新しい技術やビジネスの場として注目される大学発のベンチャー。経済産業省の2024年度調査における北陸地域の主要大学における大学発ベンチャー数は、50件に満たない数字となっています。

この状況を打破すべく、学生たちに気軽に起業について考えてもらう取り組みが金沢大学をはじめ北陸の大学や高専で進められています。現状を取材しました。

発表する大学生「これまで、PRのアニメなどを作ってきたそうなのですが、制作費用が高額になることから、私たちはボードゲームを開発しました。」

8月4日、金沢大学で学生たちによる企業のアイディア発表。江戸時代、船で各地に寄港し商いを続けた北前船(きたまえぶね)をテーマに全国を回るボードゲームを開発、全国各地にある北前船とゆかりのある資料館に販売してもらうことを提案しました。

北陸の11大学・3高専が共同で取り組む

学生たちに起業への関心を持ってもらう「テックスタートアップ北陸」、通称「TeSH」(テッシュ)の取り組みです。

2025年11月から動き出したこの枠組みで、金沢大学では学生向けプログラムの一つとして「実践アントレプレナーシップ学」の講義を行っています。

金沢大学・佐々木淑貴特任准教授「石川県の金沢大学だけでなく、北陸地域の11大学3高専が関わっています。『実践アントレプレナーシップ学』は、大学生以上向けプログラムになります。この授業では、学生さんにプロトタイプ制作(本格的な製造やプログラミングに入る前に「試作品」を作る作業)を学んでもらうことを目的としています」

講義が行われる部屋では、3Dプリンターなども設置されていて、自由に使えるようになっています。

入学間もない1年生が7人参加

参加した学生は8人で、そのうち7人が入学して間もない1年生でした。

学生たちはAIなども活用しながらサービスのプロトタイプを作成し、「北前船のボードゲーム」、「大学内で使用する自転車のシェアサービス」といったテーマなど、自分たちの関心や課題意識をもとに形にしていました。

北前船ボードゲームを開発した学生「関係者の方から聞き取りをした際に、『若い人ができるゲームのようなものはないか』という相談が開発のきっかけです」「自分はボードゲームが結構好きで、友達と集まってワイワイやるのが好きなタイプで北前船の「動く総合商社」としての魅力を伝える時に、ビジネスを自分で体験できるものも含めて良いのではないかと思って提案しました。」

自転車シェアサービスを提案した学生「金沢大学がとても広いという理由から、どこでも使えて乗り捨てられる自転車サービスが欲しいと思っていました。」「この講義で自分の課題を実際に形にするということは初めてだったのですが、すごく楽しかったです。他の人の意見や、課題を実際に形にするプロセスを見て、自分でも課題解決ができるんだと刺激になりました。また何か課題があれば、自分のアプリや具体的なプロトタイプを作りたいなと思いました」

「経験が大事」不確実な世の中を生き抜く力を

佐々木特任准教授によりますと、経済産業省の2024年度調査における北陸地域の主要大学における大学発ベンチャー数は、50件を下回るような数でした。しかし、TeSHの取り組み開始後に、TeSH参画大学・高専へ調査を行った結果、2025年10月末時点で100を超える数の大学発ベンチャーがあることが明らかになりました。

他地域と人口規模などで比較すると、北陸にはまだ多くの大学発ベンチャーやスタートアップを生み出すポテンシャルがあります。こうした講義を通じて『学生発ベンチャー』が今後増えることが期待されています。

学生のうちにこうした起業に向けた学びをする意味は、どこにあるのでしょうか。

金沢大学・佐々木淑貴特任准教授「学生のうちに経験をするということが非常に大事です。将来像としては、起業家であり続ける道だけでなく、学生起業を経て、その後に社会人として大企業に入るキャリアもあり得ます。不確実な世の中の中で自分がどうキャリアアップしていくかを考える材料として、起業が一つの選択肢になります。 こうした取り組みを学内だけでなく、北陸全体へ浸透させていきたいと考えています」

産学官で支える息の長い取り組みを

佐々木特任准教授は、公務員時代に10年、起業や創業にかかわった経験を生かして金沢大学に転身した異色のキャリアを持っています。

講義全体を通して学生に伝えたかったこととして、「自ら課題を発見し、その解決策を自分で考え、社会に実装していくこと」の重要性を挙げました。

金沢大学・佐々木淑貴特任准教授「 途中で悩んだときには、仲間と相談し、将来について語り合うことも大切です。Teshの中では学生コミュニティも形成しており、約4か月間で110名程度の学生が参加しています。 取り組みは昨年11月に始まったばかりで、まだ1年もたっていませんが、継続して息の長い取り組みにしていきたいと考えています。今後は、産学官の連携を深めながら、取り組みを拡大していきたいです」

発表の完成度だけでなく、課題を見つけ、考え、試してみる過程そのものを重視し一過性で終わらせないことが課題になっています。