机とパソコンが並ぶ詐欺拠点内部=2026年4月、タイ・チョンチョム近郊(共同)

 タイ軍がカンボジアとの国境地帯で廃虚となった特殊詐欺拠点を3月と4月に相次いで報道公開した。国際犯罪組織が流入した「街」の跡地だ。タイ軍は2025年末に砲撃で壊滅に追い込んだ成果を強調する。ただ、こうした拠点は東南アジア各地に残っている。拉致・監禁容疑の事件が最近も発生し、根絶には程遠い状況が続く。(共同通信バンコク支局=伊藤元輝)

 国連が2026年に発表した報告書によると、東南アジア一帯に点在する拠点では現在も66カ国の推定約30万人が詐欺に関与している。カンボジアやラオス、ミャンマーなどメコン川流域国での「詐欺産業」の規模は年間推定438億ドル(約7兆円)に上る。

 報告書は、要塞化した拠点で深刻な人権侵害が起きていると指摘する。タイ軍が公開した東北部スリン県チョンチョム近郊の拠点は生々しい実態をうかがわせた。広大な敷地に立つ建物には、独房とみられる窓のない部屋が並ぶフロアがあり、身体拘束に使えるようなベルトが散乱していた。

 日本語を含む詳細な詐欺の想定問答集の他、各国の警察署や銀行の窓口を再現した映画のセットのような施設、警察官の制服も残されていた。ビデオ通話を駆使していたもようだ。飲食店や診療所、風俗店とみられる建物もあった。

 犯罪組織は新型コロナ禍を機に各地へ流入したとされ、2022年ごろから報道で存在が知られ始めた。2025年にはミャンマーのタイ国境近くで大規模摘発に発展。拘束された人には詐欺の仕事と知っていた中国人が多かったが、偽の求人にだまされて強制労働させられていた人もいた。

 カンボジアでも摘発が本格化。2026年1月にアジア最大級の詐欺組織とされる華人系企業の会長らの拘束につながった。米司法省も4月、詐欺拠点に関連して中国人の訴追と巨額の暗号資産(仮想通貨)の差し押さえを発表した。

 それでもなお、拠点への拉致疑惑が相次いで浮上している。4月には若い中国人女性がだまされてタイ渡航後にミャンマー側の詐欺拠点に連行され、家族に身代金の要求があったと中国メディアが報じた。福岡県の20〜30代の複数の男性は交流サイト(SNS)で誘われ、カンボジアで行方不明になったことも2026年明らかになった。

 犯罪組織は情勢が不安定で治安当局の目が届きにくい地域を狙い、移転しながら各地の権力者と癒着して延命を図っているとされる。

 チョンチョム近郊の拠点跡地で記者団を案内したタイ軍の担当者は「犯罪者は国境を越えて逃げている。撲滅には国際的な協力が不可欠だ」と訴えた。

詐欺拠点内部の独房とみられる部屋=2026年4月、タイ・チョンチョム近郊(共同)

詐欺拠点の建物と焼け焦げた車=2026年4月、タイ東北部チョンチョム近郊(共同)

詐欺拠点内部にあったブラジル警察の施設セット=2026年3月、タイ・チョンチョム近郊(共同)

詐欺拠点内部にあった中国警察の施設セット=2026年3月、タイ・チョンチョム近郊(共同)

詐欺拠点内の診療所とみられる建物=2026年4月、タイ・チョンチョム近郊(共同)

詐欺拠点内に並ぶ飲食店とみられる建物=2026年4月、タイ・チョンチョム近郊(共同)

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