「200億円でも、金を出せば買えるわけではない」東京タワーを見下ろす“超高級マンション”に住む人々の正体

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東京タワーを眼下に望み、ペントハウスは200億円で取引されたともいわれる「アマンレジデンス東京」。しかし、数十億円の資産を持つ経営者でさえ「自分のレベルでは全然無理」と語るように、こうした超高級マンションは、もはや金さえあれば買えるものではないという。一般には売り出されず、限られた顧客だけに人知れず販売される数億、数十億円の物件が、東京をはじめ全国で増えている。いったい誰が、どのようにして購入しているのか。外山尚之著『なぜ働いても家を買えないのか』の一部を抜粋、編集してお届けする。 

【画像】生活の基盤どころか、格差を生み出す装置となって久しいタワマン

全91戸「東京に浮かぶサンクチュアリ」唯一無二の物件

現代の東京を象徴する富裕層向けのマンションといえば、2023年に竣工した「アマンレジデンス東京」だろう。

高級ホテル「アマン」の名を冠した同レジデンスが立地するのは港区麻布台、「港区の大家」の異名を持つ森ビルが30年以上の時間をかけて開発した、麻布台ヒルズの中心にそびえ立つ高さ330メートルの「麻布台ヒルズ森JPタワー」の最上層、54階から64階に位置する。

住居から東京タワーを見下ろすことができる、唯一無二の物件といえよう。「東京に浮かぶサンクチュアリ」を謳う全91戸の各部屋は専用エレベーターで結ばれており、一般市民は近づくことすらできない。

東京タワーを見下ろす200億円の超豪邸 

通常のマンションとは異なり、アマンレジデンスのような超高級物件の価格や間取りが公開されることはない。

森ビルも販売条件を明かさないが、英不動産大手サヴィルズは25年に公開したリポートで「ペントハウスが200 億円で取引されたとされており、坪単価に換算すると3000万~4000万円超に達する水準である」と指摘している。

所有者には日本を代表するメガベンチャーの創業者や新進気鋭のスタートアップの経営者、芸能界の大物、歴史ある老舗企業の創業家、ベンチャーキャピタリストといった錚々たる名前がずらりと並び、資本主義社会における「勝者」の社交場のような様相を呈している。

販売価格が桁違いであるだけに、ファイナンスも異次元の水準だ。登記簿から抵当権を調べたところ、プライベートバンキングの本場であるスイスの外資系金融機関から100億円を超える融資を受けるケースもあれば、メガバンクや地銀から50億円、60億円と借り入れるという人もいた。

通常、住宅ローンの上限は2~3億円程度に設定されることが多いが、これはあくまで一般顧客向けのもの。富裕層向けは「別枠」なのだろう。

「金を出せば買える代物ではない」日本でも超富裕層向けが拡大

上場企業を経営する知り合いの起業家曰く、「そもそも金を出せば買えるという代物ではなく、購入するためには資産規模だけでなく人脈や社会的地位なども必要で、スタートラインに立つ時点でかなり絞られているのではないか」ということだった。

ちなみにこの起業家は数十億円の資産を保有するが、「自分のレベルでは全然無理だ」と笑う。

東京のマンションが金融商品としての性格を持つようになってきたことはこれまでもたびたび紹介してきたが、森ビルが手掛ける物件のような供給数が限られている超高級レジデンスは希少性が高い究極の投資商品といえるだろう。

その希少性から、一流のアーティストによる芸術作品に例えられることもある。

ニューヨークやロンドン、シンガポールといった都市がそうであるように、東京でも、こうした超富裕層向けの不動産マーケットが急速な勢いで立ち上がっている。

サヴィルズは「日本には超富裕層が多数居住しており、その人数と総資産額は近年増加している。資産を補完するための安全な国として日本を認識する海外の富裕層の流入によって、これらの層は今後いっそう拡大する可能性がある」と指摘している。

特定の顧客のみに販売する「アンダー販売」

野村総合研究所が25年に公表したリポートによると、金融資産の合計額から負債を差し引いた「純金融資産保有額」が5億円を超える「超富裕層」は23年の時点で11万8000世帯と、10年前の2.2倍に増加。

この伸び率は、1億円以上5億円未満の「富裕層」の1.6倍や5000万円以上1億円未満の「準富裕層」の1.3倍を大きく上回る。

野村総研は「株価の急騰によりリスク性資産の資産価値が大きく増加したことや、円安の進行により外貨建て資産の実質的価値が増加した」と分析する。

富裕層が競うように購入する物件とは、どうやって販売されるのだろうか。多くの観光客で賑わう東京・原宿。表参道から1本入った閑静な通りを少し歩くと、ガラスと木調のパネルを組み合わせた特徴的な造形の建物が視界に飛び込んでくる。野村不動産が開発し、2024年に竣工した「プラウド神宮前」だ。

超一等地の立地に加え、日本を代表する建築家である隈研吾がデザインを監修したという力の入れようで、分譲マンション「プラウド」シリーズのフラッグシップ物件としての風格を備えるが、同物件は通常の物件のように登録や抽選といった一般的な販売手法は用いず、森ビルのアマンレジデンスのように特定の顧客のみに販売する、業界で「アンダー販売」や「インナー販売」、「クローズド販売」と呼ばれる販売手法をとった。

闇バイト」も超高級マンションブームを後押し 

野村不の松尾大作社長は「5億、10億という高額物件になると、抽選という従来の販売手法だとそぐわない場合もある。

企業としては『こんな物件を造りました』とPRしたい気もあるが、プライベートな住まいを公にしたくないというお客様の希望が多い」と事情を説明する。

こうした傾向は、東京に限った話ではない。24年に街びらきをしたJR大阪駅北側の大規模再開発「グラングリーン大阪」では、積水ハウスなどが開発したタワマンの最上階が1部屋40億円で販売されたことで話題になった。

一般への売り出し前に富裕層向けの説明会が開催され、多くの部屋が人々の目に触れることなく販売を終えている。

アジアの玄関口として再評価されている福岡でも25年、JR九州が開発する「MJR赤坂ゲートタワー」(福岡市)の上層階の325㎡の部屋がインナー販売により10億円で成約したことが明らかになっている。

富裕層がマンションを好むようになった背景には、格差の拡大や体感治安の悪化という社会の変化もある。

24年夏以降に首都圏を中心に発生した、「闇バイト」による連続強盗事件を受け、都心に店舗を構える不動産仲介事業者には防犯目的でのタワマンへの問い合わせが増えたという。

家族の安全を最優先にした場合、富を誇示するような豪邸よりも、匿名性が高いマンションの方がメリットは大きい。

「できれば毎年1棟は供給していきたい」

超富裕層向けの商品企画は、希少性を競い合う方向に移りつつある。富裕層向けの住宅を強みとする三菱地所は東京・半蔵門の駐日英国大使館に隣接した土地で超高級マンションを開発している。

1872年に明治政府と英国政府の間で結ばれた土地の賃借契約の整理に伴って売却された土地を入札で取得したという経緯があり、皇居を望む超一等地は「二度と市場に出てこない」と業界内でも評判だ。

同社の中島篤社長はこうした超高級マンションについて、「できれば毎年1棟は供給していきたい」と話す。

建築費の高騰も、こういった超高額物件の供給を後押しする。土地の取得価格を除けば、マンションの建築コストは都心でも郊外でも大きく変わらない。

1戸あたりの販売価格が数千万円の郊外の物件を大量に作れない状況下、企業としても都心部で数億、数十億円の超高額物件を作る必要がある。

家が高すぎて手に届かないと多くの人々が嘆く一方、都心では限られた富裕層のために開発され、人知れず販売される物件が増え続ける。

いびつではあるが、これは日本に限った話ではなく、世界規模で起きている現実だ。生活の基盤となるはずだった住宅が資産としての側面を強め、格差を生み出す装置となって久しい。都心の夜景を彩る高層マンションは、働いても家を買えない社会を映し出している。

文/外山尚之 写真/shutterstock

なぜ働いても家を買えないのか (日経プレミアシリーズ)

外山尚之

2026/7/10

1100 円(税込)

280ページ

ISBN: 978-4296126996

東京23区の新築マンション価格は10年で2倍。
資材価格の高騰がさらなる追い打ちをかける。
もはや、普通の社会人には家を買えないのか。
その深層に、取材記者が迫る!

「なぜ、私たちは働いても家を買えなくなってしまったのか――
この問いに対して、記者として見聞きした取材結果をまとめ、現在の日本で何が起こっているのかを共有できればという思いで筆を執った」
――本文より

【本書の主な内容】
-勃興する「タワマン転売ヤー」
-奔流するチャイナマネー
-「日本で一番警察官が来るマンション」
-集結する「タイガー・マザー」たち
-地方にも「ローカル億ション」の波
-タワマンを次々引っ越す「空中族」
-悪質な事業者の「稼ぎ場」に
-家賃が上がると、極右支持者が増える
-狭小住宅に住む事情
-高級老人ホーム戦国時代が到来
-五輪跡地が転売合戦の舞台に
-「地味駅」の変貌
-二度と市場に出てこない超一等地
-「荒川を越える」挑戦
-ジャイアンツ選手の成長を見守れる部屋
-住宅価格高騰が招く人手不足
-「母になるなら、流山市。」
-たそがれのニュータウン