幸せそうなお隣さんに感じた違和感。理想的に見える家庭に潜む「自覚のない虐待」の恐怖を描いた野原広子によるイヤミス・コミックエッセイ【書評】

【漫画】本編を読む
『赤い隣人~小さな泣き声が聞こえる』(野原広子/KADOKAWA)は、「自覚のない虐待」をテーマに、人はなぜ子どもを追い詰めてしまうのかを描いた物語である。本作も『消えたママ友』『今朝もあの子の夢を見た』『人生最大の失敗』などを描くイヤミス・コミックエッセイの第一人者・野原広子氏ならではの不穏な空気に満ちた作品だ。
主人公の希は、小さな息子・健太を連れて新しい街へ引っ越してきた。隣には、誰もがうらやむような「理想の家庭」を築く主婦・千夏の家族が住んでおり、やがて家族ぐるみの付き合いが始まる。そんな環境でしばらく穏やかな日常を過ごすが、千夏の娘・桃花の言動に、希は少しずつ違和感を覚え始める。「おかしい」のは自分なのか、それとも千夏なのか。その答えが見えないまま、不安だけが静かに膨らんでいく――。
子育てへの不安や孤独、親として「正しくあらねばならない」というプレッシャーに対する母親たちの等身大の苦悩や葛藤描きながら、希と別居中の夫との関係、理想の家庭と思われていた千夏の家族が抱える闇、そしてその「隣人」の本当の怖さなどが複雑に絡み合う展開と後味の悪さは、イヤミス・コミックエッセイの旗手の真骨頂だ。
幸せそうに見える家庭でも、外からは見えない苦しみを持っているのかもしれない。そして個人個人の価値観の違いによって生じるトラブルも、子育てに限らず実際に味わったことのある人は多いはずだ。明日は自分の身に起こるかもしれない。そんな身近なモヤモヤ系ミステリーがお好みならぜひ手に取ってみてほしい。
文=馬風亭ゑりん
