アニメイトといえばオタクコンテンツの聖地だが…

写真拡大

 平成の時代は海外ブランドを盛んに誘致し、高級路線を推し進めた百貨店だが、昨今はアニメ・漫画関連の店舗が開店したり、イベントが開催されたりするようになってきた。リニューアルが進む「福岡三越」(福岡県福岡市)は、10月24日に専門店街「ラシック」にアニメグッズ専門店「アニメイト」をオープンさせると発表した。「アニメイト」としては九州最大級の店舗になるという。

【写真】10月に「アニメイト」がオープン 福岡の繁華街・天神の一等地にある「福岡三越」の姿

 大分県大分市にある地方百貨店「トキハ」には、8月21日〜9月6日の期間限定で「ジャンプショップ」が開店する。これは、「週刊少年ジャンプ」の人気作品の原作関連商品などを販売する、集英社公認のオフィシャルライセンスショップだ。また、銀座の中心部にある「松屋銀座」も、『【推しの子】』や『薬屋のひとりごと』、『うる星やつら』をはじめ、漫画・アニメ関連の展示会を次々に開催している。「松屋銀座」は、アニメ展の聖地として認知されつつある。

アニメイトといえばオタクコンテンツの聖地だが…

 こうした動きを、どのように見るべきか。百貨店が苦境に陥っている……と見ることもできるかもしれないが、同時に、オタクコンテンツが高級ブランドと同じくらい目立つようになり、さらに言えば力を得たことを表しているのかもしれない。

 オタクコンテンツは、海外のインバウンド需要、そして国内の推し活需要の両方を取り込めるという意味で、今後の百貨店の経営に不可欠な存在になりそうである。【取材・文=山内貴範】

バブル後の高級化路線

 かつて、百貨店は家族みんなで出かける“ハレの場”であった。屋上には遊園地があり、レストランではお子様ランチを食べる……百貨店で過ごす時間は、家族の絆を深める特別なものだった。ところが、バブル崩壊以降、その役割は百貨店ではなくイオンモールが担うようになった。

 その原因は、平成不況によっていわゆる中間層が失われたからではない。百貨店が極端なほどの高級化路線を推し進め、従来の客離れを招いたためである。

 多くの百貨店は、自社で商品を仕入れて販売する商法を縮小し、スペースを貸す不動産業のようなスタイルに転換した。その目玉として誘致されたのは、客単価も大きく、固定ファンが多く、ブランドネームで集客できる海外ブランドであった。かつて家族連れでにぎわっていた百貨店は、いつしか外商と富裕層頼みの経営になってしまった。

 こうした海外ブランド頼みの経営を続けた結果、都心も、地方も、どこの百貨店も1階の特等席には同じブランドばかりが入るようになった。結果、店舗ごとの個性を完全に喪失してしまったのだ。その後、海外ブランドが撤退してしまうと、客も百貨店を見切ってしまうという悲惨な結果を招いた。地方百貨店が軒並み苦境に陥っている要因の一つはこれである。

百貨店に売り込みに行ったら

 余談だが、筆者は、2007年から故郷の秋田県羽後町で、“美少女イラスト”を使った町おこしを推進したことがあった。その一環として翌年に発売したのが、「美少女イラスト入りあきたこまち」である。この商品を企画した際、JAの担当者とともに東京の「池袋三越」に販売を持ちかけたことがあったが、断られてしまった。

 担当者から言われたのは、「店のイメージに合わない」ということだった。ならばと、秋葉原の同人誌ショップ「とらのあな」にも売り込みに行ったが、返事は残念なものだった。結局、どこの店でも扱ってくれなかったので、JAのネット通販で販売することにしたのだが、注文が殺到、わずか3か月で約1年分のコメが売れてしまった。

 その後、いくつかの百貨店で取り扱われるようになったのだが、後追いという印象が否めなかった。筆者はこのとき、百貨店が時代の先を走り、流行を創り出し、リードする時代は終わったんだなと寂しく感じたものであった。なお、「池袋三越」も秋葉原の「とらのあな」もその後、閉店してしまった。

「三越」と『涼宮ハルヒの憂鬱』がコラボ

 話を戻す。そんな過去を体験している筆者にとって、百貨店がオタクコンテンツを大々的に扱うようになったことは驚きである。オタクコンテンツが海外ブランドと肩を並べるか、それ以上の存在になりつつあることの証明といってもいいだろう。

 今年の5月には、建物が重要文化財にも指定されている老舗中の老舗「日本橋三越本店」が、周囲に高級ブランドがあるなかに『涼宮ハルヒの憂鬱』のイベントスペースを設けて話題になった。会場ではグッズの販売や、関連書籍の展示なども行われていた。

 また、「三越日本橋本店」や「伊勢丹新宿店」などの画廊でも、オタクコンテンツに縁の深いイラストレーターや漫画家の原画展を行う例が目立っている。地方の百貨店では、往年のアニメのセル画や、漫画家の色紙を販売する展示即売会も盛んだ(筆者が見たところ、画廊は鑑定のスキルがないようで、手塚治虫の贋作を売っている例もあったようだが)。

 オタクコンテンツのショップを設ける最大のメリットは、海外ブランドを誘致するよりはるかに楽な点にある。専門の什器を入れるなどの大規模な改修や、周囲のブランドに対する配慮(どことは言わないが、このブランドの隣には出店したくない、などの要求をするブランドが多いのだ)も不要だ。サテライトショップであれば、空きスペースで実施できることも大きなメリットである。

「アニメイト」の出店は増える可能性も

 おそらく、今後、百貨店へのアニメ・漫画関連のショップの出店は加速すると思われる。特に、「アニメイト」の出店は今後も増えるのではないかと筆者はみている。「アニメイト」はアニメグッズだけでなく、漫画の単行本も扱うため、書店の機能も持っている。“書店難民”に陥っている地方在住者にとっては、これほどありがたい存在はないからだ。

 アニメショップは、海外と国内、両方のファンを集客できるのが最大の強みである。また、最近では家族みんなでアニメや推し活を楽しむケースも増えているため、アニメショップが出店すれば、ハレの場としての百貨店が復活する可能性も大いにあり得る。そういう意味では、オタクコンテンツほど、百貨店に求められているものはないのかもしれない。

 また、地方の中心市街地にとっても、再生のきっかけになり得るかもしれない。昭和の時代は、集客力がある百貨店の周囲に商店街が形成される例が多かった。しかし、集客の柱だった百貨店が閉店すると、その周囲の個人商店も軒並み閉店してしまい、シャッター通り化してしまう例が続出したのである。

 アニメショップが百貨店に入れば、中心市街地に若者や家族連れを呼び込む起爆剤になる可能性が高い。百貨店と地方の未来を救うのは、オタクコンテンツなのかもしれない。

ライター・山内貴範

デイリー新潮編集部