アリゾナ大学のAlexander Berne氏を筆頭とする研究チームは、火星の重力場に含まれるわずかな季節変動を解析した結果、南半球のマントル内部に北半球よりも大幅に温度が高い熱異常が存在することを明らかにしたとする研究成果を発表しました。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「Nature」に掲載されています。


【▲ 南半球のマントルのほうが高温であることを示した火星のイメージ図(Credit: NASA / Theophilus Britt Griswold)】

火星の特徴「地殻の二分性」

火星の地形には「北半球がなめらかな低地、南半球が起伏に富む高地」という明瞭な差があります。地殻の二分性と呼ばれるこの特徴が、いつ、どのようにして生じたのかは、火星の水の歴史や生命探査にも関わる重要な謎として、長年議論が続いてきました。


この謎を解き明かすには表面的な地形だけでなく、深部に存在するマントルの性質を知る必要があります。地殻二分性を巡っては天体との巨大衝突、マントル内部の対流、厚い地殻による断熱といった複数の仮説が提唱されていますが、これらはいずれもマントルの内部に痕跡を残すと予想されているからです。


南半球のマントルは北半球よりも高温?

研究チームはNASA(アメリカ航空宇宙局)の周回探査機「マーズ・グローバル・サーベイヤー」「マーズ・オデッセイ」「マーズ・リコネサンス・オービター」を対象に16年にわたって蓄積された、電波を使った地上からの追跡データを解析することで、火星の重力場の乱れを分析しました。


火星は公転軌道の離心率と自転軸の傾きによって、太陽がもたらす潮汐力が季節ごとに変化します。すると、潮汐力による火星の変形にも変化が生じ、重力場にも周期的な乱れが生じます。この乱れを利用して、見えざる火星内部の様子を探ろうというわけです。


分析の結果、火星のマントルのせん断弾性率(剛性率、物質の硬さや変形のしやすさを示す値)は、北半球と南半球で20%以上も異なる可能性が示されました。この差を温度に換算すると、南半球のマントルのほうが北半球よりも200~400℃ほど高温になっている可能性があるといいます。この温度差は先述した仮説のどれでも起こり得るといい、今回の研究では原因の特定にまでは至っていません。


また、マントルが溶融している可能性については、ごく一部が局所的に溶けている可能性までは否定できないと述べるに留められています。NASAの探査機「インサイト」が観測した地震波のデータを踏まえれば、南半球全体でマントルが溶融していることは考えにくいといいます。


二分性の謎に迫る手がかりとなるか

今回の発見は、火星の地殻二分性の起源をめぐる複数の仮説を絞り込むための、重要な手がかりとなりそうです。


論文の共著者であるカリフォルニア工科大学のAmirhossein Bagheri氏は、火星における南北の二分性を理解することは、水を湛えていた可能性のある盆地の形成なども含めて、火星における水の歴史に影響を与えたプロセスを知るうえで重要だと述べています。


将来さらに精密な重力場の観測が実現すれば、火星だけでなく他の天体の内部構造を探るうえでも、今回用いられた手法が力を発揮すると期待されています。


 


文/ソラノサキ 編集/sorae編集部


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