最高の月9「ロンバケ」の「幻の最終回」とは…キムタクと山口智子が迎えるはずだった「悲劇的な結末」の中身
元フジテレビの演出家・永山耕三氏が語る、ドラマ『ロングバケーション』の制作秘話。なぜ「ロンバケ」は「最高の月9」とされるのか。
【前編を読む】「木村拓哉ファン」の犯行か…「聖地となったマンション」への空き巣で盗まれたもの
「バッドエンド」のはずだった
主な舞台となった瀬名の住むマンション・通称「瀬名マン」の前の川沿い、川面に乱反射する陽射しをバックに、二人は「南!」「はい」「南!」「瀬名!」と、互いの名前を呼び合い、そして抱きしめ合う。「一緒にボストンに行こう。……はい、って言わないとチューするよ」。BGMに流れる久保田利伸の『LA・LA・LA LOVE SONG』。二人は熱い口づけを、何度もかわす―。
ラストシーン。約束を果たした二人が、西洋風の街並みを、純白のタキシードとウエディングドレス姿で疾走する場面で物語は幕を閉じる。
だが、北川悦吏子が永山氏にはじめに提案した最終回の内容は、まったく違っていた。
「瀬名はコンクールに優勝せず挫折する。南も、故郷の岐阜に帰って「ミス長良川下り」に戻る。そうして離れ離れになった二人を描くというのが、当初のアイデアでした」
そうじゃないでしょう―永山氏は、悩める脚本家を叱咤激励する。「この物語は、ハッピーエンドじゃないといけない」。根気強く説かれた北川が、椿山荘(東京都文京区)で一晩で書き上げたのが、あの最終話の決定稿だった。
ただし、南と瀬名が名前を叫び合い、愛をたしかめるクライマックスの場面は、北川の脚本ともまた違っている。
木村拓哉と山口智子の心の底から出た名演技
永山氏が、撮影当日をこう述懐する。
「多忙を極めていた拓哉のスケジュールは、半日しかなかったんです。うまいこと晴れてくれて、奇跡みたいに水面の輝きが映ってくれた。
あの日、北川さんの脚本をもとに、本番前に主演の二人と話し合いました。こんな時って、『愛してる』とかの言葉にするんじゃなくて、お互いの名前を呼び合うだけでいいよね。日本のドラマってキスしてくっついて終わり、が多いけど、この二人はそうじゃない。ディープキスもムードに合わない。幸せそうに、何度もキスするのがいいんじゃないか、と話しました」
本番。木村拓哉は、瀬名ならそうするであろう自然さで山口智子を抱えあげはしゃぎ合い、南と何度も楽しそうにキスを交わした。「拓哉と山口智子が、内面から自然と生み出した芝居でした」(永山氏)。
元々は、このキスシーンがドラマの最後を飾るはずだった。しかし、最終回の撮影中に「やはり、エピローグが欲しい」と考えた永山氏は急遽、二人がボストンで結婚式を挙げるシーンの追加撮影を決める。ただ、木村拓哉のスケジュールに空きはまったくない。
「SMAPが新曲『青いイナズマ』のプロモーションビデオをロンドンで撮ることが決まっていて、そのための拓哉の滞在と、最終回である6月24日が重なっていた。ならば、ボストンではなくてロンドンでいいから、当日に撮影してすぐ放送しよう、と」(永山氏)
降りかかるアクシデント
日本でのクランクアップから10日後。現地ロンドンに、山口智子とフジの演出家・鈴木雅之らスタッフ約10人が赴いた。永山氏は東京で映像を受け取り、編集する立場だ。
撮影前日、南がウエディングドレスを纏うとき頭に被るベールが紛失するというトラブルも起きた。美術スタッフは、ホテルの了解を得て、客室のカーテンを裁縫して急ごしらえで用意している。
「ウエディングドレス姿で街を走るシーンでラストを締めくくったのは、第1話冒頭で婚約者に逃げられた南が白無垢で東京の街を走るシーンと対比させるためでした」(永山氏)
竹野内豊、松たか子らが二人を待つ教会のシーンは事前に日本国内で収録していた。最終回の当日早朝、ボストンという設定のロンドンの街なかを結婚式へと急ぐ瀬名と南を撮影、衛星中継で東京フジテレビのマスタールームへ送り、永山氏が約2分間のシーンに編集、放送準備を整えた。
その場面の収録後、当日朝から木村拓哉と山口智子は生中継でフジの情報番組に出演、期待感を高めた。そして、21時の放送開始と同時にロンドンに生中継が繋がれ、SMAPが登場、5人による前フリを経て、『ロンバケ』最終回は放送される。ラストシーン、チャペルへと走る瀬名と南を映しながら、伝説のドラマは幕を閉じた。
最終回の瞬間最高視聴率は、43・8%にも上った。
「演出家の私としてもこれ以上ないほどの出来のドラマだったと思いますし、山口智子という役者も、同じ思いだったんじゃないかな」
露と消えた続編・ボストン編
永山氏は、撮影中に山口智子が「もう、これ以上はないかもしれない」と漏らすのを聞いている。クランクアップ後には彼女から、こう書かれた手紙を受け取った。
「南を愛してくれて、ありがとう」
そして『ロンバケ』の終了後、山口智子は8年もの間、新作に出演しなかった。「やりきった感覚が、本人にあったのかな」(永山氏)。
社会現象となった『ロンバケ』に、続編の構想はなかったのだろうか―。永山氏に訊ねると、「プロデューサーの亀山(千広)と、北川さんとそんな話をしたこともありましたね」と微笑んだ。
「瀬名と南が、ボストンに移住した後の話。瀬名はボストンでリサイタルをするのだけれど、南が病で倒れてしまう。そこに奥沢涼子(松たか子)や、瀬名の教え子だった貴子(広末涼子)が成長しピアニストとして物語に絡んできて……なんてね。今の時代だったなら、映画化なんて話もあったかもしれないけれど」
しかし、続編が作られることはなかった。亀山は同じ時期に仕込んでいた『踊る大捜査線』('97年)にかかりきりになり、永山氏も新たな作品づくりへと向かっていた。
永山氏は、かつて手掛けたあのヒット作でやり残したことを果たすために、月9ドラマとして異例の「続編」づくりにとりかかっていた。
取材・文/伊藤 達也(ライター・編集者)
「週刊現代」2026年6月22日号より
【もっと読む】演出家が明かす、モンスターヒットドラマ『ひとつ屋根の下』主題歌に『サボテンの花』が選ばれた経緯

