【A4studio】空港からのアクセス抜群なのに…「羽田イノベーションシティ」がゴーストタウン化してしまった「日本特有の事情」
年間9000万人以上もの旅行客が行き交う羽田空港。しかし、すぐ側に位置する天空橋エリアの開発について、その成果を疑問視する声が漏れ聞こえてくる。2023年にはライブハウス「Zepp Haneda」や飲食店、ラボなどが入った複合施設「HANEDA INNOVATION CITY」(羽田イノベーションシティ)の開業を中心に、駅周辺は変貌を遂げた。
総工費540億円ともいわれた一大プロジェクトで、羽田空港を利用する多くの旅行客を呼び込む新しい人気スポットとなるはずだったが、「ガラガラ」「ゴーストタウン」といった印象を現時点では持たれているのだ。
いまだ多くの人々を呼び込むには至っていない天空橋エリアの再開発について、なぜこのような結果となっているのか、その歴史的背景やコンセプトの点から考えてみたい。今回、建築エコノミスト 兼 建築アナリストの森山高至氏に話を聞いた。(以下、「」内は森山氏のコメント)
記事前編は【総工費540億円「羽田イノベーションシティ」がガラガラ…そもそも「天空橋エリア」はどのような場所だったのか、その意外な成り立ち】から。
空港利用客を呼び込めていない
羽田空港に最も近いエリアとして発展することを選択した天空橋。しかし現状の「HANEDA INNOVATION CITY」を見ると、開発後の賑わいが創出できているとは思えない。
「一番大きな問題として挙げられるのは、空港の近くにあるにもかかわらず空港と関係ない街になってしまっているということです。空港利用客が足を運びたくなるような集客性の高い施設やお店が集まっているわけでもなく、電車やモノレールで隣とはいえ空港から気軽に徒歩で行けるような立地でもありません。
それでも新しい施設をつくることで空港利用客の何%かは来るだろうという想定だったのかもしれませんが、旅行客は基本的に決まった目的のために空港を利用するので、わざわざ1つ前の駅で下りて観光することは考えにくい。長旅のために東京駅を使う人たちが、神田で下りないことと同じですね」
また「HANEDA INNOVATION CITY」ならではの特徴が足を引っ張っている可能性も。
「『HANEDA INNOVATION CITY』は研究施設やオフィス施設が“顔”になっているので、なかなか通りすがりで興味が持たれにくいのも難点でしょう。観光してもらうには人々に“楽しそう”と思わせるようなビルづくりをしなければなりませんが、それにはテナント選びも含めてデベロッパーの創意工夫が重要になります。しかし、『HANEDA INNOVATION CITY』にはそういった観点の工夫が感じられないのです」
原因には社会構造的な問題も…
どうしてこうなってしまったのか、その原因は?
「これは推測ですが、今、デベロッパーがどんどんビルづくりに時間をかけられなくなってきていることが原因の一つとしてあるのではないでしょうか。かつてはデベロッパーの社員育成のプロセスとして、まず新人時代に担当する地域に溶け込んで、定年までにその街を開発できるように取り組むという長いスパンでの考え方がありました。
ですがそれは前提に終身雇用があり、その育成方法ができたのは人事評価も長期で見ることが可能だったからです。働き方が変化した現代では、複数の会社を渡り歩くのが当たり前で、短い期間で結果を出さなくてはいけなくなっています。これは天空橋に限ったことではなく、近年の再開発であまり魅力を感じられない街や建物が多いのは、そういった理由があるのかもしれません」
“公共性の低さ”や“リーダーの不在”の弊害
次に森山氏は、羽田空港周辺について、エリアごとに運営会社が異なるのも開発のネックになっているのではと指摘する。全体の方向性が定まりづらいからだ。
確かに「HANEDA INNOVATION CITY」は羽田みらい開発株式会社だが、ターミナルごとにも運営会社があり、羽田空港とその周辺のエリアでは複数の企業がそれぞれ舵取りを行っている状態。この特殊な体制になった背景には、日本特有の事情があるのだという。
「他国の場合、基本的に空港事業は軍や国家が中心になって進めます。日本ももともとはそうでしたが、敗戦後は制約も多く、国家として飛行場の建設や空港事業の自由度が低かった。そういった流れから、アメリカから諸施設が返還されたのちも旗振り役は今一つ定まらなかったのです。
高度成長期には政治家がおのおの地元の有力者と組んで、田舎の遠方の地を安く仕入れ、飛行場を誘致するケースもありました。日本全国の空港の立地を思い浮かべてみてほしいのですが、アクセスしにくい場所が多いと感じないでしょうか。
要するに“公共性の低さ”や“リーダーの不在”といった事情によって、国民の利便性や満足度が後回しにされてしまうという現象が各空港で起こっており、開発において連携が足りない羽田空港の状況にも表れているのではないでしょうか」
天空橋エリアの最終評価をするのはまだ早い
さまざまな課題は残るものの、実は天空橋エリアの現状はまだ完成形ではなく通過点にすぎない。
2028年には「(仮称)羽田空港公園」が新たに誕生予定。こちらはただの公園ではなく、町工場の多い大田区の個性を生かした実証実験エリア、ロボット体験施設など、挑戦的な要素を盛り込んだスポットになるようだ。
歩みを続ける天空橋は今後どのような街になっていくべきなのか、最後に森山氏の見解を聞いた。
「天空橋は立地から見ても十分にポテンシャルのある街です。国内でも群を抜いてアクセスがいい羽田空港の側にあり、都心からも比較的に行きやすい。だからこそ、空港の補完施設として機能を充実させるのか、あるいは『(仮称)羽田空港公園』で示しているような大田区らしい“ものづくりの街”という個性を磨くのか、いずれにせようまく舵取りがされれば魅力あるスポットになるはずです。
前者なら、空港利用客のために荷物検査やチェックインまでできるバックアップエリアとなるのが望ましい。後者であれば、たとえば『HANEDA INNOVATION CITY』に手の届きやすい賃料で町工場や大学の研究機関などを誘致し、訪れた人々に体験を提供することも一つの手だと思います」
――“空港”という存在を取りまく時代の流れに導かれ、姿を変え続けてきた天空橋。かつての住宅地でも空港所在地でもなく、“新たな街づくり”という答えを出しつつあるこのエリアの歩みを今後も見守りたい。
(取材・文=蜜ツ冶/A4studio)
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