、近年はCSAMへの言い換えが提唱されている。なお、日本では、アニメやCG等のCSAMは「表現の自由」との兼ね合いから規制されていない。
――デジタル性暴力の特徴として、どのようなものが挙げられるでしょうか。
ひとつは、ネットを使っていれば性別や年齢問わず、誰もがデジタル性暴力の被害に遭う可能性があるということです。被害者の低年齢化が進んでいるのも深刻な問題で、まだスマホを持たせていない年齢の子どもでも、オンラインゲームのチャット機能で知らない人と接触し、そこから性暴力に至る可能性もあります。また、海外のセクストーション事案では14~17歳の男子の被害や自殺が多いと報告されています。
デジタルなサイバー空間では匿名性が高く、加害者が性別や年齢等のプロフィールを簡単に偽装できてしまうという点も、リアルな性暴力との違いです。被害者は「やり取りしている相手は女性だ」「同年代だ」などと思い込んだまま、やり取りを重ねることになります。一人の加害者が大勢の被害者を生むことも多く、事件の加害者が東京在住であっても被害者は全国各地にいるということは、ネットが普及する以前は見られない現象でした。スマホやアプリといったツールは手軽であるうえ、ネットには国境もないので、加害者は遠い外国にいるかもしれません。
デジタル性暴力は、被害者のSNS投稿がきっかけとなることも珍しくはありません。援助交際募集のような明らかにリスクが高いものだけでなく、プロフィールや日常生活、趣味・嗜好などの情報からも、加害者はターゲットを捕捉します。高度な騙しのテクニックを駆使しなくても、ネットの情報を少し検索するだけで、加害者は不特定多数の中から手間なくターゲットを選び出すことができます。
オンラインでは被害者との関係を作りやすい
――ネットによって見知らぬ他人と接触しやすくなったことで、性被害が急増しているということでしょうか。
確かに、デジタルツールは知らない人とつながる機会を飛躍的に増加させました。ただし、必ずしも加害者は見知らぬ人とは限りません。例えば、教員と生徒などリアルな知り合い同士がSNSやメッセージアプリで密かにかつ頻繁にやり取りをして関係を深め、性被害に発展していくパターンもあります。
ネット上での「二人だけのやり取り」は、わいせつ目的で子どもを懐柔する「性的グルーミング」にはうってつけです。リアルな場でも性的グルーミングは行われますが、関係性が外から見えなくなったことで、加害者は周囲の目を気にすることなく性的グルーミングを行えるようになり、被害の状況が気づかれにくくなっています。
――性的グルーミングとは、どのように行われるのでしょうか。なぜ被害者は「手なずけ」られてしまうのでしょうか。
性的グルーミングの加害者は、性的行為の前に、被害者に「偽の愛情」を示し、関係を深めていきます。特に思春期の子どもたちは、不安定な家庭環境や友人関係から孤独を感じたり、自尊心を持てなかったりすることも多く、ネットに悩みを書き込んだら、「話を聞くよ」「家にいたくないなら泊めてあげるよ」などと言われて、加害者に接近してしまうこともあります。
性的グルーミングを受けた子どもは加害者の「偽の愛情」を信じ込まされているので、自分が被害に遭っていることに気づきにくく、加害者との関係を維持したがるなど、その影響は深刻です。オンラインで性的グルーミングを受けると、親密なやり取りの中でセクスティングやセクストーションに容易に発展するだけではなく、実際に対面し、身体的な性被害に至る確率が高いという調査もあります。
被害者だけでなく加害者も低年齢化
――2025年には、複数の教師が生徒の盗撮画像をSNSのグループチャットで共有していたというショッキングな事件がありましたが、生徒同士の盗撮や性的画像拡散、性的いじめ等の報道も目にします。デジタル性暴力では加害者の低年齢化も進んでいるのでしょうか。
そうですね。背景の一つには、今の子どもたちが幼い頃からデジタルツールに馴染んでいることがあると思います。彼らにとって、スマホで写真を撮ることはもちろん、それをアプリで加工してシェアするのは、ごく普通のことです。しかし、相手の同意を得ていない撮影は盗撮という犯罪行為とみなされる場合があります。やっている当人はそうとは意識せず、仲間内のノリや遊び感覚なのかもしれません。また、違法な性的コンテンツのシェアやダウンロードなどもデジタルツールで手軽にできてしまうため、軽い気持ちで手を出してしまうといったことはあると思います。
セクスティングについても、「なぜそんなことをしてしまうのか」と思う人もいるかもしれませんが、若い世代の間では親密な関係性でのやり取りであることも少なくありません。性差にかかわらず性的好奇心が強い年代ということもあり、自撮りした性的画像を送り合うことに抵抗を持たない子も一定数います。
これはアメリカのデータですが、THORNというアメリカのNGOによる2022年の調査では、13~17歳の約3割が「性的な画像を送り合うのは普通」と答えています。セクスティングの相手は知り合いが約半数で、実際に会ったことがない人へのセクスティングも増加傾向にあります。
日本の子どもたちも友人や交際相手と自分の情報をなんでもシェアするということが当たり前になっているので、セクスティングも親密さを表現する一つの手段と捉えられているかもしれません。シェアした相手と関係が悪化したり疎遠になったりしたとき、相手が持っている自分の性的画像や動画がどう使われるかということまでは考えないのでしょう。
――子どもたちが気軽に性加害行為をしてしまうことには、子どものうちからネットで性的な情報に晒されることも影響しているのでしょうか。
子どもによる性加害にはグラデーションがあり、特に低年齢では「遊び」の延長的なものから明らかに悪意を感じさせるものまでさまざまです。後者に関しては、「なぜ、この年齢でこういう性加害のやり方を知っているのだろうか」と考えさせられることもあります。
これは現場の感覚にはなりますが、加害のやり方から「ネットで過激な性的動画等に触れているのでは」と想像される事例にも遭遇します。あるいは、子ども自身が性的虐待を受けていて、自分がされたのと同じことをしているのかもしれません。今後の調査や研究が待たれますが、デジタルな性的情報がリアルな世界に影響を与えている可能性はゼロではないと思います。
日常が恐怖と不安に満ちたものに
――盗撮や性的画像の拡散、性的ディープフェイクなどでは、「撮られた本人が気づいていないから」「実際に身体が傷つけられたわけではない」等の理由で被害が軽く見られ、性加害が起こりやすくなるということはあるでしょうか。
アメリカ精神医学会(APA)によるPTSDの解説によれば、性暴力のトラウマ体験にはレイプなど身体接触を伴う望まない性的体験の他に、同意がないのに性的写真や動画を撮られたり、それらが流出したりすることも含まれます。PTSDはPost-Traumatic Stress Disorderの略ですが、盗撮や性的ディープフェイクによる被害には、いつまでも「ポスト(事後)」にならないという、極めて深刻な問題があるのです。
おそらく加害者には「身体的な加害でないのだから、たいしたことではない」という感覚があるのでしょう。しかし、デジタル性暴力がリアルな性暴力より影響が軽いということは決してありません。自分の性的な写真や動画がいつどのような形で表に出るかわかりませんし、「消去する」と言われてもどこかに残っているのではないかという、強い不安はいつまでも拭えません。
例えば盗撮では、撮られた側が気づいていなくても、顔が写っていなくても、その画像が表に出たとき、持ち物や服、背景などから被害者が特定される可能性もあります。逮捕された加害者の所持データに写っていたということで、警察から連絡が来ることもあるでしょう。ある日突然、自分が盗撮されていたと知った被害者は、電車の中、学校、ショッピングや食事をする店など、それまで安心して過ごせていた場所が安全とは思えなくなってしまいます。日常生活が「盗撮されるかもしれない」という不安や恐怖に満ちたものになり、その感覚は一生、消えないかもしれません。
―― 一度流出した性的画像を完全に削除することは難しいのでしょうか。
まず、18歳未満のときに撮影された性的な画像や動画については、「Take It Down」というプラットフォームを通じて削除する仕組みがあります。これは、「全米行方不明・被搾取児童センター(National Center for Missing & Exploited Children:NCMEC)」がMeta社の協力を得て運営しているもので、日本語対応もしています。
また、18歳以上の同意のない性的画像・動画を対象としたものでは、イギリスの民間団体がMeta社と開発した「StopNCII」(NCIIはNon-Consensual Intimate Image Abuseの略)という同様のプラットフォームがあり、いずれも無料です。これらを使うことで、Meta社のInstagram、Facebookの他、さまざまなオンラインプラットフォームに存在する画像や動画を削除できる可能性があります。
ただし、「Take It Down」ではXが含まれておらず、LINEは「StopNCII」でも対象外です。また、ダークウェブと呼ばれる、専用のツールやブラウザーを通してやり取りが行われる匿名性が高いウェブサイトにデータが流出すると、削除することも困難です。ネット上から画像・動画を完全に削除することには限界があると言えるでしょう。
(後編に続く)
知を探究する教養メディア imidas(イミダス)より転載
