〈『呪怨』トシオくんは今〉「白塗りを落とすのに1時間」“パンツ一丁”とイジられた最恐少年が20歳に…現在は大学で数学を学び、教職課程を履修

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映画『呪怨』で、ジャパニーズホラーの“象徴”ともいえる佐伯俊雄(トシオくん)を演じた小林颯(かい)。撮影当時は小学2年生、8歳のときだったが、あれから12年──。現在20歳、大学で数学を学びながら教職課程も履修しているという。今もなお「トシオくん」として声がかかるという小林に、当時の撮影の舞台裏と、今だからこそ語れるトシオくんへの思いを聞いた。

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トシオくんの白塗り、落とすのに1時間!

6歳から子役として芸能界入りした小林颯。『呪怨 終わりの始まり』(2014年公開)、『呪怨 ザ・ファイナル』(2015年公開)の2作品で、佐伯俊雄(トシオくん)役を演じた。最初の作品の撮影時、小学2年生、8歳だった小林は、どのようにして“最恐の子ども”に選ばれたのか。

「トシオくん役はオーディションでした。最終オーディションでは、さすがに白塗りまではしなかったんですけど、パンツ一丁になった子役10人くらいが、『寒い、寒い』って言いながら並んで、座って待っていたのが印象に残っています。子役デビューしてまだ間もない頃だったんですが、あとから落合正幸監督に『目がよかった』と、抜擢の理由を教えていただきました」(小林颯、以下同)

トシオくん役が決まると、家族も大喜び。母親からは「あのトシオくんだって!」「白塗りの男の子だよ」と、興奮気味に伝えられたという。一方、当の本人はというと……。

「僕はそもそもホラー映画をあまり観たことがなかったので、『選んでいただけてうれしいな』という気持ちが一番でした」

そんな小林にとって、ホラー映画の撮影現場は、意外にもまったく怖い場所ではなかった。

血のりを使った撮影も、「こうやって作るんだ、面白いな」と、8歳の少年ならではの好奇心で楽しんでいたという。一方、どうすれば“怖いトシオくん”に見えるか、子どもながらに試行錯誤していた。

「トシオくんって、睨むシーンが多いんです。監督から『まばたきはしないで』と言われていて、当時は空気が乾燥している時期だったので、かなり辛かったですね(笑)。いかに奇妙に見えるか、横目にしたり、正面から見たり、角度を試しながら考えていた記憶があります」

そんな撮影の中でも、特に印象に残っているのが、撮影後のお風呂だった。トシオくんといえば、あの真っ白な顔。だが実際には顔だけではなく、全身を白く塗っていた。

「歌舞伎の白塗り化粧などを使っているんですけど、顔だけじゃなくて全身に塗っているので、落とすのに1時間くらいかかるんですよ。毎回、撮影後に衣装さんやメイクさんなど、大人4人がかりでクレンジングを塗って、お風呂に全身浸かって……を繰り返して落としていました」

撮影現場は基本的に“呪われた家”が舞台だったため、その家の風呂場や、ロケ先で用意されたホテルの風呂を借りて、毎回せっせと白塗りを落としていたという。

「今振り返ると、あれもすごく貴重な経験でしたね」

そして、子どもがほとんどいない撮影現場で、小林を温かく見守ってくれたのが、トシオくんの母親・伽椰子を演じた最所美咲だった。

「本当のお母さんみたいに、すごくよくしていただきました。当時、僕がゲーム実況にハマっていて、それについて現場で話を聞いてくれたりして。僕が一方的に話していたんですけど(笑)。今でも“伽椰子お母さん”とは年賀状のやりとりをしていますね」

出演後、友達に『パンツ一丁』とイジられたことも…

では『呪怨』出演後、周囲の反応はどうだったのか。

「友達の親や親戚には『すごく怖かったよ』と言ってもらったり、『颯くんって分かっていたから、あまり怖くなかった』と言われたり、いろんな反応がありました。怖がってほしかったので、ちょっと悔しかったですけど(笑)」

一方、学校では「パンツ一丁」と友達からイジられることもあったという。

「厳密に言えば、撮影のときは2枚重ねて、はいていたので、『パンツ二丁だよ』って言い返してました(笑)。ただ、いじめにつながるようなことは一度もなかったですね」

“最恐の子ども”を演じた小林だが、実は本人はホラーが大の苦手。自身が出演した『呪怨』2作品の完成披露試写会を最後に、ホラー映画を観ていないという。

「今でも怖くて見られないんですよ(笑)。当時はまだ小さかったので、試写会の後、一人で寝るのも怖かったです。お風呂に入るときも、いろんなところの電気をつけて、髪の毛を洗うときも目を開けながら洗ってました」

自分が演じたトシオくんに、自分自身が怯えるという、なんとも不思議な事態に。

「『トシオくんが出てくるんじゃないか』って。『電気つけて、前にいたらどうしよう…』とか、『お風呂場のガラスに写っていたらどうしよう……』とか(笑)」

8歳の少年に強烈な恐怖を植え付けたトシオくん。それほどインパクトのある役だけに、その後の俳優人生に支障はなかったのだろうか。そう聞いたところ、小林の答えは意外なものだった。

「むしろステップになりました」

現在も、イベントや取材などでトシオくんとして声がかかることがあり、12年経った今もなお、自分をトシオくんとして覚えてもらえていることが、「素直に嬉しい」という。

「基本、トシオくんは顔が白塗りなので、メイクを落としたら正直誰にも気付かれないんですよ(笑)。今でもいろいろな良い経験をさせてもらってる。トシオくんは、僕にとって宝物のような役ですね」

数学に教職、アクションに英語…“トシオくん”20歳の現在地

12年経った今、改めてトシオくんというキャラクターをどう捉えているのか。そう投げかけると、意外な答えが返ってきた。

「トシオくんの生い立ちは複雑で……。父親に虐待されたあと、殺されて、あの家にずっといる。だから『かわいそう』という印象を持たれがちなんです。僕は今、大学で教職課程を取っていて、虐待って大きなテーマの一つでもあるんです」

現在、大学3年生の小林は、理系の学部で数学を学んでいる。同時に教職課程も履修しており、その学びのなかで、かつて自分が演じたトシオくんの背景にある「虐待」という問題を改めて考えるようになった。

「いかに第三者が早く気づいて助けられるか。『第二のトシオくん』を生まないためにはどうしたらいいかを考える存在になっています」

教職課程を取っている理由も、根底には「経験を積みたい」という思いがある。

「経験が大事だと思っているので。いかに学生の間にいろんなことを経験するか。それを役者として生かせたらいいなと思っています」

実は小林は、子どもの頃からかなりの“マルチタイプ”だった。

「小さい頃から母に『いろんなことをやりたい』って言っていて、多いときは1週間に6~7個くらい習い事をしていた時もありました。体操、水泳、空手、ピアノ、フィギュアスケート、塾、サッカー……。そうやっていろいろやっていた経験が、今生きているのかなって思います」

一方で、20歳になった今、小林が意識しているのは「子役から大人の俳優へ」というステップアップだ。

「大人の俳優として、これから新しく入ってくる俳優さんたちとも一緒にやっていくためには、小さい頃からやっていた経験だけじゃなくて、新しく経験を積まなきゃいけないなって、すごく思っています。今後、大きな役をいただいたときに、子役じゃない自分を魅せられるかが勝負だなと思っています」

最後に、「これからどんな俳優になりたいか」を尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「自分が得意なものを生かしたいです。例えば、運動神経を生かしてアクションをやってみたり、英語も好きなので英語を話してみたり。犬も小さい頃から飼っているので、トリマーとか獣医とか、バイクも好きなので乗ってみたり。そういう、自分だからできることをやってみたいなって思います」

8歳で“最恐の子ども”になった少年は、20歳になった今、自分だけの経験を一つずつ増やしながら、「自分にしかできない俳優」を目指している。

取材・文/木下未希 撮影/三浦龍司