記事のポイント
ロレアルはOpenAIと提携し、社内AI基盤「CreAItech」に最新モデルを導入するとともに、メイベリンのバーチャル試着機能をChatGPTへ統合する。
CreAItechはOpenAIやGoogleなど複数のAIモデルを用途別に使い分け、制作コストを40%削減しながら5万点のマーケティングアセットを制作している。
ロレアルはChatGPT広告のテストやAI回答での製品露出強化を進め、AIをクリエイティブ制作からメディア運用まで一体化する体制を構築している。


OpenAIの広告プラットフォームは依然として発展途上にあるが、マーケターは生成AIのリーダーである同社との提携を結ぶことに非常に熱心だ。

化粧品大手のロレアル(L'Oréal)は、6月中旬、製品発見における優位性を獲得し、自社のマーケティング制作システム「CreAItech(クリエイテック)」でOpenAIの最新モデルを活用するためのパートナーシップを発表した。傘下ブランドのメイベリン(Maybelline)も、バーチャル「試着(トライオン)」アプリをChatGPT自体に直接統合する予定だ。

ロレアルがこの発表を行ったのは、最高デジタル・マーケティング責任者(CDMO)のアスミタ・デュベイ氏が6月19日にパリのテックカンファレンス「ヴィヴァテック(VivaTech)」で登壇する準備をしていたタイミングだった。同カンファレンスにはLVMH、Google、ルノー(Renault)の幹部も登場した。

デュベイ氏は、マーケティング資料制作と最先端の美容製品の両面で自社のAIの実力を誇示するためにロレアルが設置した広大なカンファレンス・インスタレーションの上で、Digidayの取材に応じた(白衣を着たスタッフと、バブルガムピンクのウィッグが並ぶ様子は、おそらく意図せずして、映画『グリース(Grease)』の「ビューティー・スクール・ドロップアウト」のシーンを思わせる)。

「我々は両社とも、基盤となるパートナーシップを結びたいと強く望んでいる。我々はAIにもっと多くを求められると信じている」と彼女は述べた。

生成AIが一変させたデュベイ氏の役割



このChatGPTとの提携は、デュベイ氏の指揮のもとでロレアルが通過した最新のマイルストーンだ。在籍13年のベテランである彼女の役割は、生成AIの登場によって一変した。

彼女の二面的な職務(デュベイ氏は最高デジタル責任者も兼ねる)は、117年の歴史を持つ同社を、消費者が美容製品を検索・購入する方法や、美容ブランドが自社をマーケティングする方法における劇的な変化へと導くという任務を担っていることを意味する

その職務は、研究開発(R&D)部門に新たなツールを装備させることにも及ぶ。OpenAIとの提携には、ライフサイエンス分野向けに構築された推論モデル「GPT-Rosalind」へのアクセスも含まれている。

CreAItechは、ロレアルの社内マーケティングチームが、アーンド・オウンド・ペイドのソーシャル、eコマース、そして大量の画像を必要とするそのほかの環境向けに、静止画や動画を迅速に生成するために使われている。ごく一部の超大手広告主にとって、こうしたシステムは必須のものになりつつある。

コンサルティング企業のガートナー(Gartner)によると、CMOの70%が自社をAIリーダーへと形作ることを重要な目標だと述べており、マーケティング組織は全体予算の平均25%をAI投資に配分している。ロレアルの場合、2025年のテクノロジー投資は約15億ユーロ(19億8000万ドル、約2970億円)に達した。

「とりわけ美容分野では、この動きは特にタイムリーだ。生成AIが消費者のブランド発見やブランドとの関わり方を作り変えつつあり、消費者がAI主導の検索体験へと移行するなかでパーソナルケアブランドはWebサイトのトラフィック減少を経験しており、いまや消費者の2割近くが情報を探すために生成AIツールを利用している」と、ガートナーのアナリストであるグレッグ・カルルッチ氏は述べた。

複数モデルを束ねる制作システムCreAItech



ロレアルの狙いは、世界中に1万人いるマーケティングスタッフが、アセットを迅速かつ安価に制作できるようにするだけでなく、案件(ブリーフ)に応じてモデルやツールを適切に切り替えられるようにすることだ。

ロレアルは2024年にCreAItechの開発に着手し、2025年本格的に展開した。同システムには現在、シーダンス(Seedance)、Google(Gemini、Veo3、Imagen)、アドビ(Adobe)、ステーブル・ディフュージョン(Stable Diffusion)のモデルやツールが組み込まれている。

オペレーションを拡大するなかで、より効率的なGPUの利用を追求し、2025年には半導体大手のエヌビディア(Nvidia)とも提携を結んだ。OpenAIとの提携は、ロレアルにとって最新の開発上のマイルストーンになるとデュベイ氏は説明した。

「それら(AIモデル)はそれぞれ異なる強みを持っている。テキストから画像へのレンダリングが非常に優れているため、我々はOpenAIの画像モデルを加えたいと考えている」と彼女は述べた。

ロレアルの最近の通期決算説明会で、CEOのニコラ・イエロニムス氏はアナリストに対し、同システムが制作コストを40%削減し、スタッフがCreAItechのツール群を使って5万点のマーケティングアセットを制作したと語った。

「我々はツールを使いこなすことを学ばなければならないが、これは本当に新しい時代だ」と彼は述べた。

AI回答での製品露出とChatGPT広告



OpenAIとの提携は、ロレアル製品がAI生成の回答にどう表示されるかも変える。同社は今後、最新の製品情報をOpenAIに直接提供し、ChatGPTを動かす基盤モデルに追加していく。

それはロレアルに有利になるよう天秤に手心を加えることを意味するわけではないが(OpenAIの経営陣はそうした見方を断固として否定してきた)、ユーザーがそれらの製品について情報を求めた際に、AIツールが、基盤モデルが学習している雑多な製品レビューやレディット(Reddit)の投稿、ウィキページだけからではなく、ロレアル自身のノートから情報を引き出すことを意味する。

ロレアルはすでに、ChatGPTでペイドの支出を行っている広告主の一社だ。デュベイ氏によると、同社は4月からこのAIアプリで広告を出稿しているという。

「我々はこの広告プロダクトをテストしており、消費者が何を見ているのか、購入のためにクリックするのかどうかを確かめている。そしてそれを、米国のセラヴィ(CeraVe)、スキンシューティカルズ(SkinCeuticals)、ガルニエ(Garnier)の各ブランドで規模を持って行っている」と彼女は述べたが、具体的な結果は明かさなかった。「まだ初期段階だ」と彼女は付け加えた。

ロレアルは、マーケティングのROIを追跡・最適化するためにBETiQという独自ツールを使っている。そして、ユニリーバ(Unilever)やケラノバ(Kellanova)といったほかの大手広告主が構築したAI主導のクリエイティブ制作・メディアプランニングシステムと同様に、ロレアルはBETiQやCreAItechのようなツールに、メディアの意思決定に役立てられる自動化されたクリエイティブ効果データを提供させることをめざしている。

同社はクリエイティブエックス(CreativeX)との提携を通じてそうしたフライホイールの基礎を築いてきたものの、AIの成功を測るために用いられる可能性のある指標が、節約できた時間、制作したコンテンツの量から、ROASやクリック率といったメディア指標まで多岐にわたることを考えると、それはまだ現実というより野心にとどまっているとデュベイ氏は述べた。

「測定について考えるときはいつも、我々は削減(reduce)、増加(increase)、改善(improve)を考えている」と彼女は述べた。

節約した時間の再投資とエージェンシーの行方



それでもデュベイ氏は、ロレアルがすでに同システムによって節約された時間を自社のマーケティングオペレーションに再投資していると述べた。同社は通期決算によると、世界全体の広告・販促費(すでに売上高の32%という大きな割合を占めている)を、2024年の支出と比べて10%増やし、154億8000万ドル(約2兆3220億円)にした。

そのうちおよそ60%がペイドソーシャルに充てられているが、デュベイ氏は現在の全体的なメディアミックスに関する財務上の詳細は明かさなかった。同社のソーシャル重視には、クリエイターマーケティングへの大きな注力も含まれる。

デュベイ氏によると、同社はいまや年間50万人のインフルエンサーやクリエイターと協働しているという。そうしたクリエイターとのあいだで、ブリーフを作成したり関係を管理したりする際にも、同社のAIシステムが活躍する。

「何百人、何千人ものクリエイターを抱えていると、ただWhatsAppで連絡するというわけにはいかない」と彼女は述べた。

CreAItechは社内システムであり、ロレアルは7万人のスタッフにAIの利用について研修を行ったとしている。

しかしデュベイ氏は、40ブランドからなるポートフォリオを抱えるなかで、同社のエージェンシーにはまだ多くの仕事が残されていると述べた。とりわけ、ロレアルのメディアエージェンシー・オブ・レコードであり、ヴィヴァテックの主要な支援企業の一社でもあるピュブリシス・グループ(Publicis Groupe)には大きな期待が寄せられていると語った。

ロレアルのクリエイティブエージェンシーに対する姿勢がいまのところ変わっていないとしても、CreAItechの展開がデュベイ氏の職務に加わったことは、彼女のマーケティングへのアプローチを変えた。

「それは長年続いてきたオペレーティングモデルを変える。どのコンテンツをスタジオで作れるのか。エージェンシーでは。何を速く、あるいは遅く作れるのか」と彼女は問いを投げかけた。

ある案件を誰がどのように担当するのかという新たな問いに答える必要があるとしても、このテクノロジーはいくつかのプロセスをマーケターの手から引き取りながらも、マーケターをより創造的にできるとデュベイ氏は主張した。

「私は2年前よりもさらに強く、それが創造性を拡張すると固く信じている」と彼女は締めくくった。

[原文:L'Oréal accelerates generative AI content engine with fresh OpenAI deal]

Sam Bradley(翻訳、編集:藏西隆介)
Image/instagram : L'Oréal Groupe