LVMH決算から ラグジュアリー市場 を紐解く。高級バッグ低迷とジュエリー好調の裏側

記事のポイント
LVMHやケリングは成長に復帰したものの回復は小幅であり、ラグジュアリー市場全体が本格的に持ち直したとは言い切れない。
高騰した新品バッグより、価格に見合う価値を感じやすいジュエリーや中古品が支持され、グッチも価格調整によって顧客との距離を縮めている。
エルメスやプラダなどの好調企業は市場回復を待たず、希少性や商品構成、正価販売、スマートグラスといった独自の価値で需要を生み出している。
LVMHは上半期売上高として386億ユーロ、およそ445億ドル(約6兆6750億円)を計上し、オーガニックベースで2%増だった。第2四半期の成長率は3%へと加速し、ファッション・レザーグッズ部門は7四半期連続の減少を経て1%増とプラス圏に戻った
ケリング(Kering S.A.)は上半期売上高72億ユーロ、およそ83億ドル(約1兆2450億円)を計上し、報告ベースでは3%減だったが、第2四半期には既存ベースで2%増と成長に復帰した。グッチ(Gucci)の落ち込みは前四半期の8%減から2%減へと縮小した。
エルメスは独自のカテゴリーにとどまり続け、売上高は為替一定ベースで6%増の82億ユーロ、およそ94億ドル(約1兆4100億円)、営業利益率は41.1%だった。
経営陣が安堵を口にするには十分な改善だった。LVMHのCFO、セシル・カバニス氏は、上半期を「きわめて堅実な一連の結果」であり、「当社モデルの強さとレジリエンス」を裏づけるものだと評した。
ケリングCEOのルカ・デ・メオ氏は、6カ月で純減84店舗を閉鎖しながらも成長に復帰し、同グループは「戦略を行動に、行動を結果に」変えたと述べた。エルメスのアクセル・デュマ氏は、かなり落ち着いた評価として「顧客はまたも足を運んでくれた」と語った。
だが、こうした結果を受けても、バーンスタイン(Bernstein)のシニア・ラグジュアリー・アナリスト、ルカ・ソルカ氏は、より広い市場の回復が訪れたとは確信していない。むしろ、今週の状況はより華やかさに欠けるレンズ、すなわち「価格に見合う価値(バリュー・フォー・マネー)」を通して見るのがもっとも理にかなっている、と彼は主張する。
「価格に見合う価値」がジュエリーを押し上げる
これは、ジュエリーが好調である一方、ハンドバッグ主導の事業がようやく安定しはじめたばかりである理由を説明するのに役立つ。
LVMHのウォッチ・ジュエリー部門は第2四半期に11%成長したのに対し、ファッション・レザーグッズは1%だった。ケリングのジュエリー事業は18%成長したが、ファッション部門は横ばいだった。リシュモン(Richemont)のジュエリー・メゾンは、さらに大幅に速いペースで拡大している。
ソルカ氏によれば、エントリー価格帯のジュエリーはいま、ハンドバッグと比べて中間層の消費者に「価格に見合う価値の大きな優位性」を与えているという。
貴金属や宝石を使ったブレスレットやペンダントは、2019年以降に価格が急騰したレザーバッグと並べると、ますます合理的に見えうる。LVMHは、ティファニー(Tiffany)のハードウエア(HardWear)およびノット(Knot)コレクションが「並外れた成長」を遂げたとし、ブルガリ(Bulgari)はジュエリー、ハイジュエリー、ウォッチにわたって幅広い需要を記録したと述べた。
リセールが同じ計算を強める
リセール(再販)もまた、同じ計算を強めている。2025年12億8000万ドル(約1920億円)の売上高を生んだヴィンテッド(Vinted)は、いま米国市場への進出を進めており、米国の買い物客が中古品をニッチなサステナビリティ習慣ではなく、むしろ主流のチャネルとしてますます扱うようになると賭けている。
リセール大手のザ・リアルリアル(The RealReal)は、8月6日に第2四半期決算を発表する際に、もうひとつの試金石となる。
アナリストはおよそ1億8780万ドル(約281億7000万円)の売上高と、1株あたり0.02ドル(約3円)の損失を見込んでいる。これは、売上高が19%増、流通取扱高(GMV)が24%増、アクティブバイヤーが10%増となった第1四半期に続くものだ。
一次流通のラグジュアリーとの対比は見逃しがたい。最大手グループが低い一桁台の成長への復帰を祝っている一方、リセール・プラットフォームは、依然として認知度の高いラグジュアリー製品を求めながらも、それを新品で買うことにはあまり乗り気でない顧客の恩恵を受けている。
値付けの高すぎるハンドバッグの代替が、より安い新品のハンドバッグとは限らない。それは、数シーズン前の同じバッグを、正当だと感じられる価格で買うことかもしれないのだ。
信頼に足る希少性と価値保持を備えた製品にとって、リセールは元々の提案を強化しうる。ロレックス(Rolex)とその小売パートナーは、認定中古(サーティファイド・プレオウンド)ウォッチでの存在感を高めており、真贋鑑定と保証を用いて、二次流通市場の需要に直接参加している。
しかしファッションハウス(Fashion House)にとっては、リセールはブランドが付ける価格と、市場がその品に値すると考える価格との差を露呈させかねない。
顧客のいる場所へ歩み寄るグッチ
同じ価値のレンズは、グッチのようやく芽生えた改善を説明するのにも役立つ。ケリングは、ラグジュアリー企業が一般的に必要だと認めたがらないこと、すなわち顧客のいる場所に自ら歩み寄ることを実行しているのだ。
決算説明会で手ごろさについて問われたデ・メオ氏は、同グループが特定のカテゴリーで値付けをやりすぎたと認めた。その調整が数量に与えた影響は、線形ではなく「指数関数的」だったと彼は述べた。
グッチは一部の価格を引き下げ、マーケティングへの支出を売上高の9%前後に維持しつつ、新コレクションをより競争力のある価格帯に位置づけている。
ソルカ氏は、このアプローチを、業界のパンデミック後の高価格化キャンペーンによって脇に追いやられながらも、なおデザイナーズグッズに関心を持ち続ける消費者、つまり大勢の「ラグジュアリー難民」への配慮だと表現した。
ただし注意点として、グッチは望ましさ(デザイアビリティ)を見つける前に顧客を見つけたのかもしれない。「グッチが望ましさを再構築しているとは、私はまだ確信していない」とソルカ氏は述べた。「現場からはそれが感じられない。それはこれからの話だ」
いまのところ、この改善は値付け、比較しやすい前年基準、そして積極的な内部整理によって支えられている。店舗閉鎖とあわせて、ケリングは為替一定ベースで営業費用を3%削減し、上半期の営業利益は予想を6&上回った。グッチは北米で9%成長したものの、欧州、日本、アジア太平洋ではマイナスのままだった。
事業はより健全になっている。だが、まだ「熱い」状態ではない。
LVMHは、コロナ後の価格急騰から退くことにより消極的だった。同社は上半期にファッション・レザーグッズで穏当な、低い一桁台の値上げを実施し、その一方で数量とミックスはおおむね横ばいのままだった。
経営陣は、憧れを抱く顧客(アスピレーショナル層)に応え続ける必要性を認め、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)のマルチ・ポシェット(Multi Pochette)のような、比較的手ごろな新しい製品を挙げると同時に、その多くが順番待ちリストを抱える高価格帯製品の品ぞろえを拡大していると指摘した。
エルメスは、ラグジュアリーの価格が単に高くなりすぎたという考えにとって、都合の悪い例外である。デュマ氏は、中間層の顧客のあいだにいくらかの圧力があると認めたが、それは最富裕層の顧客による継続的な支出によって相殺された。
それでもエルメスは、グッチ流の修正を行うつもりはない。同社の顧客は製品が価格に見合うと信じ続けており、だからこそソルカ氏はいまなお同社を業界の基準(ものさし)とみなしているのだ。
ラグジュアリーの勝者たちは自ら需要を生み出す
ラグジュアリー需要は依然として弱いが、プラダ(Prada)、ブルネロ・クチネリ(Brunello Cucinelli)、エシロールルックスオティカ(EssilorLuxottica)は7月末、もっとも強い企業は広範な市場の回復を待つのではなく、むしろ顧客に消費する具体的な理由を与えていることを示した。
プラダ・グループはといえば、より重い値上げではなく、より有利な製品ミックスのおかげでトップ顧客からの支出が強まり、業績を改善させた。プラダ・グループの上半期売上高は35億ドル(約5250億円)に達し、オーガニックベースで5%増、プラダ・ブランドは7月30日発表の第2四半期に6.3%成長へと加速した。
CEOのアンドレア・グエラ氏は、同社の「最大の機会」は依然としてトップ・スペンダーにあると述べた。
「彼らは健全で、裕福であり、我々は公正な取り分を得る必要がある」と彼は語った。成長は値上げよりも製品ミックスによるところが大きく、数量もわずかにプラスだった。
バーンスタインのアナリスト、ルカ・ソルカ氏は、この結果はラグジュアリー業界の「メガブランドのプレミアリーグ」で戦うというプラダの野心をより強く裏づけるものだと述べた。
同じ日に決算を発表したブルネロ・クチネリは、市場の最上位から同様の教訓を示した。同ブランドは、統制されたディストリビューションと、憧れを抱く消費者への限られた露出に支えられ、各地域のハイエンド顧客から持続的な正価需要を獲得した。
上半期売上高は為替一定ベースで13.3%増の8億6400万ドル(約1296億円)、小売は19.3%増、南北アメリカは20.6%増だった。同社は、成長が新規顧客と既存顧客による支出増の双方を反映していると述べ、2026年の成長見通しを10〜11%へ引き上げた。
会長のブルネロ・クチネリ氏は、真に特別だと感じられる製品への需要に支えられ、同ブランドは「並外れて追い風のモメンタム」を経験していると述べた。
エシロールルックスオティカは、異なるやり方で需要を生み出している。同社は、堅調な光学(アイウエア)需要と、加速するスマートグラス販売の組み合わせに注力しており、それが同社を従来のアイウエアの枠を超えて広げている。
7月28日の決算報告で述べられたとおり、同社のスマートグラス販売は第2四半期にほぼ倍増し、グループ売上高を為替一定ベースで8.7%押し上げた。
CEOのフランチェスコ・ミレーリ氏は、AIアイウエアはいずれ「ラグジュアリー、ミドル、そして下位の価格帯」にまたがるだろうと述べ、メタ(Meta)はより若く、よりテクノロジー志向の買い物客をターゲットにし、さらなるプレミアム製品の投入も計画されているとした。
ソルカ氏は、平均価格の改善、度付き(処方箋)レンズの装着率、そして生産効率の向上により、製品ミックスは「エシロールルックスオティカに有利に働き続ける」はずだと述べた。
[原文:Luxury Briefing: Luxury's recovery has a value-for-money problem]
Zofia Zwieglinska(翻訳、編集:藏西隆介)
