【アニメ大先生】『対ありでした。』誰かがいるから、本気になれる
連載第32回は、八木美佐子アナ(出演27回目)が、格闘ゲームに夢中になるお嬢様たちを描いた『対ありでした。〜お嬢様は格闘ゲームなんてしない〜』をピックアップ。カプセルトイ売り場で見かけた、子どもの「おねだり」をきっかけに、大人になると忘れがちな「なりふり構わず夢中になること」に思いを巡らせる。格闘ゲームを通して、本気でぶつかり合い、互いを高め合う少女たち。その姿を、自身のゲーム体験や学生時代の弓道部での経験と重ねながら、誰かと競うことが「比較」ではなく、自分を前へ進ませる力になることの意味をつづる。
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子どもの頃の「おねだり」を覚えていますか。最近、私の中でカプセルトイブームが来ています。街中で売り場を見つけると、「何か欲しいものはないかな」と、とりあえず店内をぐるりと一周するのが日常の小さな楽しみです。
先日もズラリと並ぶマシンを物色していたときのこと。近くにいた小学生くらいの男の子が、お母さんに向かって決死の交渉を繰り広げていました。
「お願い! あと一回だけ! 一生お年玉いらないから!」
数百円のカプセルトイを手に入れるために、「一生分のお年玉」というあまりにも巨大な賭けに出る。まるでギャンブル漫画さながらの、無謀すぎる交渉です。
大人になった私は、あの熱量で何かを欲したり、夢中になったりすることがどれくらいあるでしょうか。そんな、なりふり構わぬ情熱の眩しさを感じた出来事でした。
アニメ『対ありでした。〜お嬢様は格闘ゲームなんてしない〜』も、その熱さが眩しい作品です。
名門「黒美女子学院」を舞台に、格闘ゲームを愛する少女たちを描いた青春アニメ。清楚なお嬢様たちが、人目を忍んでアーケードコントローラー(通称・アケコン)を叩き、格ゲーに全力を注ぎます。
本作の魅力のひとつが、お嬢様という仮面が脱ぎ捨てられる瞬間のギャップです。普段は気品あふれる立ち居振る舞いを見せるお嬢様たちが、ひとたびゲーム画面に向かえば目つきを一変させ、口から飛び出すのは煽り文句の数々。
ゲームまわりの描写にも、細かなこだわりを感じます。作中ではカプコン全面協力のもと、『ストリートファイター6』の実際のゲーム映像が使用されています。インパクトの差し込み、ドライブゲージの管理、画面端の恐怖。「ベガ立ち」のような格ゲー好きにはおなじみのネタや用語まで登場し、知っているほどニヤリとしてしまいます。
格闘ゲームを通して人と人との距離が縮まっていく作品といえば、『ハイスコアガール』を思い出す人もいるかもしれません。90年代のゲームセンターから、令和の『スト6』へ。時代が変わっても「対戦を通して相手を知る」という面白さは変わりません。ルールを知らなくても、人と人が本気で向き合う青春ドラマとして一気に引き込まれます。
『対ありでした。』の少女たちは、夜な夜な格ゲーにのめり込んでいきます。同じ熱量で向き合える相手との対戦が楽しくて、ついつい「もう一戦」。その気持ちは、ゲーム好きとしてよく分かります。
私自身も『ストリートファイター6』が好きで、複雑なコマンド入力をしなくても必殺技を出せる「モダン」で楽しんでいます。ただ、愛用しているザンギエフは、いまだ目標のマスターランクまで上げられていません。余談ですが、どうしてもランクマッチで勝ちたくて、プレイヤー名を「JK」にしたことがあります。「おや? 女子高生が相手か……ほな負けたろうか……」という慈悲が生まれることを期待したのですが、普通にボコボコにされました。姑息ですみません。コンボの練習をします。
特に印象的なのが、アケコンの音です。ボタンを激しく叩き、レバーを動かす音が響き、言葉を交わしていない時間にも、その操作音から彼女たちの感情が伝わってきます。
人は、本気になると素が出るもの。普段は「白百合さま」と呼ばれ、校内の憧れの存在である美緒も、格ゲーを始めれば一変します。学校生活では隠していた負けず嫌いな性格や勝利への執念が、対戦中はむき出しになっていくのです。取り繕うことさえ忘れてしまうくらい夢中になれるものがある。それは、とても幸せなことではないでしょうか。(今後、ゲーム中の口の悪さを指摘されたときは、この理論で乗り切ろうと思います。)
そんな「本気」をさらに引き出してくれるのが、対戦相手の存在です。私は学生時代、弓道部でした。もちろん大会では順位を競いますが、弓を引く瞬間は自分自身との戦いです。だから大人になった今、目の前の相手と直接ぶつかり合い、「あの人に勝ちたい」と互いに高め合える関係を、少し羨ましく思うことがあります。
そう考えると、社会人になってから「誰かに負けたくない」と口にすることも少なくなりました。「他人と比べなくていい」「昨日の自分と比べよう」。そんな言葉を聞く機会も増えました。もちろん、それも大切です。けれど、『対ありでした。』を見ていると、誰かをライバルだと思うことは、決して悪いことばかりではないのだと感じます。
一人では引き出せない力を、誰かが引き出してくれる。悔しいから、もう少しだけ頑張る。誰かと競うことが、自分を苦しめる「比較」ではなく、自分を前へ進ませる力になることもあるのだと、改めて気づかされました。
『対ありでした。〜お嬢様は格闘ゲームなんてしない〜』は、格闘ゲームを通して「本気の自分」と出会い、同じ熱量を持った誰かと向き合う青春を描いた作品です。
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