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相続した土地を売却する際、不動産業者から「直接は売れない」と「三為取引(第三者のためにする契約)」での買い取りを提案されることがある。しかし、仕組みを知らないまま応じてしまうと、業者の転売利益として本来得られるはずだった多額の資金が抜かれてしまうリスクも--。滝島一統氏の著書『その家、買ってはいけない』(PHP研究所)より、同氏のもとに相談に訪れた男性の事例を通して、相続不動産の売却に潜む法的リスクに迫る。

父から相続した「三筆の土地」、業者の言いなりで売った結果

相続した不動産の処分について、私のところに持ち込まれた相談の中で、ひときわ頭に残っているケースがある。

地方に住む男性が、父親から三筆の土地(不動産登記上、3つの地番を持つ土地)を相続した。合計すると780平米ほどになる、まとまった広さの土地だ。男性はその土地を売却しようと、父がアパートの管理を委託していた地元の不動産会社に相談した。

すると、その不動産会社から「個人が分筆して複数に売ると、反復継続の売買になるため宅建業法違反になる。だから直接個人に売ることはできない。まず業者に買い取らせ、そこからエンドに売るという三為取引(さんためとりひき)の形を取らなければならない」と言われた。

男性は不動産の素人だったこともあり、「そういうものか」と受け入れ、業者に土地を売った。決済後、相続を担当した税理士に話すと、「それはおかしい」と言われた。通常の仲介取引ができないはずがない、と。しかもよく確認すると、業者がエンドに売った金額は2100万円。男性が受け取ったのは920万円。業者は上乗せした金額を男性に教えており、両手の仲介手数料に加えてさらに200万円ほどが乗っていた。

「業者にやられたのでは」と思った男性が、私のところに相談に来た。私は話を聞きながら、実はこの問題が一筋縄ではいかないことに気づいていた。

不動産会社の説明は“完全な嘘”ではない

結論から言えば、不動産会社の言っていたことは、完全な嘘ではなかった。相続した土地をそのままの状態で売却するのは問題ない。しかし自分で分筆して複数に分け、それを売却するとなると話が変わる。分筆して他者に販売するという行為は、不動産業者がやるような「開発行為」「事業性の高い行為」とみなされる可能性があるのだ。

宅建業法では、不動産業の免許を持たない者が「業として」不動産の売買を繰り返すことを禁じている。問題はこの「業として」という言葉だ。何回売ったら業になるのか、何回なら問題ないのか─その明確な線引きは、法律上存在しない。「事業性が高い」と判断されたら、という極めて曖昧な基準で処理されている。

分筆して売った場合、最悪「逮捕」される可能性も

では、その「事業性があるかどうか」を誰が判断するのか。行政ではなく、警察だ。

不動産業者が宅建業法に違反した場合は、行政(都道府県)が取り締まる。しかし無免許の一般人が宅建業法に触れることをした場合は、刑事事件として警察の管轄になる。つまり、場合によっては逮捕され、前科がつく可能性がある。

私がこう説明すると、相談者は絶句した。「相続した土地を少し分けて売っただけなのに、なぜ?」という気持ちは十分にわかる。だが、現実はそうなっている。

逮捕されるか否かの“あいまいな線引き”

「でも実際に逮捕されるんですか?」と聞かれたら、正直に言えば「多くの場合はそうならない」と答えるしかない。

この手の違反は、ほとんどの場合が「タレコミ」で動く。誰かが「あいつが怪しいことをしている」と通報し、担当した警察官が「これは事業性が高い」と判断すれば捜査が入る。熱血警察官に当たれば逮捕もあり得る。一方、誰もタレコミしなければ何も起きない。過去に捕まった人がいるのも事実だが、みんながみんなそうなるわけではない。

私はこれを「赤信号を渡っても、はねられるとは限らない」問題と呼んでいる。渡ってもクルマが止まってくれることが多い。でも、はねられることもある。担当する場所も違えば、担当する警察官も違う。「あの人は大丈夫だった」という事例が、自分の安全を保証しないのだ。

分筆だけでなく、「年に何度も」売却した場合も事業性ありと判断されうる

相続の場面ではもう一つ知っておくべきことがある。大きな資産を持つ人が、自分名義の不動産を年に何度も売却した場合も、「事業性がある」とみなされる可能性があるということだ。

自分がもとから持っているものを売っているだけなのに、という話だが、不動産の反復継続売買と判断されれば同じリスクがある。慎重な税理士の中には、「いくら自己所有の不動産でも、年に1件以上は売らないように」「間を2年以上空けるように」とアドバイスする人もいる。

「逮捕リスク」を避ける2つの方法

このリスクを回避するために、本来取るべき手段は2つだ。1つは、不動産会社に「分筆後の土地ごと全部買い取らせる」こと。業者が仕入れて、業者が販売する形にすれば、売主側に事業性は生じない。

もう1つは、売主自身が法人を設立して宅建業の免許を取得してから売る方法だ。手間はかかるが、免許を持った業者として売れば問題にならない(とはいえ、個人から法人への所有権移転が必要で不動産取得税も必要になるため、得策と言えるかは微妙)。

“形だけ”の「三為取引」は安全とは言い切れない

今回の不動産会社が提案した「三為取引」は、この事業性のリスクを避けるための形式として一応の理屈は通る。

しかし三為取引の場合、登記簿上は売主から直接エンドの買主に所有権が移る。業者が実際に買い取っていない以上、「不動産会社が分筆して売った」という形にはなっておらず、事業性回避の効果としては十分ではない。本来は業者が完全に買い取るべきだったが、不動産取得税などのコストを嫌ってこの形を使ったのだろう─-というのが、私の見立てだ。

相談者の男性は、最終的にこう言って帰っていった。「意外な話でびっくりしました。でも、正直に教えてもらえて安心しました」。

相続した不動産をどう処分するか。感情も絡み、登記の問題も絡み、法律の問題も絡む。その入り口で「とにかく売れればいい」という判断だけで動くと、知らないうちに法的なリスクを引き受けていることがある。せっかく手に入れた相続財産が、気づけば法的な地雷になっていた─-そういうことが、この国では起きている。

滝島 一統

株式会社光文堂インターナショナル

代表