開始が遅れた花火大会、警戒業務船の船長に誹謗中傷…「禁止区域に船」の市長アナウンスで誤情報拡散か
船長は廃業「市長は直接謝罪してくれたが…」
11日に香川県坂出市で開かれた海上花火大会で、強風の影響で打ち上げ開始が30分ほど遅れた。
それにもかかわらず、沖合で警戒業務にあたった船が打ち上げを邪魔したとの誤情報が広がり、この船の女性船長がSNSで誹謗(ひぼう)中傷を受けた。なぜそのような事態が起きたのか、大会事務局の市と船長に取材した。(植村卓司)
SNS上で「犯人捜し」
花火は11日午後8時から30分間、沖合の台船から打ち上げる予定だった。台船周辺では、市の委託を受けた地元の船「あさひ丸」を中心とする4隻が警戒。危険防止のため台船から半径250メートルの制限区域内に観覧船が入らないようにすることが役割だった。
午後8時過ぎ。予定時刻を過ぎても打ち上げが始まらず、観客の不満が高まった。会場本部にいた有福哲二市長はマイクを握り、遅延の理由としてアナウンスしたのは「禁止区域に船が侵入したため」だった。
この後、SNSで「犯人捜し」が始まり、あさひ丸の写真を添え、断罪するような文章をつづった投稿が瞬く間に拡散された。他にもあさひ丸を中傷する投稿があった。
無線届かず
この日は強風で波もあった。市は夜に入り、岸壁に近づいていた台船を移動させ、打ち上げ開始予定の午後8時頃に所定の位置に戻したが、台船の移動で変更された制限区域の中に、複数の観覧船が残っていた。
市は、4隻の船長らに連絡用のトランシーバーを渡していたが、位置によっては無線が届かず、一部は電池が切れていたほか、携帯電話も通じにくく、4隻に速やかな情報共有はできなかった。サポート役の坂出海上保安署の船艇が観覧船の移動を促すなどした後、市は打ち上げを決行した。
「遅れた理由は強風や波の影響」市の説明は後手に
あさひ丸の船長は午後8時の直前、市から台船の移動を告げられた後、花火終了まで市からの指示はほとんどなかった。周囲が暗い中、数十隻あったとみられる観覧船との事故に注意を払いつつ警戒を続けた。
SNSでの中傷は花火大会の翌日の12日早朝、知人からの連絡で気付き、「身の危険を感じた」。市に対し、すぐに事実関係を公表するよう求めた。
市は公式ウェブサイトやSNSで「花火開始が遅れた理由は強風や波の影響で、台船の位置と禁止区域の調整のため」と説明。「誤情報拡散防止のお願い」とも要請した。しかし、有福市長のアナウンスが誤情報拡散を招いた可能性があることへの陳謝はなかった。
市は2024年、SNSなどでの誹謗中傷防止に関する条例を施行。市の責務として「被害者および行為者を発生させないための施策を推進」と定めている。
有福市長は読売新聞の取材に、市の不手際が被害の一因となったことを認め、「船長に申し訳ないことをした」と謝罪した。「悪意のある投稿は自主的に削除されており、再炎上のリスクも勘案して追加説明を控えていた。丁寧に事実関係を公表し、あさひ丸の名誉が回復できるよう対応を見直す」と述べた。
廃業した女性船長「父、祖父に合わせる顔がない」
市には大会前から、緊急時の連絡体制などの準備が不十分ではないかと指摘をしたが聞き入れられず、今回の事態に至った。
SNSには明らかな脅迫があり、恐怖を感じた。一度貼られたレッテルを自分たちだけで剥がすのは無理だ。海運業を続ける限り、不安はずっと付きまとうので、市に事実関係がわかる説明を求めてきた。
地域のためにと、これまで花火大会の警備を請け負ってきた。瀬戸内国際芸術祭では地元特産の弁当の販売などで協力。2020年に坂出市沖で修学旅行中の船が沈没し、小学生ら全員が無事だった事故では、現場で安全確保に努めた。
こうした姿勢で祖父の代から海運業を続けたが、25日付でやめた。市長は直接謝罪をしてくれたが、あさひ丸の歴史に泥を塗ってしまい、(亡き)父、祖父に合わせる顔がない。本当に悲しく、悔しい。
