視聴率好調の「大空港」で話題の“入管” …バラエティ番組で“入国審査ブース”を体験させるウラに見え隠れする“広報戦略”
日曜劇場の「VIVANT」続編が一人勝ち状態にある7月期ドラマの中で、初回の世帯視聴率が10.7%と善戦しているのがテレビ朝日系の「大空港〜GATE24〜」。不法入国する外国人や人身売買、密輸品などを水際で食い止める空の番人たちに焦点を当てた物語は、インバウンドの増加に沸く世相を反映して一定の支持を集めているようだ。だが、ある民放関係者は「大空港のスマッシュヒットは、ここ数年で飛躍的に議席数を伸ばしている参政党の躍進と無関係ではないんです」と語る。果たして、その言葉の真意とは。
不法入国を水際で阻止
「大空港」は趣里(35)が主役、眞栄田郷敦(26)を準主役に据え、税関(財務省東京税関)、入管(法務省出入国在留管理庁)、検疫(農林水産省動物検疫所・植物防疫所)のメンバーが羽田空港をモデルにした架空の関東国際空港を舞台に、違法に入国を試みる外国人などを、チームとなって水際で食い止めるストーリーである。

一方、参政党は2020年に結党した。22年7月の参院選で神谷宗幣党首(48)が初当選すると、24年10月の衆院選では比例代表で3議席を獲得。昨年7月の参院選では「行き過ぎた外国人受け入れ」への反対を主張し、“日本人ファースト”を掲げて14議席を獲得する大躍進を遂げ、参院懲罰委員長ポストを獲得した。外国人対策では(1)融和的共生政策から管理型政策への転向(2)生活保護や国民健康保険など社会保障制度の利用制限(3)不法滞在の取り締まり強化(4)外国人の土地・不動産取得規制――などを強く打ち出している。
外国人の訪日旅行と需要を指すインバウンドは、安倍晋三政権が観光を「成長戦略の柱」に据えた2012年の836万人からコロナ前の2019年には3188万人と、3.8倍に急増した。24年にはコロナ前を上回る3687万人となり、25年はついに4268万人となって、史上初の4000万人超えを記録した。だが、インバウンド需要に沸く一方で、京都や鎌倉のオーバーツーリズムや富士登山者のマナー違反による山岳遭難など社会問題も噴出している。
一方で7月21日夜、テレビ朝日のバラエティ番組「火曜の良純孝太郎」で、羽田空港国際線ターミナルの立ち入り禁止エリアに石原良純(64)、小泉孝太郎(48)という“大物政治家二世”のタレント2人が潜入取材。ほとんど取材許可が下りない入国審査ブースの内部で、審査官が不審な人物を見極めるテクニックを体感するなど、入国審査の裏側に密着し、これまで煩雑だった出入国の手続きをスムーズにする最新設備も紹介した。
法務省の記者クラブ「法曹記者クラブ」に所属した経験のあるマスコミの社会部記者は「私たちでも取材を許可されたことのないところまで2人が案内をされていて、正直驚きました。入管もずいぶんとサービスが良くなったなと。手の内は絶対に明かさないという方針を変えたのかもしれませんね」と感想を話す。
単純労働者容認に転換
「大空港」と「火曜の良純孝太郎」はともに同じテレビ朝日系列だけに、ドラマの番宣も兼ねたと見ることもできるが、法務省関係者は「別に理由があるんです」と打ち明ける。
ドラマの宣伝文句では「最強の門番」「日本の平和と安全を守るために奮闘」などと謳い、入管がいかに不法入国する“不良外国人”と対峙しているかが強調されている印象が強い。実際、国際空港という水際で、不良外国人と相対する“中核”が入管である。法務省を平成の半ばまで長く取材した元新聞記者の男性はこう話す。
「入管といえば、法務省内にあった入国管理局のことだと思っていたけど、知らない間に法務省の外局として独立し、出入国在留管理庁と名前も変わっていたのは最近まで知らなかった」
昭和期の入国管理局は、単純労働の外国人は就労ビザの対象外にして、不法就労として徹底的に取り締まっていた。
「ですが、平成に入るとバブル期に『日本人の若者が仕事を選り好みして集まらない』という深刻な人手不足に陥り、単純労働を事実上容認する“抜け道”のような形で『技能実習制度』を導入。法務省は入管法の改正に踏み切りました」(同元記者)
その後は終わりの見えない少子化の影響が徐々に顕在化。現役世代の急減という新たな人手不足が生じ、それを補うため、外国人労働者がさらに増加し、入管の審査業務や管理業務も肥大化した。一方で、バブル後の「失われた30年」で、頼みの綱の外国人の賃金は減少という悪循環に陥る。2018年、当時の安倍政権下で菅義偉官房長官(77)は、外国人労働者から「選ばれる国」を目指す方針を発表。単純労働の公式解禁へと政策転換し、翌19年、「特定技能制度」を新規導入するとともに、肥大化した業務量に対応できるよう、入国管理局を法務省の外局として格上げし、500人を増員。独立させたのだ。
トランプ氏復活の余波
「特定技能は2019年から23年にかけて段階的に導入され、技能実習制度は27年の廃止が決まっています。日本には外国から労働者も観光客も大挙してやってきて、人口減少が進む日本の経済を回す原動力になるはずだったのです。ですが、コロナ禍という予期せぬ重大事態が起きたのです」(前出の社会部記者)
景気の低迷と、物価高騰のダブルパンチが社会に不満を蔓延させることは歴史が証明している。世界的に移民排斥とナショナリズムの高揚、世論の右傾化が進み、日本も例外ではなかった。
「そんな状況を後押ししたのが、やはりトランプ米大統領の存在感です」(同)
「アメリカファースト」を掲げ、メキシコ移民を徹底的に敵視。「国境に壁をつくる」と公約したトランプ氏が2024年11月の選挙で返り咲きを果たした。SNSを駆使するトランプ氏の発信力は、日本にも「外国人反対」のネガティブキャンペーンを生み出している。
「ベトナム人の犯罪や、オーバーツーリズム、中国人富裕層による日本の土地やマンションの買いあさり、来日中に国民健康保険で高額な医療を受けるといった社会保障への“タダ乗り”など、外国人への不満が『移民』というキーワードで一緒くたにされ、不満のやり玉に挙がっているんです。この時流にうまく乗ったのが、参政党ということでしょう」(同)
入管関係者は「一昨年の末ごろから風向きが変わり、私たちは逆風にさらされています。選ばれる国になるため、外国人も住みやすいよう共生社会の実現に尽力するのが入管の責務だったはずが、『入管は外国人に甘い』『犯罪目的の入国者を見過ごしている』と非難する声が急増。入管はイメージアップの必要に迫られているのです」と明かす。
入管庁は入管局時代の4871人から6903人へと2000人以上増員され、共生社会実現に向けて多忙となった業務に黙々と邁進していたが、突然、批判の矢面に立つこととなった。
「なので入管は今、親しみやすさの演出と外国人にしっかり“是々非々”で対処している点をPRしていくという広報戦略なのです」(前出の入管関係者)
羽田潜入のバラエティ番組でも、入管のマスコットキャラクター「イミグー」をアピール。出入国の手続きがどんどんスムースになっていることを随所で強調する一方、不良外国人にはいかに厳しく対応しているかを「外国人に不満を募らせている人たちへの“ガス抜き”のためか、執拗なほどに」(同前)説明していた。
サブスク全盛の中、冬の時代を迎えていると言われるドラマは、原作がヒット漫画というケースも多いが、あえて主役を税関職員に設定したかのような完全オリジナル脚本の「大空港」。そのドラマ制作には、移民政策をめぐる今の“社会情勢”が色濃く影響しているというのが、どうやら真相なようだ。
岡本純一(おかもと・じゅんいち)
ジャーナリスト。特捜検察の捜査解説や検察内部の暗闘劇など司法分野を中心に執筆。月刊誌「新潮45」(休刊中)では過去に「裏金太り『小沢一郎』が逮捕される日」や「なぜ『東京高検検事長』は小沢一郎を守ったか」などの特集記事を手掛けた。
デイリー新潮編集部
