一家3人が犠牲に「雲仙土砂災害から5年」教訓を胸に地域の観光と未来の命を守る《長崎》
3人が犠牲となった雲仙市の土砂災害から、8月13日で5年。
失った仲間の思いを胸に、前に進み続ける雲仙市の温泉宿を取材しました。
【NIB news every. 2026年8月11日放送より】
今から5年前。
雲仙市で起こった土砂災害の現場。
(長橋 慶治さん)
「森さんの家があったのがこの辺。ここに家があった。上に砂防ダム。あれから山が崩れてこっちに流れてきた」
雲仙温泉「青雲荘」の総支配人、長橋 慶治さん(65)。
この場所で、大切な上司とその家族を亡くしました。
(長橋 慶治さん)
「どうしているのかなと思い出すところでもある。3人の顔が浮かんでくる」
2021年8月13日の午前4時ごろ。
雲仙市では、大規模な土砂崩れが発生。
小地獄の斜面を崩落させ青雲荘近くにあった民家2棟が押し流され全壊。
観光業に尽くした家族3人の命が奪われました。
そのうちの1人が青雲荘の前総支配人だった、森 保啓さんです。
(青雲荘 長橋 慶治 総支配人)
「私にとっては本当の上司で、いろいろなことを教わったし、自分について来いとは言わないが、自分を見て仕事を覚えてくれという人だった」
長橋さんは26歳の時に、森さんの誘いで青雲荘へ転職。
そこから30年間、ともに働き、家族ぐるみの付き合いもありました。
(長橋 慶治 総支配人)
「2人で二人三脚で頑張っていこうと、雲仙のために頑張ろうというのは、いつも言っていた」
突然の災害に見舞われたのは、そんな矢先のことでした。
「青雲荘」にも土砂が押し寄せ、建物など甚大な被害が…。
(長橋 慶治 総支配人)
「(土砂は)この高さまできたんじゃないか。この入口から(中にも入って来た」
1階の一部が土砂で埋まったほか、断水や停電が続き、営業ができない状態に。
土砂の撤去作業だけで、2か月。
そして営業再開までには年を越え、かかった月日は7か月。
利用客は、半数以下に落ち込みました。
(長橋 慶治 総支配人)
「不安な中で過ごしてきたが、従業員も土砂の撤去など一生懸命やってくれたので、もう一回頑張ろうという気持ちになった。7か月だった」
大規模な改装を行い、去年からは恐竜をテーマにしたイベントを開くなど、青雲荘はようやく災害以前のにぎわいを取り戻しました。
(長橋 慶治 総支配人)
「オープンした時にお客様に『待っていたよ』と言われた。それが本当に嬉しかった。森さんの思いを引き継いで、これからもやっていかないといけないという気持ちになった」
5年前のこの災害は、雲仙市の防災意識を高めるきっかけになりました。
雲仙市防災士ネットワーク小浜地区の会長を務める、寺田 久和さん(69)。
(雲仙市防災士ネットワーク小浜地区 寺田 久和 会長)
「(活動の)原点にあるのは、5年前の雲仙での崩落。青雲荘の支配人は、私も仕事でよくお話をしたが、そういう人が自然災害で命をすぐに落としてしまう」
去年7月に設立された「雲仙市防災士ネットワーク」は、雲仙市の7つの町で構成されていて、現在56人の防災士が登録しています。
小浜地区では今年3月に発足し、防災訓練や講話などを実施。
この日は、富津地区の自治会長ら6人と、地域の危険個所を確認します。
(寺田 久和 会長)
「民家が重なっているという状態を把握した上で、避難誘導してもらえれば」
富津地区は、約200世帯が住んでいて高齢化が進んでいます。
いかにスムーズに避難誘導できるかが、課題です。
(冨津自治会 田中 敏孝 代表)
「ここで水を拾うが、この(溝の)広さではとてもじゃないけど、大雨の時は(あふれる)。横に石を置いているのは、水を横に流そう(としている)」
(寺田 久和 会長)
「(大雨の時は)それだけ水量が増えてくるということですね」
側溝の幅が狭いうえ、90度に曲がる構造のため、大雨の際に水があふれる原因に…。
周辺では、土砂崩れが相次いでいました。
(寺田 久和 会長)
「崖崩れだったら、そこの近くの道路は使えないかもしれない」
(冨津自治会 田中 敏孝 代表)
「それぞれの地区の危険個所を避けて避難所へ行く」
(寺田 久和 会長)
「それはいいことだと思う。大雨や地震はいつ起きるかわからない。そういう時には崩れたところを避けて通らないといけない」
地域の人たちと、危険箇所の詳細を目で見て情報共有することも、防災につながるといいます。
(雲仙市防災士ネットワーク小浜地区 寺田 久和 会長)
「身近にいる人が亡くなるというのが災害の悲惨なところ。今後も災害で亡くなる人を1人でも減らせるように、防災力の向上につなげたい」
この日 長橋さんが訪れたのは、森さんのお墓。
仕事で行き詰った時に足を運び、墓前で手を合わせるそうです。
(青雲荘 長橋 慶治 総支配人)
「ここに来るとヒントをもらえるような感じがして、落ち着く。
森さんの笑顔や奥様、娘さんの顔も浮かんでくる。
森さんの思い、お客様に喜んでもらいたいという気持ちで、これからもやっていきたい」
3人の命を奪った土砂災害から、5年。
森さんの思いは長橋さんの中で生き続け、地域の人々が学んだ「災害の教訓」は未来の命を守ります。
7月28日に発生した熊本地震では、雲仙市も震度5弱を観測。
青雲荘では8月11日までに、282件のキャンセルがあったということです。
青雲荘は「施設は耐震構造で地震による被害はなく、状況が落ち着いてまた少しずつ、客足が戻ってほしい」と前を向いています。
