様々な業界で深刻化する人手不足の波が、社会の安全を担う警察にも押し寄せている。警察庁によると、全国の警察官採用試験の受験者数はここ15年で3分の1に減少。首都東京の治安を預かる警視庁では、必要と定めている人員43,619人に対し、今年4月1日時点でおよそ3,000人が不足しているという。原因としては少子化に加え、仕事の厳しさや危険性といったイメージの問題も指摘されている。

【映像】警察官が“足りなすぎる”衝撃データ

 事態を受け、警察庁は「優秀な警察官の確保に万全を期す必要がある」と表明。警視庁は今年から警察学校の一般向け見学ツアーを開始し、スマートフォンの使用制限や髪型規制の緩和など、警察学校の運営見直しも進めている。一方、警視庁の受験者数は2010年と比較して7割減という数字も示されており、採用難は一段と深刻だ。

 『ABEMA Prime』では、元警視庁で警察官を志す人の採用支援をする『警志塾』講師の安齋海社氏と元警視庁捜査1課の高野敦氏を招き、警察の人手不足がはらむ「ジレンマ」について考えた。

■110番到着まで1.3倍、交番も機能不全に

 人手不足は現場の実態に直結している。安齋氏は2015年に警察官になった当時を振り返り、「交番勤務では2人いないと回らないところに若手が1人だけ配属されることがあり、1人では対応が難しい場面もあった。事件を刑事課や生活安全課に引き渡すと、そちらが忙しくなって仕事が山積みになり、帰れないという状況が現実に起きていた」と懐古する。番組では、人手不足を背景に110番通報への到着時間が5年間で1.3倍に伸びているというデータも示された。

 高野氏は人員不足の構造的な背景について「若年人口が以前の3分の1になっている厳しい状況に加え、警察Z世代やアルファ世代の若者のカルチャーとなかなか合わない体育会系的な文化がある。実力部隊として規律が必要な組織である以上、ある程度の厳しさは不可欠だが、両方が可能な限り合わせていかなければならないという難しさを、全国の警察が試行錯誤しながら対応している状況だ」と分析する。

 採用の落ち込みは“質”の問題にも波及。高野氏は「間口を広げて入る人の質が下がれば、それだけ不祥事も起きやすくなるという因果関係はある」と指摘した。

■「やめさせないことが最重要」厳しい現実

 人手不足の深刻化は、警察学校のあり方にも影響を与えている。高野氏は「私が警察官になった2000年代は、不適格な者を排除するのが学校だという意識だったが、今はやめさせちゃいけないので、とりあえず現場に出てからオンザジョブ(先輩や上司が実際の仕事を通じて後輩や部下を指導すること)でやってもらおうぐらいな感じになっている。とにかくやめさせないことが最重要になってしまっている」と明かす。

 安齋氏は「私の時代がおそらく最後の“怒鳴られ世代”だと思う。次の代からは怒鳴る場面がめっちゃ減っていて、なるべく怒鳴らず論理的に説明しようという風潮がすでにでき始めていた。私の時はまだ怒鳴られて引きずり出されてTシャツがビリビリにされるようなことが残っていた」と語る。

 このことについて高野氏は、「ヤクザに怒鳴られた時に怖くならないように耐えるというのも警察学校の役割だった」と認めながらも、「今は警視庁がパワハラに対して10年以上前からものすごく敏感になっていて、録音されたらどんな偉い人でも飛んでいく。逆に怖くて指導ができないという、民間(企業)でもあるような状況になっており、訓練の質の確保の面で問題も出てきている」と述べる。

 理不尽な訓練の意義については出演者間で議論が交わされた。歌舞伎町ゲイバー「CRAZE」店員・カマたく氏は「理不尽な人を相手にする仕事だから、理不尽に耐える訓練は絶対必要。ただ、『これは訓練だ』と教官から言われた上で理不尽に怒られるのか、何も言われずに怒られるのかでは大きな差がある」と指摘する。高野氏は「入学時に教官から『理不尽なことも含めてすべて訓練だ』と言われた上で厳しい訓練を受けていたので、現場で死なないように、仲間を殺さないように、富を守れるようにという腹落ちはできていた」と振り返った。

 一方、訓練を優しくしすぎることへの懸念も示された。安齋氏は「犯罪者の剣幕に負けてしまう警察官が増えてしまうと、治安には必ず一定の影響が出てくる」と述べる。番組では、凶悪化する犯罪に対応するため、「本気で殺す気で来た人を演じて襲いかかる訓練」といったリアリティを重視した取り組みも紹介された。

■「警察が変わっている」という認知を広げる必要性

 人手不足解消に向けた処方箋としては、複数の観点から議論が展開された。中道改革連合の衆議院議員・泉健太氏は「テーザーガンの導入や空調服、ウェアラブルカメラなど、安全で魅力的な業務ができる新たな装備品をどんどん導入していかなければならない。未だに刺股というのはちょっとないと思う」と主張する。

 高野氏は犯罪の質の変化への対応について、「ITパスポートと同様の資格を刑事部門の捜査部門の人は全員取らなければならないという取り組みを4、5年前から始めており、捜査に必ずITが使えるような形にしている。ただIT部門と技術部門は今後人材の取り合いになるので、専門枠をもっと増やすことも必要だ」と述べる。

 採用促進のための情報発信についても課題が指摘された。安齋氏は「警察が変わっている、魅力があるという認知度を拡大していくことが必要だ」と主張する。高野氏も「警察はこれまで情報発信が非常に下手で、あまりやってこなかった。都市伝説的な誤解を否定しないことでイメージが悪くなっていく面もあるので、しっかりした情報発信が大事だ」と続けた。

 また、警察官のキャリアの出口についても議論が及んだ。安齋氏は「メンタル的な強さは身につくが、一般企業で必要とされるポータブルスキルの観点では難しい部分もある。35歳などになると企業からは必要とされにくくなる」と指摘した。一方で「失敗を報告しても許されるし、それに対してカバーができるという失敗の回数を保証できるかどうかも、メンタルを育てる上では重要だ」とも述べる。

 高野氏は採用を巡る悪循環についてこう総括する。「かつては景気が悪い時期に警察官の給料が相対的に高く、辞めると給料が3分の1になるイメージがあったため中途退職者は少なかった。しかし今は景気が良くなり、仕事が厳しくなって辞めていく中途退職者が増えている。これが悪循環になっている」と語った。安齋氏は「警察官になってよかったと思っているかどうかを含め、警察が変わっていっているという事実が知られていないことが多い。そこの認知度をしっかり拡大していくことが、人手不足解消への第一歩になる」と訴えた。

(『ABEMA Prime』より)