「ひとりでいる=寂しい」は間違いだった…孤独な時間が「記憶力」と「創造性」を高める意外な理由
SNSなどで常に他人とつながっている現代社会において、孤独とは「寂しい状態」であり、心身に悪い影響を及ぼすと思われがちだ。しかし最新の脳科学や社会学の視点では、孤独こそが脳を劇的に活性化させ、認知能力の向上と精神的安定をもたらす「最良の時間」だという。現代人が恐れがちな「孤独の時間」が持つ、驚くべき脳への効能とは。
本稿は、『何もしない時間 脳の隠れた機能を最大限生かす』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
孤独は自分を取り戻す時間
マリ・キュリー、シモーヌ・ド・ボーヴォワール、ヘンリー・デイヴィッド・ソロー、ラビンドラナート・タゴールといった偉大な思想家は、孤独を尊重したことで知られている。
神秘主義者や冒険家たちも、長きにわたって群衆から逃れようと努めてきた。伝説によれば、ブッダは菩提樹の下で何年間もひとりで瞑想し、悟りを開いたといわれている。
単独世界一周の最年少記録を達成したラウラ・デッカーは、海の上でひとりだった。
「帆を調整してスピードを上げることもあるが、ほとんどの場合、どこまでも続く絹のような青い海と、その静けさを楽しんでいる」と書いている。
こうした先駆者たちが発見したのは、社会の雑音から離れると、自分がそうした環境でどのように形づくられたのかをはっきり理解できるようになるということだ。自分という人間を見極め、より偽りのない、独創的な自己表現が可能となる。
孤独の研究の第一人者であるジャック・フォン教授は、そのひらめきを「存在化の瞬間」と呼んでいる。脳が本質的な真実や隠れた傾向を見いだそうとする洞察の瞬間だ。
「そうした瞬間が訪れたら、抗ってはいけません」と、ジャックは2017年にあるインタビューで語っている。
「そのままの形で受け入れましょう。静かに、ありのままに浮かび上がってくるのを待つのです。抵抗しないでください。ひとりの時間を恐れてはいけません」
現代人が孤独を嫌う理由
この存在化の瞬間は、脳内でデフォルトモード・ネットワーク(DMN=電気信号や化学信号で情報をやり取りする脳細胞である“ニューロン”によってつくられた回路)が活性化しはじめた合図だ。とりわけ内側前頭前皮質、後部帯状皮質、角回などの働きが活発になる。
こうした領域は、内省、道徳的推論、問題解決、未来の想像で重要な役割を果たす。
シャワーを浴びているときや、ひとりで散歩しているときにすばらしいアイデアを思いつくことが多いのは、それが理由だ。
2024年に私がジャックに会った際、彼は研究テーマを広げ、孤独の本質と、孤独が意識に与える影響についてさらに調べていたが、それと同時に、私たちが自身の思考と向きあう能力を失いつつあるのではないかと危惧していた。
「ありのままの自分でいるとは、どういうことか?」
カリフォルニア州立工科大学ポモナ校のオフィスでじっくりと話を聞いたときに、彼は説明してくれた。
「思うに、われわれはその問いをあきらめて、同時に自分を他人のアイデンティティでおおってしまった。自分を知ることを恐れるようになったのです」
社会学者であるジャックは、近代化の影響で思考や自己認識が曖昧になったと考えている。社会システムは私たちのアイデンティティを外に向け、物質的な所有物やSNSの危うい指標に承認を求めさせているのだという。
そのせいで、私たちの自尊心は内面から生まれるのではなく、ますます外的な要因に依存するようになった。その結果、かつては自己探求や内省に欠かせない道のりだった孤独が、もはや自分にとって何の価値もないと考える人が増えている。
「生まれたときから、誰もが喜び、幸せ、自尊心は外の世界にあると教えられています」
とジャックは指摘する。
「物質主義の西洋社会で育った人は、みんな『この車が欲しい、この腕時計が欲しい、Facebook の“いいね!”が欲しい、かっこよくなりたい』と考えるようになります。それが自己の深淵へと潜ることを妨げているのです」
孤独のなかで、思考は進化する
孤独が脳にもたらすプラス効果は、認知能力の向上と精神的安定という2つの重要なカテゴリーに分けられる。
認知の面では、孤独によってアイデアが広がるのに必要なスペースが確保され、創造性が高まる。私たちがひとりで過ごしているとき、脳は自由にさまよい、さまざまなことについて深く考え、デフォルトモード・ネットワーク(DMN)を活性化することができる。
文章を書く、ピアノを弾く、絵を描く、ガーデニング、祈り、瞑想……、ひとりでいるほうが、こうした活動をうまく行える場合が多い。そのあいだに脳内でDMNが新たなシナプス結合を形成し、私たちのスキルを強化して創造性をより効果的に育むからだ。
孤独によって「自伝的計画」というプロセスが開始され、記憶力や集中力にもすばらしい効果を発揮する。過去の経験を振り返ったり、将来の目標を思い描いたりして、それらを自己意識に統合するのだ。
シベリアに流刑されたドストエフスキーは次のように書いている。
「精神的な孤独のなかで、私はそれまでの人生を残らず振り返り、ありとあらゆる細部について熟考し、過去に思案を巡らせ、みずからを厳しく容赦なく裁き、ときにはこの孤独を与えてくれた運命に感謝さえした……。そしてこれから先は、過去に犯した過ちや失敗をけっして繰り返さないと考え、決意し、心に誓った」
服役を終えると、彼は4篇の傑作を執筆している。
孤独は記憶力の向上や認知能力の成長を促す
また、ミシガン大学による調査では、ひとりで自然の中を歩いた参加者は、グループで歩いたり都市部を歩いた参加者にくらべて、記憶力のテストで好成績をあげたことがわかった。
これは、孤独と静かな環境の相乗効果により、記憶の保持や回想力を大幅に向上させることを示している。
同様に、孤独は脳の神経可塑性(神経系が刺激や経験に応じて柔軟に変化し、新たな機能を獲得する能力)を高め、記憶や集中力に関連する神経接続を強化し、増加させる。
内省の力を利用し、外部からの刺激を減らすことで、脳は過去の考えに集中し、まったく異なる考えを結びつけることもできる。
これによって新たな情報が長期記憶に定着するだけでなく、過去の経験を理解し、そこから教訓を学ぶことにも役立つ。
簡単にいうと、孤独とは単に社会生活から離れるだけでなく、記憶力の向上や認知能力の成長に不可欠な状態なのだ。
文/ジョセフ・ジェベリ 写真/shutterstock
何もしない時間 脳の隠れた機能を最大限生かす(かんき出版)
ジョセフ・ジェベリ (著), 清水 由貴子 (翻訳)

2026/6/17
1980 円(税込)
320ページ
ISBN: 978-4761278786
樺沢紫苑氏 絶賛!
\「休むこと」は、最高の脳の戦略である/
なぜ、散歩中にひらめくのか?
なぜ、ぼんやりするほど脳が冴えてくるのか?
なぜ、何もしないことで集中力と創造性を取り戻せるのか?
その答えは、
“休息時”に働く、脳の隠れた機能にあった。
現代人は、働きすぎている。
メール、会議、SNS、
終わりのない煩雑な仕事の処理……。
私たちの脳はつねに「集中モード」を強いられ、
気づかぬうちに疲弊している。
しかし、最新の神経科学は、
驚くべき事実を明らかにした。
脳は、「何もしていないとき」にこそ、
・記憶を整理し
・感情を回復し
・創造性を育て
・人生を変えるアイデアを生み出している
本書では、神経科学者である著者が、
世界最先端の研究と自身の体験をもとに、
・なぜ、「ぼんやりする時間」が創造性を高めるのか
・なぜ、自然の中では脳が回復するのか
・なぜ、ひとりの時間が認知能力を強くするのか
・なぜ、睡眠が脳を修復するのか
・なぜ、遊びや運動が脳を鍛えるのか
・なぜ「何もしない時間」が人生を整えるのか
を、豊富な神経科学の研究とともに解き明かしていく。
さらに、
・海馬
・前頭前皮質
・扁桃体
・デフォルトモード・ネットワーク(DMN)
など、脳の重要な部位がどのように働き、
私たちの思考、感情、集中力、
幸福感に影響を与えているのかを、
具体的なエピソードとともに、
驚くほどわかりやすく紹介。
「脳科学なのに圧倒的に読みやすい」
「読みながら、自分の人生を変えたくなる」
そんな知的興奮と実用性を兼ね備えた一冊。
さらに本書では、
・なぜ、過労は脳を壊すのか
・なぜ、現代人は休めなくなったのか
・なぜ、“生産性の罪悪感”を抱えてしまうのか
・なぜ、休むほどパフォーマンスが上がるのか
についても、世界最先端の研究をもとに解説する。
休息は、怠惰ではない。それは、
脳の機能を最大限に引き出し、
創造性・集中力・幸福感を取り戻すための
「積極的な技術」なのである。
仕事、創造性、人間関係、メンタルヘルス――。
疲れ切った脳を回復させ、
本来の力を取り戻したいすべての人へ。
