日銀利上げで得をするのは「金持ちシニア」だけ…「平均貯蓄2843万円」が示す"世代間格差"の不都合な真実
■金利は今後もじわじわ上昇していく
6月15日、16日に開催された日銀の金融政策決定会合で、政策金利は約半年ぶりに0.25%引き上げられ1.00%になった。これまで日銀は国内景気の低迷に配慮して低金利を維持してきたが、インフレ懸念の高まりなどに対応して金融政策の正常化を進めた格好だ。
ただ、依然として、わが国の金利水準は低く、日銀は今後も慎重に利上げを続けるとみられる。今回の利上げによって、わが国の金利には上昇圧力が掛かるだろう。金利上昇はわたしたちのくらしにプラス、マイナスの両方の影響がある。
金利上昇の圧力は、変動型住宅ローンの金利支払い負担増加など、お金を借りている人=債務者にはマイナスの影響が出るはずだ。金融機関の融資金利の引き上げや信用審査基準の厳格化により、資金繰りの不安が高まる中小の事業者が増えることも想定される。
■ローンを抱える現役世代の負担が増大
それに加えて懸念されるのは、世代間の経済格差拡大だろう。家計調査などの統計データを見ると、世帯主の年齢が60歳以上か否かを基準に、家計の貯蓄、負債額には明確な差がある。利上げがあると、お金を運用しているシニア層には相応のメリットがある。
一方、若年層や現役世代でローンを抱えている人たちは、金利の支払い負担は増加するはずだ。当該世代の層には、総じてマイナスの影響が及ぶ可能性が高い。その結果、子育て世代などの生活負担は厳しくなり、シニア層には特定のメリットが及び、世代間の経済格差が増幅されることも懸念される。

■日銀と高市政権の間に生じている「矛盾」
現在、わが国の金融政策は、全体として緩和気味の状況が続いている。一方、ここへ来てイラン戦争の影響もあり、物価の上昇圧力は高まっている。円安傾向で輸入物価も上がりやすくなっており、日銀としてもインフレ対策を打つ必要性が鮮明化している。
そうした政策目標を達成するためには、金利を引き上げて金融政策を正常化することが必要になる。日銀としても政策変更が後手にならないよう、迅速に手を打って見せる必要があったとみられる。
ただ、一つの問題は、高市政権の積極財政政策との整合性を維持することが難しくなりつつあることだ。現在、政府は、電気・ガス補助金やガソリン補助金といった財政政策を動員してインフレを抑えようとしている。そうした政府の政策と、日銀の金融政策の正常化をどのように正当化するか、なかなか難しい問題になりつつある。
この財政・金融の政策に関するある種の矛盾について、海外投資家から強い疑問が提示されることもあるようだ。実際に、大手の投機筋が政策矛盾を突く格好で、円売り・ドル買いを進めているとの見方もある。それが、このところの円安傾向の鮮明化に繋がる要因の一つになっている。
■23区中古マンションが1億円を超えた理由
今年2月末、イラン戦争が発生した。ホルムズ海峡の実質封鎖によりわが国の輸入する石油、液化天然ガス、ナフサなどは減少した。5月の貿易統計速報で、原油輸入量は前年同月比57.3%減の約472万キロリットル、ナフサなど揮発油の輸入量は同13.7%減の約182万キロリットルだった。
供給減による価格上昇と円安の掛け算で、5月の輸入物価は25.5%上昇した。企業はコスト増加分を、販売価格に転嫁する。それにより、消費者物価には追加的な押し上げ圧力がかかる恐れは高まる。
また、わが国の低金利が続くと、高い利益を求め不動産などのリスク資産に資金は流入する。その結果、一時、東京都23区内の中古マンションの平均価格は1億円を超えた。都心に近い場所での生活をあきらめざるを得なくなった人は多いだろう。
■銀行預金の利息はちょっと増えるが…
政策金利の引き上げは、プラス、マイナスの両方でわたしたちの暮らしに影響する。真っ先に思い当たるのは、預金金利の上昇だ。
8月、大手3行は普通預金の金利を0.1%引き上げ0.4%にする予定だ。預金金利が上昇すると、預貯金を持つ個人が受け取る利息は増える。それは家計にプラスだ。
金利上昇で、資金運用の選択肢も増える。6月中旬、日経平均株価は7万円台に突入した。一部で相場過熱感も出始めたという。今後の株価の調整リスクを警戒し、一部の銘柄を売却して利益を確定し、資金を定期預金や個人向け国債に配分する投資家もいるようだ。ただ、これだけ株価が上昇すると、株式投資から利益を得ている投資家は多いはずだ。それも、景気にはプラスに働く。
一方、政策金利の上昇は、わたしたちの生活負担上昇にもつながる。一つの例は、住宅ローンの金利上昇だ。住宅金融支援機構によると、2026年1月調査で住宅ローン利用者の75%が変動型の金利を選択した。首都圏ではマンションなど住居価格の高騰により、50年の超長期の住宅ローンを組む30代や40代の世帯は増えた。
※住宅金融支援機構「住宅ローン利用者調査(2026年1月調査)」
金利上昇で返済額がどれくらい増えるか、理解が十分ではないと感じる人は全体の52.0%と多い。そうした人は、今後の金利上昇が家計に与える影響をあらかじめ把握しておくことが大切だ。

■1億円ローンだと支払額が1250万円増加
0.25ポイントの利上げがあり、変動型住宅ローンの金利が1%から1.25%に上昇したとする。実際の計算はそれほど単純ではないが、50年間、1億円の住宅ローンを借りた人の支払利息は総額で1250万円増える。
住宅ローン以外の返済負担も増える。日本学生支援機構(JASSO、ジャッソ)が提供している第二種奨学金の場合、卒業時に金利の水準が決まる。2021年3月時点で0.369%だった貸与利率は、本年3月、2.423%まで上昇した。そのほか、成人の10人に1人が利用しているといわれるカードローン、自動車ローンなどの金利も利上げの影響を受ける。
政策金利の引き上げによって、債務の支払利息負担は増える。状況次第で、子どもの習い事や趣味の支出を減らす必要性に迫られる人は増えるだろう。わが国では、金利ある世界に慣れていない個人、企業は多い。支払金利の増加がどの程度か、今のうちに大まかに把握することは家計や事業を守るために有益だ。
■60代の平均貯蓄は2843万円、40歳未満は…
日銀は、今後も慎重に利上げのタイミングを見極め、金融政策の正常化を進める方針だろう。現在、市場参加者の間では、およそ6カ月に1回のペースで、日銀は利上げを実施するとの見方が多い。ということは、これからも政策金利は上昇し、わが国の金利全般に上昇圧力がかかると予想される。
それに伴い、わが国では世代間の経済の格差拡大が懸念される。それは、わが国の個人金融資産の半分以上は、60歳以上のシニア層が保有する構造問題ともいえる。20〜40代の若年層や子育て世代の生活負担は高まることが懸念される一方、多額の金融資産を持つシニア層の利息の受け取り等が増えるからだ。
2025年の家計調査によると、2人以上世帯における家計貯蓄の平均は2059万円だった(貯蓄保有世帯の中央値1264万円)。世帯主が60〜69歳の場合の貯蓄額は平均で2843万円、70歳以上だと2471万円である。
40歳代では1381万円、40歳未満の世帯では994万円と、貯蓄はシニア層に偏在している。有価証券の保有額でも同じ傾向が当てはまる。
■ローンに苦しむ現役世代を映すデータ
一方、家計の負債残高の平均は675万円だった(負債保有世帯の中央値1511万円)。世帯主が60歳以上の場合、すでに住宅ローンなどの返済を進めたことにより、残高は平均を下回った。それに対して、40歳未満の負債残高は1882万円、40歳代は1483万円だった。

子育て世代の家計は、変動型住宅ローンなどの利息支払い負担は大きくなる。その結果、シニア層と現役世代では、資産の形成、支出意欲などの格差がこれまで以上に拡大することになる可能性がある。
政策金利の引き上げは、長期金利の上昇圧力を高め、株価や不動産価格の調整要因になる恐れもある。最近、公的年金制度の持続性不安から、株式などで資金を運用する個人は増えた。今すぐではないだろうが、金利上昇で株価が下落し、思ったように資産を殖やすことが難しい現役世代の人が増える懸念もある。
今後、世代間の経済格差の問題に対処するためにも、政府はインフレ環境下での積極財政政策の見直しや、日銀の政策運営を尊重することが必要になるはずだ。
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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)
