【中村 清志】「スタバの日本事業売却」でこれからカフェ業界に起こる異変…コメダ、ドトールら虎視眈々と
直営にこだわりブランドを堅持してきたが…
「スターバックス」(以下、スタバ)はご存じ、世界80ヵ国以上で約3万7000店舗以上を展開する世界最大のカフェチェーンだ。グローバルブランドとして統一感を遵守させながら、各国の文化や嗜好に適合させる“グローカリゼーション”戦略で、各地域に受け入れられている。
また、直営店とフランチャイズ店の割合は半々程度で、地域によっては現地企業とフランチャイズ契約を結ぶことで、これまで円滑かつスピーディーな市場参入と店舗数拡大を実現。「自宅や職場とは異なるリラックスできる空間」を提供する、サード・プレイス(第三の場所)というコンセプトが顧客に支持され、高い人気を集めてきた。
日本は1996年に北米以外で初めて出店した海外市場でも知られる。それから30年が経過したが、今や国内カフェ店舗数1位の約2100店舗を有するに至っているが、実にその9割が直営店だ。
なぜスタバ(日本事業)はここまで直営方式にこだわるのか――それはスタバの理念を共有し、チェーン店としての統一性の遵守、ブランド価値と品質の維持を目的とするからだ。確かにライセンス店舗もあるにはあるが、それはあくまで直営での出店が困難な、特殊な要因の商圏や立地などに限る。そうして、管理統制を強化しているのである。
だが、そんなスタバが今、危機的な状況に置かれつつある。好調な日本とは違い、米国のスタバ本社はインフラが加速する経済の中でブランドイメージが劣化。顧客離反を招いた結果、業績が急速に悪化しているのだ。
売却の予兆はすでにあった
スタバの日本事業の2025年度売上は、5期連続増収の3401億円、推定営業利益率も10〜15%と利益率も高い。一方、グループ全体の売上の約7割を占める米国事業はといえば、2024年9月期の純利益が37.6億ドルだったのに対して、2025年9月期は18.6億ドルへと半減している。
さすがに危機感を覚えたのか、その後の2025年秋以降の業績は、2025年7〜9月期の既存店売上高1%増、10〜12月期4%増と、2四半期連続で増加傾向と事業再建策は一定の成果は出つつある。ただ、より一層、再生への投資は必要であり、そのための改革費用の捻出が求められていた。
そこで持ち上がったのが、米ブルームバーグによって今年6月に報じられた「スタバ日本事業の売却検討」というわけだ。世界の中でも群を抜く優良資産である日本事業を売却することで資金確保を狙うということである。
消費者からすれば、一連の驚きをもって受け入れられたと思うが、業界的にはすでに“予兆”のようなものはあった。というのも2025年にも、スタバ中国事業の株式の60%を現地PEファンドである博裕資本に売却し、残り40%はスタバが保有するというジョイントベンチャー方式での協業がすでに行われている。
中国事業については「ラッキンコーヒー」など現地カフェチェーンとの競争が激化し、シェア低迷が続いていたから、やむを得ない措置だったと考えられる。だが、これだけではスタバ全体の改革費用に不十分だったため、好調な日本事業に目が向けられたのだろう。
日本のスタバは、他の地域と見比べてもずば抜けてブランド価値の向上と維持ができており、安定した収益基盤を持つため事業価値は高い。スタバにとっても「売るなら好調なうちに売れ」と考えたはず。資産の軽量化で“持たない経営”に転換し、身軽で柔軟な経営により資本効率を高める今回の売却は、財務の視点からは仕方ないと言える。
カフェ業界はスタバの座を狙う猛者揃い
では、今回のスタバの日本事業売却によって、国内のカフェチェーン業界にはどんな変化が生じるだろうか。
前述した通り、店舗数でトップに立つスタバに対して、それを追うのが拮抗する2つのチェーン、「コメダ珈琲店」(1079店舗)と「ドトール」(1074店舗)だ。今回のスタバ日本事業の売却は、これら大手チェーンにも影響し、市場には「リスク」と「チャンス」が混在してくるだろう。もしも売却後のスタバが現状の路線を踏襲することなく、路線変更をした場合、これまで築き上げてきたスタバのカフェ市場でのポジショニングは一変するはずだ。
スタバはカフェ市場で中〜高価格帯で体験価値の向上を目指す店。一方、ドトールはビジネス街に立地し、客席回転率を高め、低価格と利便性の高さで「日常の安心」を提供。そしてコメダ珈琲店は滞留時間をのばし、客単価向上による効果を重視する。
このように、上位3社だけでもコンセプトとターゲットは大きく異なり市場を区分化している。他にも「タリーズコーヒー」や「サンマルクカフェ」といったチェーンも独自の特徴を持って、常に上位チェーンに食い込もうとしている。
これに加えて、既存のファストフードやファミレスチェーンとの競争激化や、新規参入も増える市場環境も無視できない。もしも今後、スタバの運営方針が変更され、混乱を招くことがあれば、ブランド価値に揺らぎが生じる可能性もある。その隙を狙って他チェーンが攻勢を強めシェア拡大を狙ってくる。スタバの戦略の変化でカフェ市場再編の機運はますます高まりそうだ。
【後編記事】『パンケーキブームまだ現役?「丸亀製麺」のトリドールが殴り込み…社運をかける“ハワイアンカフェ”の成否』へつづく。

