闇にまぎれロシア領空に侵入する無人機、操縦士は標的に狙い定め「バイバイ」…任務支えるのは女性や若い世代
【キーウ=倉茂由美子】ロシアによるウクライナ侵略は、まもなく4年半を迎える。
兵力が勝る露軍に苦戦を強いられてきたウクライナ軍は今春以降、戦況の巻き返しを図りつつある。攻勢のカギを握るのが最先端の国産無人機(ドローン)だ。ロシア国内などへの攻撃で、露軍の攻撃能力をそいでいる。
ウクライナ北部の森の中。今月のある夕方、「無人兵器軍」第413独立連隊の無人機部隊が、車両から大きな箱を次々と運び出した。中から翼や胴体などの部品を取り出すと、15分間で2機の無人機を組み立てた。
1機は先発の偵察機「シャークM」(航続距離約420キロ・メートル)、もう1機は自爆機「ラム2X」(同150キロ・メートル)。いずれも国産の中距離無人機だ。森の少し開けた場所には、米宇宙企業スペースXの衛星通信網「スターリンク」のアンテナを設置し、すぐに通信環境が整った。
「今夜の標的は弾道ミサイルシステムだ」。基地にいる指揮官から遠隔で指示が出ると、現場は沸き立った。ウクライナでは迎撃ミサイルが不足し、露軍の攻撃に対応できない回数が増えている。「発射元を破壊すれば犠牲者は出ない」。隊員らは表情を引き締めた。
「3、2、1」。ブーンという音を立てて偵察機が飛び立つと、続けて約3キロ・グラムの爆発物を載せた自爆機も夜の闇に消えていった。向かうのは、露西部ブリャンスク州だ。

無人機が搭載するカメラの映像や位置情報は、ワゴン車内の「操縦室」に設置されたパソコンに表示された。2機は鮮明な映像をとらえながら、露領空に侵入していく。
だが、しばらくすると問題が発生した。標的に到達する前に、自爆機の電池が残りわずかとなった。「上空の風が強く、電池が早く消費された」。女性操縦士のユリア・サフチェンコ(24)は画面を前に顔をしかめた。墜落する前に何かを攻撃しなければ無駄になる。残り時間が減り、操縦室に緊張感が漂う中、新たな標的は防空システムのアンテナ塔に決まった。
風にあおられながらも、サフチェンコは機体を安定させ、狙いを定めて最後のクリックをした。
「バイバイ」。通信が途絶えた。数時間にわたる攻撃は完了した。
ウクライナ軍は、ロシア国内や南部クリミア半島など露占領地で、軍事拠点などを狙い中長距離無人機による攻撃を続けている。ロシアに停戦を迫ることを目的に6月末からさらに攻撃を強化しており、ウクライナの情報機関「保安局」(SBU)は100以上の重要施設を攻撃したと発表。「無人兵器軍」の第413独立連隊も空港や防空施設などの攻撃に成功してきた。
任務を支えるのは若い世代だ。
ウクライナ軍全体が兵力の確保に苦しみ続ける中、無人機部隊では若者や女性が増えている。2024年に発足した無人兵器軍は組織として新しく、伝統的な軍の風土とは異なる。比較的自由な雰囲気が人気だという。同連隊の操縦士3人も、志願して入隊した23〜24歳だった。
自爆攻撃を成功させたユリア・サフチェンコ(24)は、今年2月に入隊した。親友を前線で亡くし、「次は私が戦う番」と決意した。プログラマーの経験を生かし、女性でも劣等感を感じずに活躍できる無人機部隊を選んだ。
操縦はコントローラーではなく、パソコンのプログラム上で数値などを入力して行う。天候や速度を考え、臨機応変に針路を判断する必要があり「プログラマーの論理的思考が役立っている」。そして、「友人のように命を落とす兵士をできる限り減らすため、露軍の拠点を破壊し続ける。責任は大きい」と語った。
ロシア機を研究・改良、1年で量産
無人機が戦闘の主力となったことで、両国の開発競争は激化している。ウクライナでは、急速な進化に対応するため、露軍の無人機を研究して改良を加える「リバース・エンジニアリング」が効果を上げている。
無人機製造企業「ブリスカフカ」は昨年、会社と同名の自爆型無人機を開発した。最大飛行距離80キロ・メートル、8キロ・グラムの爆弾搭載が可能だ。露軍が前線で大量に使用する露国産無人機「モルニヤ」を改良した、いわばコピー品。名前はそれぞれの言語で「稲妻」を意味する。
独自の無人機を開発するには約1年かかるが、ブリスカフカは2か月で試作機を完成させた。翌月には前線への投入を始めた。戦場で使用しながら改良を重ね、1年後には大量生産に入った。今や前線の約150部隊が使用している。
リバース・エンジニアリングを導入したきっかけは昨年2月、ある部隊が「この戦争で戦う手段をくれ」と、前線で回収したモルニヤを持ち込んだことだった。
「ロシアに狙われる可能性がある」として匿名で取材に応じた男性エンジニア(40)は、モルニヤの最初の印象を「最高の粗悪品」と語る。アルミや発泡スチロール、粘着テープなど最も安価な材料でできていたが、攻撃力をみれば「効率性が高かった」。
数人の技術者グループで、モルニヤの仕組みを見ると、機体の安定性や通信回路などに問題点を見つけた。改良してブリスカフカができた。モルニヤが1機あたり約1500ドル(約24万円)とされるのに対し、ブリスカフカの価格は3分の2だという。部品の8割は国産だ。
エンジニアによると、前線で使用される無人機は進化が激しく、「2か月ごとに技術が更新され、開発は追いつけ追い越せのスピード勝負」だ。ブリスカフカもすでに100回以上の改良を重ね、常に性能を向上させてきた。
エンジニアは、「前線には必ず生身の兵士が必要で、無人機が完全に置き換わることはできない」という。だが、「無人機の進化は間違いなく戦争を変えていく。エンジニアとして果てしない戦いが続く」と語った。(敬称略)
