2026年3月14日、ライブアイドルシーンから1人のカリスマが去った。真紅の魔王・那月邪夢。2022年4月にMAD MEDiCiNEのメンバーとしてデビューした彼女は、その魔王オーラを放つ圧倒的な存在感と他の追随を許さぬステージパフォーマンスでダークアイドルシーンを牽引してきた。トレードマークである鋭く紅い“邪眼”と、魔力で染め上げられた紅い髪は、“邪夢ギャ”とも呼ばれる10代20代女子のアイコンにもなった。シーンを見渡せば、邪夢の影響下と思しきアイドルは多くいる。そんな彼女がアイドルとしてのラストライブ<DER LETZTE JAM -abschied ist geburt->が、地元・名古屋のLives NAGOYAで開催された。

開演前から真っ赤に彩られた会場は多くのファンでひしめきあっていた。チケット発売後、当初予定していた会場はキャパオーバー。急遽倍の大きさを誇るLives NAGOYAに会場が変更されるも、ソールドアウトした。3月14日は邪夢の誕生日でもあり、ラストライブでありながら生誕ライブでもある。生誕ライブは毎回クラウドファンディングが行われているが、今回その額は過去最高1000万円を超えた。その金額はステージ装飾や衣装にあてがわれる。会場には多くのファンから贈られたのぼりと、後方には豪華な祭壇が祀られている。ステージ上には無機質に組まれたトラスと中央に聳える大きな階段、さらに巨大なLEDパネルが後ろに構える。アイドル界の魔王のラストに相応しい、荘厳な宴の支度は整った。

定刻を過ぎると、悲壮感に溢れたチェンバロの音色がダークなディストーションギターに変わり、紅と黒を基調としたドレス衣装の邪夢がステージに降臨する。無数の炎と煙が吹き上がるなか、「RED RUM」で最期の宴は幕を開けた。妖艶さを漂わせながら高音で攻めゆく魔王の凛とした歌声に合わせ、フロアから割れんばかりの声援、数えきれぬほどの紅いペンライトと拳が上がった。

「この日が来てしまいましたけれども、このあとも豪華なゲストのみんなに出てもらって最高のライブにします。絶対に忘れない、そんなライブにするので最後まで楽しんでいってください」──そう挨拶すると、邪夢は一旦ステージを去っていった。

◾︎MAD MEDiCiNE

どこかで聴いたようなピアノの低音が会場に轟くと、大歓声が沸き起こった。聴き覚えのあるSEに合わせて、見覚えのあるシルエットが華麗に舞いながらステージに現れると、絶叫に似た声が上がる。大人の色香を纏った唯一むに、気品に満ち溢れた黒髪の憑宮ルチア、そしてQ酸素とありすりあが手を取り合いながらステージに登場し、最後は邪夢が中央に陣取る。

「皆さんこんばんは、私たち、MAD MEDiCiNEです! 今日のために4人が集まってくれました! 楽しんでいきましょう!!」

2024年1月に現体制終了したMAD MEDiCiNEが、この日のために限定復活したのである。歌うは「MAD SiCK SHOW」。むにのべっとりとしながらしゃくりを操る歌声に、フロアは歓喜の声で応える。そんなむにの癖のある歌声もルチアの品格あるパフォーマンスも当時と変わらない。表舞台から去って1年以上経つ2人だが、衰えを見せぬステージングにオーディエンスは酔いしれる。現在は別々のグループとして活動している酸素とりあ、そんな旧友たちに囲まれた邪夢の表情は柔らかく、誰よりもライブを楽しんでいるように見えた。背面のビジョンに映し出されるMVを背にパフォーマンスしていく5人。「アリス心中」のドラマチックな急展開、緩急のついたメロディを見事に表現する姿は、本当に終了から1年以上経ったグループなのかと疑うほどだ。

久々のMAD MEDiCiNE5人の自己紹介に、ありったけの声を送るオーディエンス。そこから「愛憎レイテンシー」へと繋ぎ、ゴシックなミュージカル展開でMAD MEDiCiNEらしい真骨頂を魅せていく。オリジナルメンバーの2人、邪夢とルチアの口づけシーンではフロアから悲鳴のような大歓声があがった。

続けざまに「レゾンデートル」へと流れ、悲愴に溢れたメロディを丁寧に紡ぐ。最後は「MAD MEDiCiNE」で締めくくり、MADMEDへ引き継がれていない楽曲だけで構成された圧倒的なステージを終えた。

◾︎RaRaJaM

お次は黒魅ららとのユニット、RaRaJaMのステージだ。先ほどとは打って変わってキュートな振りで、ららと一緒に愛嬌を振りまいていく邪夢。「エターナルフォースナイトメア」の、メロディアスでキャッチーながらもどこか物悲しさを感じる旋律を放っていく2人。「ストロベリヰフラッペ」で邪夢とららの扇動で声と腕を上げるオーディエンス。熱気はどんどん上がっていく。

1ヶ月前にラストライブを開催したRaRaJaMだが、本当に最後となるこの日のステージ。「ららの生誕祭に邪夢ちゃんを(ゲストで)出して」と、ファンに言われたという、ららの言葉に「気が向いたらね」と笑顔で応える邪夢。ゆるゆるで仲良しトークを繰り広げる2人だが、「ミッドナイト・ホリック」「DARKNESS KISSSS!!」とアッパーチューンを一気に畳みかけ、「誕生日おめでとう! 大好きだよ!」「わあぁ〜、邪夢もだーい好き!」「これからも一緒に幸せに暮らそうね」と仲睦まじいやりとりをしながら、悪魔で偶像な2人は去っていった。

◾︎MADMED
続いては今年1月に終幕したMADMEDのお出ましだ。奇怪なSEに誘われて登場する6人。グロテスクなサウンドが飛び交う「毒葬」でライブスタート。終幕公演から2ヶ月ほどしか経っていないが、もう既に懐かしさすら感じる。衣装ではない姿で歌い踊る5人も新鮮だ。間髪入れずに「アシストール」へ突入し、久々のステージを肩肘張らずに愉しむ6人の姿が、特別な夜の熱狂を生んでいく。

邪夢のヘアアクセサリーをつけた4人と、邪夢のスカートを履いた深ゐ沼。黒髪になった猿馬虎や紫のロングヘアから短くなった茶髪の天噛ミ妖メ、髪色の落ち着いたおなかぺこなど、ヘアスタイルの変化を話題に、少し早い同窓会といった雰囲気のMC。終幕公演で初披露された「死にたいと言えたら」を力強く届ける。架空使てんるの歌声が天を衝いた。

「さあさあ、皆さんの声まだまだ聞かせてください!」

邪夢の邪悪な煽りで始まる「まじかるはっぴえんど」。四つ打ちのデジタルビートが猛り狂い、メンバー5人が邪夢へ送る“誕生日MIX”が響く。最後は「アンへドニア」の狂喜乱舞で締め括った。

グループ活動としてだけでなく、YouTubeでの「歌ってみた」動画を多く残してきた邪夢。「デーモンロード」や「ヴァンパイア」といったカバー6曲を繋げたメドレーを丁寧に歌唱。途中「シャイニングスター」の煌びやかなメロディと共に見せたはにかんだ笑顔に、アイドルとしての那月邪夢の原点が垣間見えた。

クラウドファンディングのおかげで豪華なステージセットや特別な衣装を作れたと、はしゃぎながら礼を述べる邪夢。ソロライブでの十八番にJanne Da Arc「ヴァンパイア」を硬派に歌うも、途中歌詞が飛んでしまい、誤魔化す茶目っけも見せる。続けて、Acid Black Cherry「愛してない」をクールに披露し、ステージを降りた。

「邪夢が何回も出てきて嬉しいですか?(笑)」

盛大なアンコールの声に迎えられた邪夢。本日6回目のステージ入場となる彼女は照れくさそうに、そんな言葉をオーディエンスに向かって投げながら笑顔を見せる。そして「口下手なので」と前置きすると、メモを見ながら伝えたいことを語り出した。

「本日は、あらためて来てくれてありがとう。3年と11ヶ月、那月邪夢がアイドルとして活動してきて、最後に立つステージがこんなに大勢の人に囲まれて、こんなに愛されて、アイドル始めたころの邪夢は想像もついてなくて、こんなに素敵な景色を見せてくれてありがとうございます! ふふふ。MAD MEDiCiNEのみんな、MADMEDのみんな、ららちゃん、この日のために出ることを決めてくれてありがとう。たくさんの時間を過ごした仲間の子たちと最後を迎えられて本当に幸せです。

邪夢はね、人と関わるのがすごく苦手で、すっごいめんどくさい性格をしてるんですけど、そんな邪夢と一緒に仲間として活動してくれたことが、邪夢にとって本当にすごく大事な時間になったなって思ってます。最後それぞれ違う場所、違う日に会ったけど、こうして最後に同じ日に、同じステージでライブをすることができてすごく嬉しい、幸せだなって思います。本当に今日この日のためだけに集まってくれて、すごく盛り上がってくれて本当にありがとうね。声が聞こえてきました。

そして、この活動を支えてくださった運営さん、スタッフさん、関係者の皆さんも本当にありがとうございました。そしてここにいるみんな、ライブハウスに来てくれた人、遠くから応援しに来てくれた人も、今日初めて来た人も、みんなが邪夢の居場所です。ライブで名前を呼んでくれたこと、かけてくれた言葉、全部、邪夢にとって宝物になってます。あと、家族にも。専門学校行ってたんですけど、“アイドルやる”って言って、4ヶ月でやめて。家も勝手に出て。でも気づいたらアイドルもやめるって……すごく心配も迷惑もかけました。それでも、ここまで応援してくれた、見守ってくれて本当にありがとう……(涙)。……邪夢はこんなに愛されてるんだって……最後にママに見せれてよかったです。……ママはどこにいるかな?? 産んでくれてありがとう。邪夢はこんなにも愛されるアイドルになったよ。ああ、泣かないって決めてたのに!!(号泣)。

……もし、この先みんながつらい夜とか、どうしようもないくらい苦しい日とかあったときに、那月邪夢というアイドルを思い出してくれたら、すごく嬉しいです。で、そのときに、もうちょっと頑張ってみようかなとか、もうちょっと生きてみようかなって思ってくれたら、邪夢はアイドルをしていてよかったなって思うので、邪夢と過ごした思い出、邪夢のステージをずっと忘れないでいてください。邪夢も同じ空の下でみんなと同じように息をして生きているので、みんなも“邪夢ちゃんと一緒に生きてるぞ”という気持ちで生きていってくれたら嬉しいなって思います。4年間、本当にありがとうございました。こんな傷だらけで、弱くて脆くて、めんどくさくて、こんな那月邪夢をステージの上で輝かせてくれて本当にありがとうございます。邪夢は今日、世界でいちばん幸せなアイドルでした!!」

彼女の素直で飾り気のない本心からの感謝の言葉。アイドル界の魔王、もとい世界でいちばん幸せなアイドル・那月邪夢をあたたかく大きな拍手が包み込んだ。するとMADMEDのメンバーが1人では抱えきれないほどの紅い薔薇の花束を、MAD MEDiCiNEとららがケーキを運んでステージに登場。「HAPPY BIRHTDAY」の合唱が会場に響き渡った。

「那月邪夢は世界でいちばん幸せなアイドルでしたー!」という言葉から「アイドル」に傾れ込む。「歌ってみた」動画で邪夢の存在が大きく注目されたきっかけの曲である。華やかさと難度の高さが共存する同曲を堂々と披露すると、MADMED終幕公演のためにリアレンジ、制作された「眠罪-DAS ENDE-」へ。MAD MEDiCiNEから大事にしてきた楽曲のオルタナティブバラードアレンジを、1人でしめやかに、かつ情熱的に歌いきった。

壮大なバラードでオーディエンスの情緒を激しく揺さぶると、その余韻も束の間、最後の最後に贈られたのは再び「RED RUM」だ。最初とは比べられぬほど強力で妖しく鬱しく美しい歌とパフォーマンスで圧倒した。

「それでは以上、那月邪夢でした、4年間ありがとうございました」

邪夢はすべてを出しきった晴れやかな表情でそう口にすると、ステージ中央の階段をゆっくりと登る。てっぺんに辿り着いた彼女は振り返ることなく、客席に背を向けたまま迷うことなく飛び降りた。

我々に紅魔の余韻を残したまま──。

取材・文◎冬将軍
カメラマン◎ミヤタショウタ

セットリスト
▼那月邪夢ソロ
RED RUM

▼MAD MEDiCiNE
MAD SiCK SHOW
アリス心中
愛憎レイテンシー
レゾンデートル
MAD MEDiCiNE

▼RaRaJaM
エターナルフォースナイトメア
ストロベリヰフラッペ
ミッドナイト・ホリック
DARKNESS KISSSS!!

▼MADMED
毒葬
アシストール
死にたいと言えたら
まじかるはっぴえんど
アンへドニア

▼那月邪夢ソロ
RED NIGHTMARE
歌ってみたメドレー
〜デーモンロード(Kanaria)
〜ヴァンパイア(DECO*27)
〜クイーンオブハート(Royal Scandal)
〜シャイニングスター(魔王魂)
〜悪魔の子(ヒグチアイ)
ヴァンパイア(Janne Da Arc)
愛してない(Acid Black Cherry)

▼那月邪夢ソロ アンコール
アイドル(YOASOBI)
眠罪-DAS ENDE-
RED RUM