Aさん(7月29日 都内/弁護士JPニュース編集部)

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「15年間上がらなかったタクシーの運賃がやっと上がった。それなのに、会社の取り分だけ増やして乗務員の取り分を減らす。こんなことが通るわけない」--飛鳥交通グループでハンドルを握る乗務員は、7月29日の判決後、都内での会見でそう述べた。

同日、東京地裁は同グループの3社が運賃改定を機に導入した歩合給の引き下げを無効と判断。会社側に未払い賃金約5062万円の支払いが命じられ、原告側は会見で「我々が主張していた内容が全面的に認められたもの」と評価した。

乗務員の手取りも増えるはずが…

事の発端は、2022年11月に施行された東京特別区・武三地区(23区と武蔵野市・三鷹市)のタクシー運賃改定だった。

引き上げ幅は約14%で、タクシー乗務員の給与は、売上をドライバーと会社で分ける歩合給が基本となるため、運賃が上がる場合、乗務員の手取りも増えるはずだった。

そもそも歩合給は、大まかにいえば「営業収入(売上)に歩合率を掛けた額」で決まる。運賃が上がって売上が増えれば、歩合率が同じである限り、乗務員の取り分も自動的に増える理屈だ。

ところが飛鳥交通グループは、2023年に就業規則(賃金規程)を変更。

実際の税抜き営業収入に「0.9585」という係数を掛けた額を“計算上の営業収入”とみなし、その圧縮後の数字に従来どおりの歩合率を掛け計算する仕組みを導入した。

さらに、一部の乗務員について、月間営業収入が42万円以上の場合の歩合給の計算方法も変更。

原告側によると、歩合給の一部は、月間営業収入から一定額を差し引いた残りに歩合率を掛けて算出することになっていたが、この計算に用いる月間営業収入に120万円という上限を設けることで足切りを行い、事実上の賃下げを実施した。

原告側はこの2つの就業規則変更について「合理性・必要性・相当性を欠く」と主張。

弁護団の安原幸彦弁護士は会見で「飛鳥交通は『歩合率を下げると(法的に)まずい』というので、0.9585という係数をかけて売上をぎゅっと絞り、歩合率はそのままにしておく。そうすると実質賃下げになる」と指摘。

「この手法が裁判所で許されるのであれば『俺もやろう』と考えていたタクシー会社がたくさんあったのではないか。だが、今回の判決で、見事にそれがダメという判断になって良かった」と述べた。

変遷した会社側の説明

裁判の最大の争点は、係数導入と120万円上限という2つの就業規則変更が、労働者に効力を及ぼすかどうかだった。

就業規則の不利益変更が有効となるには、労働者の不利益の程度や変更の必要性、内容の相当性、労使交渉の状況などに照らして合理的である必要がある(労働契約法10条)。

判決は、賃金という重要な労働条件を不利益に変更するものであるにもかかわらず、変更の必要性を基礎づける具体的事情の証明がなく、係数の数値自体も適切なシミュレーションに基づいて算出されたものとは認められないと指摘。

会社が労働者に対して真摯かつ誠実な労使交渉をしていないとも認定した。原告によっては減額幅が月10万円を超える点にも触れ、経済的不利益は軽視できないとした。

では、なぜ会社側は変更の必要性を裏づけられなかったのか。弁護団は、その主張が訴訟の途中で変遷したことにあるとみている。

「当初は『先々(の経営状況)に備えてやるんだ』と言っていた。それが裁判で通らないと思ったのか、途中から『今の経営が苦しい』と言い出した」と安原弁護士は指摘。

裁判所も、会社側が挙げた経営上の必要性について「具体的な事実を伴わない抽象的なもの」と判断し、主張は退けられた。

絶対に勝たなければならない

会見にはタクシー乗務員も出席。乗務員のAさんは裁判について「率直に言えば、長かった三年間でした」と振り返り、次のようにコメントした。

「共に戦った人々のなかには、亡くなった方もいるので、その方々のためにも絶対に勝たなければならないと思ってきました。

社内には原告になった乗務員以外にも、私と共に戦いたいという人がいました。しかし『会社から何か悪さをされるから一緒に戦えない』と参加できなかった人もいます。

そういう人たちのために、今後仕事をしていくうえで、ダメなものはダメと言っていける労働組合の存在が重要ではないかと感じています。

また、今回の判決は会社側による一方的な就業規則の変更は許されない、と全国のタクシー乗務員に知らせるいいきっかけになるのでは、とも思っています」

なお、弁護士JPニュースでは飛鳥交通側に対しコメントを求めたが、現在まで回答は得られていない。