記事のポイント
W杯北中米大会を機に、米国ではライブスポーツが広告主にとって数少ない大規模リーチ可能なTVコンテンツとして価値を高めている。
供給不足に乗じ、権利を持たないリセラーがライブスポーツ広告を装う「ショルダーコンテンツ」などを販売する疑惑が広がっている。
広告主には、視聴データだけで判断せず、権利保有者や販売承認の有無、資金の還流先まで独立して検証する姿勢が求められる。


北米で初めて共同開催されているサッカー・ワールドカップ北中米大会は、米メディア業界の一部がかねて認識していたことをはっきりと示した。アソシエーション・フットボール、現地の言い方でいえば「サッカー」は、いまや米国で一大コンテンツであり、企業にとっては急ピッチでそれも給水タイム1回ごとに、収益化を図るべきときだということだ。

サッカー米国男子代表が3000万人前後のライブ視聴者を安定して獲得し、メディア報道によれば大統領の介入まで招いたという事実は、すでに広く共有されている認識を裏づけている。

すなわち、スポーツは広告主がリーチできる、最後に残された大規模なライブオーディエンスを持つマスマーケット向けTVコンテンツのひとつだということだ。

海賊版という脅威



もちろん、マディソン・アベニューでTV広告販売が話題になるとき、「CTV(コネクテッドTV)」が会話に入ってくる。とりわけ同地域ではスポーツベッティングのマーケティングが急拡大しており、この分野の多くのマーケターがそうしたオーディエンスにリーチするために戦術的な入札を調整しようとしているのだからなおさらだ。

しかし、こうした盛り上がりのなかには都合の悪い真実がある。市場に出回るスポーツ・インベントリー(在庫)は実のところそれほど多くない。巨大な需要のなかでのこの希少性が、怪しげなプレイヤーの参入に扉を開いており、それを助長しているのが、見て見ぬふりの蔓延なのだ。

先週、業界団体のトラストワーシー・アカウンタビリティ・グループ(Trustworthy Accountability Group、以下TAG)は、現在の時流に乗じてPR上のポイントを稼ぎ直した。同団体をめぐっては最近、アドウィーク(Adweek)の報道が、Googleやトレードデスク(The Trade Desk)といったプラットフォーム、そしてプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)などの大手マーケターのあいだで影響力の低下が見られると伝えたばかりだった。

TAGはジ・アスレチック(The Athletic)に対し、「脅威エクスチェンジ」であるAdSecを通じて、サッカー・ワールドカップ北中米大会のコンテンツを違法配信する1376の海賊版サイトへの広告出稿を停止したと明らかにした。

TAGによれば、この取り組みは、米司法省が6月実施した400の海賊版ドメインの差し押さえを「補完するメカニズム」として機能するものであり、さらに、スペインのサッカー最高峰リーグであるラ・リーガ(La Liga)による、同種の事業者への広告費流出を抑える同様の取り組みとも呼応するものだという。

また、直近のチャンピオンズリーグ決勝は英国で1600万件を超える違法ストリーミング視聴を生んだと報じられている。同国では、公式の放映権を持つ放送局が無料視聴の手段を提供していなかった。

「誰も答えを知りたがらない」



しかし、この儲かるスポーツセクターの周りをうろつく脅威は、オンラインの海賊版ネットワークだけではない。

Digidayがここ数週間で接触した複数の情報筋は、需要の高いコンテンツを求めるあまり、多くの大手パブリッシャーやプラットフォームが、意図的に、あるいは半ば意図的に、怪しげなリセラーのネットワークに頼らざるを得なくなっている実態を語った。

需要があまりに大きいため、都合の悪い質問はすぐに封じられることもあるという。パートナーの審査に関して、社内の関係者が近道をしてしまうことがあると指摘する声もある。

「人々はスポーツ番組を求めているが、実際にはあまり放送されていない。。だから誰もが、あらゆるスポーツ番組を持っていると主張する怪しげなリセラーと組まざるを得ない。実際には持っていないのだが、誰も確認しようとしない」と、業界内の関係を保つために匿名を希望したある情報筋は語った。

そして、こう付け加えた。「誰も答えを知りたがらない。あまりに大きな金が懸かっているからだ」。

つじつまが合わないとき



ここ数週間、複数の情報筋がDigidayに接触し、いくつもの危険信号を発するインベントリーリセラーのネットワークを通じて、プレミアムなライブスポーツ広告インベントリーが販売されているとの疑惑を指摘した。取材に関わった情報筋の大半は、率直に話す代わりに実名の公表を避けることを望んだ。

Digidayが確認した会話によれば、問題のインベントリーはサッカーコンテンツに限られたものではなく、オーディエンスシグナルが本物のライブ視聴パターンと酷似するなど、運用上は正当なものに見えた。しかし、一連の技術的・商業的な不整合があったため、取引に関与した一部の情報筋はより詳細な調査に乗り出した。

その精査によって危険信号が浮かび上がった。特定のストリーミングプラットフォーム上には本来現れないはずの技術的シグナルもそのひとつだ。このリセラーは、ティアワンのブランドやメディアオーナーと取引するパートナーの多くに対し、公式の権利保有者が広告主に提供していないはずのオーディエンスフィードバックを提供していたのである。

たとえばある情報筋は、リセラーから返されたIPアドレスのサンプルが、当該試合を視聴していると考えられる世帯と一致しなかったと指摘した。さらに、放送に紐づいていた問題のインベントリーは、独占的な配信契約の対象でもあると理解されていた。

このDigidayの情報筋は、当該リセラーが権利保有者との公式な商業的関係を持っていないことをのちに確認したという。

本当に「正規販売代理店」なのか?



一部の関係者にとって、こうした疑問は2つの領域で精査が必要なことを示している。インプレッションは本物だったのか。そして、(自称)プレミアムなライブスポーツは、権利保有者やライセンスを受けたディストリビューターからの明確な承認がないまま、どうやって広告サプライチェーンに入り込むのか、である。

別の複数の情報筋は、広告主の目をくらませるために使われる手法について言及した。「ライブストリームを切り取り、そのクリップをCTV広告として再パッケージし、あたかもライブスポーツの買い付けであるかのように別の場所で販売する例を目にしている」とある情報筋は指摘する。

「表面上、データは比較的正当に見えることもある。だがそれはライブイベントではなかった。ライブのCTV番組内では実際には一度も流れていない『ショルダーコンテンツ』なのだ」。

結局のところ、ここで問われるのは、スポーツ・インベントリーが技術的に本物であることだけでなく、メディア予算を投じる前に、それが公認された供給元に由来することをいかに検証するかという問題だ。もっとも、業界の商業的な現実が、その検証を難しくしている。

広告会社インターメディア・アドバタイジング(InterMedia Advertising)でデジタル担当シニアバイスプレジデントを務めるデビッド・ニュレンバーグ氏はDigidayに対し、これは単純に供給が需要に追いついていないケースだと述べ、高価値のインベントリーは常に悪質なプレイヤーを引き寄せてきたと付け加えた。

「CTVがほかと違うのは、業界のデフォルトの姿勢がいまだに『検証』ではなく『信頼』だという点だ。プレミアムスポーツのCPMは巨大な金銭的インセンティブを生み、透明性の欠如がつけ入る機会をつくり出す。バイヤーがより厳しい質問を投げかけ、サプライチェーンで申告されている内容に頼るだけでなく独立した検証を求めるようになるまでは、誰かがその組み合わせを悪用しても驚くにはあたらない」。

「スポーツ放映権の世界では、1社があらゆる種類のスポーツを保有することは基本的にあり得ない」と、非公式の立場で語った別の情報筋は指摘する。バイヤーがライブスポーツ放映権の拡大に飢えているとき、その需要が「何が本当にライブなのか」をめぐる大きな混乱を生むのだという。

「すべてを単一のパートナーに集中させることは、リーグの利益にならない。健全な競争関係を保つため、権利は複数の放送局に分散されている。だから誰かが『すべての権利を確保した』と主張したら、それを聞いただけで眉唾だと感じる」。

スポーツデータ企業のジーニアス・スポーツ(Genius Sports)で最高収益責任者(CRO)を務めるジョシュ・リンフォース氏は、業界の評判のよろしくないプレイヤーの一部が、特にスポーツのような需要の高いコンテンツ領域で巧妙化していると指摘したうえで、「ショルダーコンテンツ」、すなわちライブではないスポーツコンテンツをクリップに再パッケージし、ライブの試合中コンテンツとして販売するものをめぐる業界標準の欠如に言及した。

「ライブスポーツにおいてもっとも重要な問いは、そのインベントリーが公式のもので、承認されており、スポーツそのものにつながっているかどうかだ」と同氏はメールでの声明で述べ、公式の権利、信頼できるパートナーシップ、そしてフィールド上で実際に起きていることに広告を根づかせるリアルタイムデータの上に築かれた企業と組むことの重要性を指摘した。

「バイヤーは、誰が権利を保有しているのか、誰が販売を承認されているのか、そして資金が最終的にリーグ、権利保有者、放送局、プラットフォームに還流するのかを知っておくべきだ。それこそが、ジーニアス・スポーツのような企業と組む価値である」。

[原文:Ad Tech Briefing: Corporate America finally buys into soccer as a mainstream sport; shadier elements of the ad industry are obliging]

Ronan Shields(翻訳、編集:藏西隆介)