「154キロでも怖さを感じない」スカウトが指摘 「ドラ1候補」横浜・織田翔希、圧巻の12奪三振でも見えた“課題”
8月10日に行われた夏の甲子園大会第6日。バックネット裏には、横浜―沖縄尚学の試合開始前からプロ、メジャーのスカウトがずらりと並んでいた。最大の目当てはもちろん、今大会最注目の選手、横浜のエース・織田翔希(3年)である。【西尾典文/野球ライター】
変化球が良くなった
織田は1年秋から主戦となり、昨年春の選抜優勝に大きく貢献。この夏の神奈川大会では横浜スタジアムのスピードガンで最速157キロをマークした。今秋のドラフトでは1位候補に挙がる右腕で、登板試合にメジャーのスカウトが視察に訪れるのが当たり前になっているほど、注目度は群を抜いている。

初戦の相手は昨夏の王者・沖縄尚学。大会屈指の好カードとあって、スタンドは超満員となった。
その大観衆の前で、織田はいきなり150キロ台を連発した。
2回と6回にタイムリーを浴びたものの、8回2/3を投げて12奪三振、2失点。横浜を初戦突破へ導いた。ストレートは立ち上がりからコンスタントに150キロを超え、最速154キロ。夏の甲子園歴代最速にあと1キロまで迫った。
これだけの数字を叩き出しながら、甲子園のネット裏で聞いた評価の中心はストレートではなかった。
プロが高く評価していたのは、速球ではなく変化球だった。
「ストレートに関してはこれくらい投げられるのは、分かっているのでいつも通りですね。それよりも変化球が良くなりました。下級生の頃は空振りが奪える速い変化球がありませんでしたが、今はスライダーとスプリットがちゃんと決め球になっています。抜けるボールも少ない。高校生ではなかなか打てない変化球だと思いますね」(セ・リーグ球団スカウト)
この日奪った12個の三振のうち、実に9個は変化球が決め球だった。
織田は試合後、「(ストレートの)球速よりも変化球で空振りをとれたことが嬉しいです。コースをしっかりと突いて、相手バッターを見ながら配球できたことが良かったです」と振り返った。球速ではなく変化球で空振りを奪えたことに、本人も手応えを感じていた。球速より変化球に手応えを感じていたという趣旨は試合後の報道でも確認できる。
リカバリーの早さも強み
プロがもう一つ高く買っているのが、体の丈夫さだ。前出のスカウトはこう続ける。
「1年生の時から投げ続けていますが、体のどこかが悪そうな様子を見たことがありません。最近の高校生にしては多くのイニング、球数も投げます。細く見えますが体の強さがあるのだと思いますね」
対戦した沖縄尚学は昨年、末吉良丞(3年)と新垣有絃(3年)の左右の二枚看板が優勝の原動力となった。末吉は春に左肘を故障。新垣はこの夏、調子を落としている。昨年の甲子園で見た姿と比べても、二人とも状態が落ちているように見えた。
高校生投手に故障やコンディションの波は避けて通れない。そんな中、1年秋から主戦として投げ続けながら、大きな故障なくここまで来ている織田の丈夫さは際立つ。
横浜の村田浩明監督に、その点について話を聞いた。
「体のどこかが悪くなったというのは一度もありません。リカバリー(回復)も早いです。試合では結構球数は投げるんですけど、普段の練習はトレーニング中心で球数の管理もしっかりしていますし、休ませるときは休ませます。トレーナーさんにもしっかりサポートしてもらって、織田が試合で思い切ってできる環境は整えています」
沖縄尚学戦では8回2/3を投げ、最後の1球となった139球目のストレートが151キロを計測した。
終盤まで150キロ台を維持できる投手は、高校生ではそうはいない。球速だけでなく、それを最後まで落とさずに投げ切れる体力は、織田の大きな強みだろう。
合わせやすい投球フォーム
だが、現地で見ていると気になる点があった。一つはストレートだ。
150キロを超える球を次々と投げながら、意外なほど打者にとらえられる。この日最速となった154キロのストレートは、慶留間大武(3年)にレフト前へ弾き返された。
数字だけを見れば高校生離れしている。それなのに、打者が極端に差し込まれているようには見えない。
パ・リーグ球団スカウトは、フォームに原因があるのではないかと指摘した。
「色々考えてフォームも変えているようですが、左足を上げてステップするリズムが一定に見えます。バッターから見ると“いち、にの、さん”で合わせやすい。せっかくあれだけのスピードがあってもそこまで怖さを感じません。選抜でもそれが気になりましたが、その点は夏も変わっていなかったですね」
154キロを投げても「そこまで怖さを感じない」。
厳しい言葉だが、ドラフト1位候補として見られている織田だからこその注文でもある。
そして筆者には、もう一つ気になったプレーがあった。投球以外の動きだ。
6回、レフト前にタイムリーを浴びた直後だった。織田はしばらく打球の行方を見たままマウンド付近から動かず、捕手の後ろへのバックアップに走らなかった。
7回にライト線へスリーベースを打たれた時も同じだった。今度は三塁手の後方へ回るべき場面だったが、そこへ走る姿はなかった。
一度ならまだしも、二度続いた。
フォームの課題を指摘していたスカウトは、このプレーを見逃していなかった。
「一度ならず二度あったのは良くないですね。昔の横浜高校なら相当叱られたはずです。これは織田に限ったことではないですが、投げることに気をとられてそれ以外のプレーが疎かになることが多い。こういう部分は大事なところで命取りになるので気をつけてもらいたいですね」
スカウトからは細かな注文が
試合後、織田本人にも直接聞いた。バックアップに走らなかったのは、疲れのせいだったのか。答えは違った。
「意識の問題です」
村田監督は「そこはまだ彼の“伸びしろ”の部分ですね」と認めている。
8回2/3、12奪三振、2失点。最速154キロ。139球目でも151キロ。
数字だけを並べれば、高校生として文句のつけようがない投球だ。それでもネット裏のスカウトからは変化球、フォーム、さらにはバックアップまで細かな注文が飛んだ。
それだけ高く評価されているからこそ、求められるレベルは高い。これだけの能力があるからこそ、「もっとできる」と見られている。スカウトやファンは、普通の高校生を見る基準では織田を見ていない。
154キロを投げて満足されない高校生は、そう多くない。そんな高い要求を一つずつクリアした時、織田翔希は本当の意味で「世代ナンバーワン」と呼ばれる投手になるのではないだろうか。
西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。
デイリー新潮編集部
