(※写真はイメージです/PIXTA)

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内閣府の「令和7年版高齢社会白書」によると、高齢者が今後の生活において経済的な面で不安に思うこととして、「物価が上昇すること」を挙げる人が74.5%と圧倒的に多く、最多となっています。さらに、「自分や家族の医療・介護の費用がかかりすぎること」(36.6%)や「自力で生活できなくなり、転居や有料老人ホームへの入居費用がかかること」(43.1%)といった将来への不安が上位に並びます。将来に備えて日々節約に励む親世代にとって、数万円の負担は決して軽いものではありません。しかし、子世代はその経済的な痛みに気づかないことが多々あります。事例をみていきましょう。

毎年の夏休み、大賑わいの我が家と膨らむ「滞在費」

地方の持ち家で暮らすヨシコさん(仮名/70歳)は、数年前に夫を亡くし、現在は一人暮らしをしています。公的年金と亡き夫の遺族年金を合わせた収入は月約16万円。普段の生活費や固定資産税、将来の医療・介護費用への備えを考えると、計画的な家計管理が欠かせません。

そんなヨシコさんにとって、夏休みや大型連休に近県から帰省してくる長女ファミリー(長女・長女の夫・小学生の孫2人)の訪問は、例年、賑やかで楽しみなイベントの一つでした。

しかし、ここ数年の記録的な物価高と猛暑により、その受け入れコストは増大していました。

育ち盛りの孫たちの食費、普段は滅多に使わない複数部屋のエアコン代、プールやレジャー施設への連れ出し、家族で囲む外食費。長女夫婦も手土産や孫用のお菓子などを持参はするものの、滞在中の実費としてヨシコさんが財布から出す金額は、1週間程度の滞在で合計約8万円にのぼっていました。

毎年溜まるモヤモヤの原因

物価高に伴い、ヨシコさんはここ数年、長女家族に違和感を覚えるようになっていました。長女らにとって実家への帰省は「ホテル代がかからず、食事も用意してもらえて節約になるレジャー」とでも認識されているように感じるのです。というのも、長女本人からも、長女の夫からも、孫たちからも、「ありがとう」が全然ないことがちりつもってモヤモヤとしていました。ヨシコさんは笑顔で孫を迎え入れ、回転寿司や買い物に連れていきましたが、「ばぁば、孫と過ごせてよかったね〜」などと長女がいってくることも引っかかっています。

ヨシコさんも家計は年々苦しくなっており、月16万円の年金から、1回の帰省で8万円もの出費が発生すれば、その月の収支は赤字になります。不足分は夫が残してくれた生命保険金や貯蓄を取り崩して補填するしかありません。

「物価も電気代もこれだけ上がり、自分の将来の介護費用も自分で準備しなければならない。いくら孫が可愛くても、この負担を毎回続けるのは厳しい……」

そう思い詰めたヨシコさんは、次回の帰省の相談を受けた際、意を決して長女へ柔らかく打診してみることにしました。

「最近は物価も高くなっちゃって、年金だけだと少し厳しくてね。お母さんも70歳になったし、結構こたえるのよ。もしよかったら、次回の滞在からは食費として3万円くらい入れてもらえると助かるんだけど……」

あからさまになった長女の態度

ところが、この打診に対する長女の反応は、ヨシコさんの予想を大きく裏切るものでした。電話越しに一瞬の沈黙があったあと、長女はあからさまに不機嫌な声でこう言い放ったのです。

「えっ、お金? 『孫は来てよし帰ってよし』って言うじゃない。お母さんが孫に会いたいから行ってるんじゃないの? 実家に帰るのにお金請求されるなんて聞いたことないんだけど」

そのまま一方的に電話を切られ、それ以来、長女夫婦からの連絡はパタリと途絶えてしまいました。SNSの家族グループでの発言もなくなり、いままで定期的に届いていた孫の写真や動画も送られてこなくなったのです。

ヨシコさんは当初、「請求の仕方が悪かったのだろうか」「娘に意地悪な親だと思われてしまったのではないか」と深く悩みました。しかし、いまとなっては「『孫は来てよし帰ってよし』っておまえがいうなと思いました。どの口が、ですね。育て方を間違えたのかもしれません」と怒りの感情へと変わっています。

親子間における「経済的境界線」

子世代から見れば「実家は甘えられる場所」という思い込みがあり、親世代側も「子や孫のためなら」と無理をしてしまいがちな帰省時の金銭問題。しかし、現代においてこの溝を放置することは、高齢親の老後破綻を招く大きなリスクとなります。

高齢親の年金収入は、あくまで親自身がこれからの人生を自立して生き抜くための生活基盤です。物価高や年金給付額の現状を考慮すれば、子世代ファミリーの滞在費を親が全面的に負担する余裕がないケースが増えている現実を、子世代側も理解する必要があります。

孫に会う喜び(精神的満足)と、現実の金銭的負担は別物です。「喜びを感じているからお金も負担すべきだ」という論理は、親に対する無意識の搾取になりかねません。帰省費用や滞在中の食費は、子世代自身が自分たちのレジャー費の一部として負担するのが本来の筋といえます。

実家帰省の際、食費やレジャー費の分担についてあらかじめルールを決めておくことは、決して冷たいことではありません。「食費として〇万円を入れる」「外食費は子世代が持つ」「滞在期間を短くする」といった明確な線引きを行うことが、互いに不満を溜め込まずに長く良好な関係を保つ鍵となります。

子どもや孫との絆は大切ですが、親が自身の老後を犠牲にしてまで過剰なもてなしを続ける必要はありません。お互いが自立した大人として尊重し合い、負担を分かち合う姿勢が求められています。