一度にすべてを片づけるのは難しいが「今日は引き出し1段」「明日は棚ひとつ」など小さく進めるのがコツだ

写真拡大

 前編記事《「はだかでベランダ」「部屋の中でもダウン」…1万件の相談を受けたプロが明かす、“片づけられない女性”の驚くべき日常》では、経済的に豊かでありながら「片づけの仕組み」を持たない女性たちの実態を、お片づけ習慣化コンサルタントの西崎彩智さん(※「崎」は正しくは「たつさき」)に聞いた。後編では、家事を妻任せにする男性が抱える危うさと、自立した生活を送るために片づけを習慣化する方法について聞いた。

【写真を見る】子育て家庭あるある!転がるおもちゃ、食べかけのお皿→いつでも人を呼べるリビングに《部屋の全貌と劇的ビフォーアフター写真を見る》

「仕事では大勢を率いているのに、自宅の物一つ片づけられない男性は少なくない。奥さんを始めとして、家のことをやってくれる家族がいつまでもいると思わないでほしいんです」

一度にすべてを片づけるのは難しいが「今日は引き出し1段」「明日は棚ひとつ」など小さく進めるのがコツだ

 西崎さんのところに相談に訪れるのはもちろん女性だけではない。このような「片づけられない男性」からの相談も多いのだ。今の時代、パートナーが急に病に倒れたり、地元の親の介護のために実家へ戻ったりするなど、予期せぬ別居は決して珍しくない。

 50代で離婚した医師のケース。身なりにはとても気を使う男性で、港区の一等地にあるマンションで一人暮らしをしていた。ところが、あるとき持病の発作を起こした。友人が駆けつけたところ、室内はゴミ屋敷のような状態。洗濯していない服や、買ったままの新しい服の包みに囲まれて、意識を朦朧とさせていたという。

 妻に家事をまかせきりにしたまま離婚し、一人娘も元妻と暮らしており、このような生活になっていたのだ。

「こういった場合、このまま歳を重ねてしまうと、いざというときに今度は子どもに依存せざるを得なくなる。それは子どもにとって大きな迷惑になってしまいます」(西崎さん、以下同)

片づけは「決断を先送りしない」訓練

 西崎さんによれば、片づけは「時間の管理」「人とのコミュニケーション」「お金の使い方」といった総合的な自己管理能力を鍛えるものだという。

「いわば片づけは学びの場。決断や行動を後回しにせず、今できることをその場で終わらせておく。それが“時間の貯金”になって、急に舞い込んだ仕事のチャンスや運を、瞬時に掴み取れるようになるんです」

 例えば、洗面台の鏡に歯磨き粉や水滴が飛び散っているのに気づいても、「汚いな」と思いながら見て見ぬふりをしてしまうことがあるだろう。

「『週末にまとめてきれいにしよう』なんて理由を作って後回しにしたりするのですが、実際は手前に物がいっぱい並んでいて、すぐに拭くというアクションが億劫になっているケースが多いんです」

 汚れに気づいたとき、すぐに拭けるように、洗面台には余計な物を置かない。片づけとは、こうして自分の負担を減らす「仕組み」を作ることでもある。

片づけで気持ちを切り替える

 西崎さんは、短時間の片づけには、目の前の行為に意識を集中させ、気持ちを切り替える働きもあると考えている。

「不安やモヤモヤを抱えると、考えがどんどん悪い方向に進むことがありますよね。そんなときは、5分だけでも片づけに集中してみてください。目の前の物を一つずつ分けているうちに、ネガティブな思考のループがいったん途切れる。瞑想のように、意識を“今”に戻すきっかけになるんです」

 西崎さんが特に勧めるのが、朝の短い片づけ習慣だ。

「夜は仕事や家事で疲れ、予定も崩れやすい。ですから私は、片づけを習慣にするなら朝を勧めています。ただ、最初から『毎朝10分』と決めてしまうと、それさえ負担に感じる人もいます。もっと気軽に、コーヒーのお湯が沸くまで、トーストが焼けるまで、洗濯機が回り終わるまで――。そんな“終わりの合図”がある隙間時間から始めてみましょう」

 西崎さんは、1日の「わずか1%」を片づけに充ててほしいと呼びかける。

「1日の1%は14.4分ですが、その全部を一度に使う必要はありません。まずは1分でも5分でも、自分の未来のために使ってほしい。今日は洗面台を拭く、明日は引き出しを一段だけ整理する。小さく区切って『できた』という感覚を積み重ねることが大切です」

苦手な家事はプロに任せていい

 一方で西崎さんは、何もかも自分でやる必要はないとも。

「換気扇やトイレなどの水回り……自分が苦手で嫌だなと思う家事は、無理に自力で頑張るより、プロの業者を頼った方がはるかにきれいで早い。自分でやって壊したり、イライラしたりするくらいなら、手放すべきです」

 浮いた時間を、自分が得意とする付加価値の高い仕事に充てたほうが、生産性は圧倒的に上がる。

「それは結局、社会にお金を回すことにもなるんですよ」

 プロに頼むタイミングにもコツがあるという。

「業者が混み合う年末年始を避けて、10月頃や、引っ越しシーズンが始まる前の2月頃に先回りして予約すれば、比較的予約が取りやすく、料金も抑えられることがあります。ゲーム感覚で、時間とコストを自分でコントロールするのも楽しいものです」

 西崎さんが繰り返し指摘するのは、片づけられない人の多くに共通する「決断の遅さ」だ。

「片づけられない人ほど何事も決断がギリギリになる。遅刻癖があったり、仕事にもいつも追われていたり――ギリギリで動く人は、実はいろんな意味で損をしているんです」

 早めに決め、早めに動く。その積み重ねこそが、片づけにも仕事にも通じる自己管理の本質だという。片づけは、ただ部屋をきれいにするためのものではない。配偶者や子どもに依存せずに、自分の生活を自分で引き受けるための備えでもあるのだ。

「何も置かれていない空間は心地いい……という“余白の贅沢”を知れば、片づけを続けるための工夫も、自分で考えられるようになるのです」

※事例は本人が特定されないよう、複数のケースをもとに再構成し、職業や家族構成などを変更しています。

※掲載写真は西崎さんが過去に手がけた実際の片づけ事例です。本文で紹介したエピソードの当事者とは異なります。掲載は提供者の了承を得ています

西崎彩智(にしざき・さち)
1967年生まれ。お片づけ習慣化コンサルタント、Homeport 代表取締役。大卒後、大手住宅会社のインテリアコーディネーターとして活躍。結婚を機に退職し、専業主婦となり2児の母となる。約20年の結婚生活もパートナーのリストラを機に夫婦関係の亀裂が露呈し破局。それを機に再就職。仕事と家事と育児の両立を図る中、得意の片づけを生かして起業。構築した片づけ習慣化講座「家庭力アッププロジェクト(R)」修了生は全国で4000名を上回る。企業や組合のビジネス片づけ講座も手掛ける。テレビ、ラジオ出演ほか、メディア掲載、著書多数。最新刊は『時間とお金にゆとりが生まれる 貯まる片づけ』(プレジデント社)。

取材・文/木原みぎわ

デイリー新潮編集部