「VIVANT」は「海外の配信ドラマ」級の「最高水準」 それでも前シーズンと比べて「ワクワクしない」の声が出るワケ
不満の声、なぜ?
TBS「日曜劇場 VIVANT」(日曜午後9時)が第13回を迎える。シーズン2(S2)として数えると、第3回。個人視聴率はシーズン1(S1)を大きく上回っている。一方、SNSには「1のほうが良かった」(「X」、8月2日投稿)との意見も相当数ある。S1にあってS2にないものがあるのか。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】
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「VIVANT」の関東地区の個人視聴率は、第11回(S2の第1回)が12.1%、第12回(同2回)は10.4%。プライム帯(午後7〜同11時)に16本ある夏ドラマ中で、断トツである。

2位は趣里(35)が主演するテレビ朝日「大空港〜GATE24〜」(木曜午後9時)が、7月30日放送の第2回で記録した5.5%。「VIVANT」はほぼダブルスコアで上回っている。1%台にとどまる夏ドラも4本ある中、まさに一人勝ちだ。
高視聴率は関東地区だけではない。関西地区も第11回が13.1%で第12回が10.2%と独走中だ。名古屋地区も第11回が10.4%、第12回が8.4%と群を抜いている。この状況が年内いっぱい続く可能性が大きいから、他局にとっては厳しい展開だ。
質の評価も高い。原作・演出を担う福澤克雄氏(62)の先輩にあたる元TBSプロデューサーの市川哲夫氏はこう評する。
「地上波のドラマでは現時点の最高水準です」
市川氏自身、同じ日曜劇場で「課長サンの厄年」(1993年)などの人気作品を制作したヒットメーカーだ。市川氏は「海外の配信ドラマと比べても引けを取らない」と太鼓判を押す。脚本や演出、映像に隙が見当たらない。
連ドラも映画も続編が偉大な第1作を超えるのは簡単ではないが、「VIVANT」は違う。S1の個人視聴率(関東地区)は第1回が7.4%、第2回が7.2%だったから、S2が大幅に上回っている。
もっとも、SNS上にはS2に対して否定的な声も一定数ある。「ワクワクしない」(「X」への8月3日の投稿)といった意見が目立つ。なぜだろうか。
S1の序盤で色濃かった冒険活劇の要素が、S2の現時点までは薄いのが大きな要因に違いない。S1の第1回は、バルカ共和国にいた主人公の乃木憂助(堺雅人)を次々と災難が襲い、目が離せない展開だった。乃木は別班工作員で、表の顔は丸菱商事社員である。
まず、謎の男だったアル=ザイールが乃木の目前で自爆テロを起こす。爆破犯と疑われた乃木はバルカ警察に追われた。バルカの幹部警官であるチンギス(バルサラハガバ・バトボルド)は乃木にヒルのように吸い付いてきた。
乃木を治外法権である日本大使館まで導いたのは警視庁公安部警視・野崎守(阿部寛)と、気の良い地元民の助っ人・ドラム(富栄ドラム)。世界医療機構の医師・柚木薫(二階堂ふみ)も付いてきた。
4人がワゴン車で塀をぶっ壊して逃げるシーンは、名作映画「大脱走」(1963年)さながらの迫力だった。日本大使館に駆け込むまでの光景にも手に汗握った。
第2回も死の砂漠を越えての脱出劇があった。こちらは映画「レイダース/失われたアーク<聖櫃>」(1981年)を思い起こさせた。確かにS1と比較すると、現時点までのS2は刺激が少ない。
刺激が乏しいのか
視聴者をイライラさせつつ、画面に引き込むような存在もS2では今のところ登場していない。S1では薫がその役を担っていた。
例えばS1の第2回。逃走中で危険が迫っているというのに、薫はリーダー格である野崎の指示に従わず、結果として安全をさらに脅かしてしまった。ラクダから落ちて足止めを招く一幕もあった。
もっとも、こういう存在がいることで物語は引き締まる。観る側は「なにをやってんだよ」と苛立つが、それによって画面から目が離せなくなってしまう。善意のトラブルメーカーは貴重な存在なのだ。S2での薫は第11回に顔見せ程度に登場しただけだ。
とはいえ、刺激を捨てたわけではないはずだ。「VIVANT」はS1とS2を足すと、計3クールの長丁場。物語を平板にしないため、あえてS1とはスタイルを変えているのだろう。だから冒険活劇は一時的にスパイ・サスペンスに姿を変えていると見るべきだ。
乃木は全国の病院から消えた別班員4名と、バルカで拉致された別班員の黒須駿(松坂桃李)を救うため、カギを握る警視庁公安部警部・新庄浩太郎(竜星涼)を追う。そして新庄がタイ・バンコクの実業家・チョッキー(タナパック・ジョンチャイパー)に匿われていることを突き止めた。
決め手となったのは、新庄が好物の納豆と赤飯を購入していたため。第3回で乃木が新庄の身柄を押さえるのか。
ただし、おかしい。パクチーとトムヤムクンの国で納豆を常食していたら「ここに日本人がいます」と言っているようなものだ。別班と同じく、精鋭ぞろいの公安捜査員が、そんな間抜けなことをするだろうか。乃木が自分を見つけるように仕向けていたのではないか。
新庄は、乃木の父親であり、テロ組織「テント」のリーダーだったノゴーン・ベキ(役所広司)の脱獄を手引きしたことで、テントのモニター(潜入工作員)であったことが発覚した。だが、これも野崎の指示だと見ることができる。テントと協力者の全貌を知るためだ。
別班は存在の有無すらはっきりしないが、現実の公安も謎に包まれた組織。野崎が手の内をすべて乃木に明かしているとは限らない。感情的な野崎が新庄への怒りをあらわにしないところも気になる。
新庄の確保に向け、バンコクに新たな別班員が送り込まれた。丸菱商事専務の長野利彦(小日向文世)らしい。第12回の最終盤、乃木の滞在先に長野が現れた。
長野はS1の第4回、野崎の事情聴取を受けた。丸菱商事による1000万ドル(当時のレートで約14億円)の誤送金事件で実行犯だった天才ハッカー・太田梨歩(S1・飯沼愛、S2・花岡すみれ)と、メールで頻繁にやり取りしていたからだ。太田との待ち合わせ場所にも現れた。
その際、長野の経歴が明らかになった。防衛大学校卒業から2年の空白期間を置き、一橋大大学院に入学。修了後、丸菱商事に入社した。
防衛大には毎年約320〜380人が入校するが、卒業時には約30〜50人が任官を拒否するから、不自然な話ではない。空白期間には薬物依存症の更生施設に入っていたそうだ。長野が別班員なら、その2年間は訓練期間だった可能性が高い。
事情聴取で長野は野崎に対し、太田との関係について「不倫していた」と話していたが、これは真偽が確認できていない。太田側は不倫を認めていないからだ。2人の本当の関係が分かるのはこれからである。
東条は裏切り者?
怪しい人物は警視庁内にもいる。野崎の支配下で仕事をしている警視庁サイバー犯罪対策課の捜査員・東条翔太(濱田岳)である。第12回で新庄の逃亡について公安捜査員たちが話し合っている際、東条は「新庄って、あのベキ様を脱獄させた…」と口走った。テロ組織の親玉に「ベキ様」は引っかかる。
もっと不審なのは東条の部屋が様変わりしたこと。S1での東条は「ウルトラマンシリーズ」オタクで、部屋中がフィギュアやポスターで埋め尽くされていた。ところがS2の第12回ではグッズが「タイガーマスク」のものに総入れ替えされていた。
タイガーマスクの主人公・伊達直人は孤児院出身のプロレスラーで、孤児院の支援に命を懸けた。孤児院といえば、ベキである。ベキもまた孤児院支援に献身した。偶然とは思いにくい。東条はベキに心酔するようになり、テントに協力しているのではないか。
S2で物語の中心地となるのはトルコ共和国の東端にあるアール山(アララト山)だ。この山を囲むように消えた別班員と黒須がいるはずだ。
数々の伝説がある山だ。
その中で最も有名なのが「ノアの方舟」の終着地伝説。『旧約聖書』によると、世の中は人々の争いや暴力で満ちあふれ、神が定めた秩序や道徳が失われていた。
神は人間をつくったことを悔い、心を痛めた。そして地上に満ちた悪と暴力を拭い去るため、人間も動物も洪水で滅ぼすことを決める。
ただし、すべての人間が滅ぼされたわけではなかった。神を恐れ、正しく汚れのない生き方をしていたノアを生かす。
神はノアに対し「大洪水を起こすので、家族とすべての動物のつがいを乗せるための方舟をつくりなさい」と告げた。ノアたちが流れ着いたのがアール山の山頂付近だった。
アール山を物語の中心地に選んだということは、福澤氏もノアの方舟を意識しているに違いない。くしくも、かつて神が心を痛めたころと世界情勢は重なり合う。
S1は巨額送金や資金を巡る現実的なドラマとして始まった。S2は善悪や人間の在り方を問い直す哲学的な物語へと軸足を移していくのではないか。
高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社。放送担当記者・専門委員として、1994年のNHK連続テレビ小説「春よ、来い」のヒロイン途中交代や、1999年のフジテレビ「愛する二人別れる二人」のやらせ問題などを特報する。2015年に毎日新聞出版へ入社し、サンデー毎日編集次長を務める。編集者としては「小池百合子都知事の真実」などを担当した。2019年に独立。元・放送批評懇談会出版編集委員。
デイリー新潮編集部
